未知なる花を探る~東南アジアのフロラ調査

田中 伸幸(たなか のぶゆき)
動物研究部
陸上植物研究グループ
植物分類学には、大きく分けてフロラ(植物相)研究とモノグラフ(種属誌)研究があります。前者は、ある地域に存在している植物をすべて調べ上げてまとめること、つまりインベントリー調査です。一方、後者は、特定の種属についての分類体系をまとめる研究です。
私はモノグラフ研究においてはショウガ目を対象にして行っていますが、今回はフロラ研究について紹介します。主なフィールドは、フロラの解明が著しく遅れているにもかかわらず、森林環境の破壊が進みつつある東南アジアのミャンマーです。ここでのフロラ調査では、未踏査の ャングルへ分け入っては目にした植物をすべて採集し、現地で標本にして持ち帰り、博物館の研究室や実験室で形態や遺伝子情報を用いてその植物が何であるかを調べ ます。その際、新種が発見されれば学名を付けて発表します。このように分類研究というものはフィールドとラボの2本立てで行われます。
地球上の植物については約3分の2が熱帯に分布して いると言われています。しかし、植物の種類の多さに比べて分類学者の数が不足しており、東南アジアの植物相はいまだ解明にはほど遠い状態です。まだ見ぬ花にはどんな有用性があるかわかっていないため、世界の分類学者が連携して調査研究を急ぎ、未知なる植物が人間にその存在を知られないままこの地球上から消えて行くことを、次世代のためにも防がなければなりません。
ミャンマー北部から発見されたシュウカイドウ科の新種。Begonia kachinensis Nob.Tanaka & Hayami
中国・西双版納の固有種として発表されたショウガの一種、
Zingiber flavomaculosum S.Q.Tongもミャンマーのほぼ全域に分布していることがわかりました。未踏査地域の調査により植物のこれまでの分布も塗り替えられます。
ミャンマーの標高2,600mの雲霧林の樹幹に着生する小さなアカネ科の新種。Argostemma victorianum Nob. Tanaka研究者に 聞いてみました!
1) 専門は何ですか
種子植物の分類学です。特に、ショウガ目の多様性の研究と、アジアで最も植物の多様性が高い東南アジアをフィールドにしたフロラ(植物相)の研究を行っています。
2)これから取り組んでみたい研究は
私たちの食べているショウガの仲間、つまりショウガ属はアジアにいったい何種ある のか、解明してまとめたいと思っています。
3)自身の研究内容と社会、一般との接点は
私が特に調べているショウガ科は、香辛野菜や薬用、観賞用などとして人間に有用な種を多数含んでいます。また、インベントリ ーで種の多様性をさらに明らかにすること は、潜在的な有用種の発見につながると考えられます。
4)研究者になるために一番大事だと思うことは何ですか
一番大切なことは、広い視野をもつということだと思います。固定観念を捨て、発想 の転換ができること、広い視野でものを考えることが研究の発展につながるでしょう。
タモ網を使用して木本の標本を
採集中。柄の先には網ではなく鎌を取り付けたものを使う。落
ちてきた標本をキャッチするの
は隣にいる現地スタッフ。