珍奇なツリフネソウをミャンマーで発見!

珍奇なツリフネソウの新種を発見!

珍奇なツリフネソウの新種を発見!

左:ツリフネソウが発見されたビクトリア山は、ミャンマーの西部に位置するアラカン山脈から続くチン丘陵の最高峰である。
右上:新種のツリフネソウImpatiens kingdon-wardii。A:草丈は30-50cmくらい。B:花の拡大。矢印の部分に棍棒状の突起がある。C:花の正面。D: 棍棒状の突起の実体顕微鏡写真。スケールは0.5mm。
右下:ビクトリア山の標高1600mの沢沿いに群生していた。

イギリスのプラントハンター、キングドン・ウォードの調査以来、調査研究に半世紀の空白の時間があったミャンマーのビクトリア山で珍奇なツリフネソウの新種を発見しました。

このツリフネソウは、ピンク色の側萼片が毛の生える円形で、雪洞(ぼんぼり)のようなつぼみをつけます。開花すると2枚の側萼片が左右に花の上に開いた状態になり、マウスの耳のようです。花弁には棍棒状の突起がありますが、何のためなのかはよくわかっていません。今回発見した種は形態的研究から明らかにツリフネソウの一種で、ツリフネソウ亜属Uniflorae 節に属する新種と判明しました。ほかのツリフネソウの花には、このような突起があるものは知られていないようです。

しかし、ビクトリア山を最もよく調査したフランク・キングドン・ウォードがもしかしたらこの植物の標本をすでに採集していたかもしれないと思い、彼の標本を収蔵するロンドンの大英自然史博物館で調査を行いました。するとやはり、1点だけ本種の標本が採集されていましたが、そのラベルには学名はなく、またその後研究された形跡もなく、静かに大英自然史博物館の標本庫に眠っていたようです。そこで、キングドン・ウォード卿に種小名を献名し、この新種をインパティエンス・キングドンウォーディイImpatiens kingdon-wardiiと名付けました。半世紀前に活躍したプラントハンターの名前がついた最新の種になります。

この新種は世界自然保護基金(WWF)の東南アジア大陸部から発見された新種生物の“New Species Report 2015 - Great highlight among the new discoveries”に選ばれ、WWFのホームページでも紹介されています。

東南アジア最後の生物多様性フロンティア

東南アジア最後の生物多様性フロンティア

ミャンマーは南北に長い国土に多種多様な環境が存在し、生物多様性が高いとされている。
左上:チンドウィン川流域に広がる熱帯林。右:チン州ビクトリア山国立公園の標高2,800mの雲霧林。左下:半島部メイの沿岸部に広がる広大なマングローブ林。

ミャンマーの国土は日本の約1.8倍あり、南北に細長く、一国にして多種多様な自然環境が存在します。南はアンダマン海に浮かぶ無数の島からなるメルグイ群島、半島部の沿岸域に広がる広大なマングローブ林から、北は東南アジア最北にして最高峰と言われる標高5,881mのカカボラジ山が雪をいただいてそびえ立ちます。そんな自然環境に恵まれたミャンマーは、生物多様性が極めて高いと推測されていますが、国の情勢などの影響から生物調査には長いこと空白の時間が存在したため、「東南アジア最後の生物多様性フロンティア」と呼ばれています。

ビクトリア山

ビクトリア山

ビクトリア山は英領時代に名付けられたが、もともとナマタウンという現地名がある。標高3,050mのビクトリア山はアラカン山脈の北へ続くチン丘陵の最高峰。

ビクトリア山は、ミャンマーの西部、アラカン山脈の北に続くチン丘陵の最高峰の山で、現地名でナマタウンと呼ばれています。なお、ビクトリア山で最初に植物の採集を行ったのは、植物画家としてもコレクターとしても知られるシャーロッテ・イザベル・ウィーラー・クフCharlotte Isabel Wheeler Cuffeだったと考えられています。1911 年にビクトリア山を調査し、シャクナゲ類をアイルランドのグラスネビン植物園に送ったという記録があります。ちなみにビクトリア山から採集され、記載されたロドデンドロン・クフェアヌムRhododendron cuffeanumは、彼女に献名されたものです。また、もう一人、ビクトリア山の調査で有名なプラントハンターがいます。それが、フランク・キングドン・ウォードFrank Kingdon-Wardです。彼は、英領時代と1950年代にビクトリア山の調査を行い、その植生についてのレポートを残しています。

ミャンマーの生物インベントリー開始!

ミャンマーの生物インベントリー開始

左上:現役で活躍する昭和38年式日野TH型ボンネットトラック。生物多様性の研究と同じく時が止まってしまったような風景だ。 右:野外で植物のデータを取りながら標本を作製する。 左下:特注した軽量アルミ板でできた標本乾燥フレームを現地に運び、ベースキャンプに設置する。下にケロシンストーブを入れてその熱で乾燥させる。

国立科学博物館では昨年ミャンマー天然資源・環境保全省の林業局と国際共同研究の協定を締結し、同国の調査が十分でない地域での植物、菌類、地衣類、動物のインベントリー調査を開始しました。2016年は、これまで入域が制限されていた半島南部のメイ、タニンタリーを中心にして調査を行いました。少し調査しただけでも、これまで記録がなかった種類や新種ではないかと考えられるものがすでに複数見つかっています。

一方で、ミャンマーはインド・ビルマホットスポットとも呼ばれ、生物多様性が非常に高い地域でありながら、環境の劣化が進んで来ている地域でもあります。そのため一刻も早い保護政策と未踏査地域での調査が必須となっています。総合研究でこれから調査が進むに連れて、今回のツリフネソウのような珍奇な生物がさらに発見されることが期待されます。

<執筆・監修>
 国立科学博物館 植物研究部 陸上植物研究グループ 研究主幹 田中伸幸

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