最古の霊長類の全身骨格化石が発見された!- 中国で発見されたメガネザルの仲間の化石
最古の霊長類の全身骨格化石が発見された!-中国で発見されたメガネザルの仲間の化石
最古の霊長類の全身骨格化石が発見された!という報告が、先月6月に科学雑誌ネイチャーに報告されました。中国の地層で発見されたそうです。発見した研究チームは、発見された化石の「かかと」の特徴からギリシャ神話の勇者“アキレス”の名に、「最初の長い尾のサル」という意味を加えて「アーキケブス・アキレス」と命名したそうです。
広い意味で我々人類の仲間である霊長類。今回のホットニュースでは、最古の霊長類の全身骨格化石が発見された!ということで、興味深いその化石の発見について研究活動の周辺を含めじっくり見てみましょう
画像キャプション:CT断層画像をもとに復元したアーキケブス・アキレスの化石
<画像提供:中国科学院古人類及古脊椎動物研究所(IVPP)倪喜軍博士>

霊長類はどのように研究されているのでしょうか?
現生霊長類の分類では、従来はキツネザル・アイアイ・ロリス・メガネザルなどを総称して「原猿」<げんえん>として、新世界ザル(中南米のサル)や旧世界ザル(ニホンザルを含むオナガザル類)と、ヒトに近縁な類人猿(ホミノイド)をまとめて「真猿」<しんえん>とされていましたが、その後の分子系統解析などにより、「原猿」の中でもメガネザルはむしろ「真猿」に近いことが示されるようになりました。
そこでかつての「原猿」からメガネザルをのぞいたものを「曲鼻猿類」<きょくびえんるい>として、「真猿」にメガネザルを加えたものを「直鼻猿類」<ちょくびえんるい>とする分類区分が提唱されました。「真猿」のまとまりは今も有効ですが、「原猿」は単系統群ではないということで有効でないとされるようになっています。
真猿の起源をめぐっては、現生のキツネザルなどに似た化石霊長類グループの「アダピス類」と、現生のメガネザル似の化石霊長類グループの「オモミス類」の、どちらが祖先にあたるのかについて、長年の間、統一見解が得られていませんでした。
2009年にはドイツのメッセルで見つかっていた大変保存状態のよい霊長類全身化石が、「人類へつながるミッシング・リンク」だとして、大きな話題となりました。「ダーウィニウス・マシレァェ(Darwinius masillae)」と命名された約4700万年前のこの化石は、体長が60cm程度と比較的大型で、顔面や歯、足の特徴などから、「アダピス類」に属するものと判断されました。ところがこの化石が現生キツネザルの特徴である「カギ爪」と「櫛状の切歯」を持たないことから、そもそもアダピス類が現生キツネザルの祖先ではなく、真猿類の祖先を含むグループの一員として位置づけられる、との結論が提示されました。
しかし専門家の間では、論文の著者らの分析方法や結論に対する疑念も強く、また論文発表日に合わせて関連するドキュメンタリー本が発売され、テレビ番組も放映されるなど、メディア向けの宣伝が行き過ぎた感も強く、あまり歓迎されませんでした。この資料は約4700万年前という古さにしては例外的に保存が良く、資料そのものの重要性は誰も否定しないのですが、「売り出し方」が少々やりすぎであったようです。
研究結果がイギリスの科学雑誌ネイチャーに掲載されました!

画像キャプション:森で餌をとるアーキケプスの想像図
<復元画像提供:中国科学院古人類及古脊椎動物研究所(IVPP)倪喜軍博士>
今年6月5日に、真猿の起源に関連するあらたな化石資料についての研究結果が、イギリスの科学雑誌ネイチャーに発表されました。日本国内ではそれほど大きな話題とはなりませんでしたが、一部の新聞などに記事が掲載されましたので、ご覧になった方もおられることでしょう。この研究は、中国・北京の中国科学院古人類及古脊椎動物研究所(IVPP)の倪喜軍(NI Xijun)博士らの研究グループによるもので、中国・湖北省で10年前に発見されていた、約5500万年前の霊長類全身骨格化石資料の分析結果が報告されています。体長10cmほどの小型の霊長類の全身骨格からなっていて、非常に保存状態が良いため細かな特徴まで観察することができました。「アーキケブス・アキレス(Archicebus achilles)」と命名されたこのサルは、全体的な特徴からオモミス類と同定されましたが、かかとの骨の形などに真猿類的な特徴も見られるので、それにちなんで種小名は「アキレス」となったのだそうです。
この化石資料を研究するにあたり、倪博士は化石をフランスのグルノーブルまで持っていき、シンクロトロン放射X線によるマイクロCT装置で断層撮影して復元を進めたということです。なにしろ化石は非常に小さいですから、病院にあるような医療用CT装置ではあまり役に立ちませんし、工業用のマイクロフォーカスX線CT装置でも解像度は十分でなかったようです。シンクロトロン放射X線によるCTは、歯のエナメル質の組織構造まで見えるとも言われるように、非常に精密な断層画像が撮影可能です。この小さな化石霊長類の分析にとっても、強力な助っ人となりました。
こうして得られた情報を含めて、なんと約1200もの形態学的な特徴を評価し、これを156の現生・化石霊長類等と比較して系統解析をしたところ、このアーキケブスはオモミス類や現生メガネザルを含む系統の基幹に近い位置にいることがわかりました。真猿類のオモミス起源説を指示する有力な証拠と考えられます。ところがアーキケブスはメガネザルの遠い祖先であるにもかかわらず眼がそれほど大きくないため、現生のメガネザルのような夜行性ではなく、昼行性であっただろうと推測されています。5500万年前にはすでにメガネザルグループと真猿類が分岐しており、なおかつ真猿類の祖先も昼行性であったことを示唆する研究結果として注目されます。
関連の常設展示を見てみよう!
当館人類研究部の河野研究主幹は、ちょうど6月の論文発表時に、北京のIVPPに出張中でした。たまたまですが論文が公表された当日の晩に倪博士らと食事を共にすることになり、10年越しの研究の苦労話なども聞くことができました。その2カ月前にIVPPを訪問した際には、倪博士がアーキケブスの復元画を自ら描いているところを目撃しました。そのときは何の復元画かは知りませんでしたが、倪博士が「研究者でありながらアーティストでもあるのは難しい」などと話していたことを記憶しています。偶然とは言え新発見の現場の興奮に居合わせるのはなんともうれしいことでした。
このように霊長類についての大きな発見が報告され、人類学に興味を持った方も多いのではないでしょうか。国立科学博物館の地球館地下2階には、人類の進化についての常設展示があります。9.人類の進化のコーナーです。骨格の展示や、復元画などで解説がされています。じっくりご覧いただき、興味関心を是非深めてみましょう。

監修・執筆協力
国立科学博物館 人類研究部 人類史研究グループ 研究主幹 河野礼子
京都大学霊長類研究所 教授 高井正成

藤田 敏彦(ふじた としひこ)
動物研究部長
海生無脊椎動物研究グループ