速報:5月12日,中国四川省大地震 (協力:地学研究部 堤之恭)
四川大地震
2008年5月12日14時28分(日本時間同日15時28分),中国四川省ガパ・チベット族羌族自治州汶川県(北緯31度02分11秒,東経103度36分7秒)を震源とする地震が発生しました。震源の深さは10キロ,マグニチュード(M(※1))は8.0(当初発表7.8)でした。この地震による犠牲者は5月16日現在2万人を超え,被災地では今も救助活動,被災者への支援が続けられています。
「中国は地震の少ない国だと思っていた」,今回の地震に対してそんな驚きの声が多く聞かれます。しかし1976年に河北省で起き25万人近くの死者を出したとされる唐山地震をはじめ,中国内陸部でもM7クラスの地震が20~30年に1度起きています。
今回を含め中国内陸部での地震の主な発生原因のひとつとして考えられているのが,2枚の大陸プレート,ユーラシアプレートとインドプレートの衝突です。詳しくは次項でご説明しますが,今回の震源地を含め衝突帯の東側に位置する四川省から雲南省に掛けての一帯は「四川・雲南地震活動帯(南北地震帯)」と呼ばれ,巨大地震の発生地域として知られています。
今回のホットニュースでは,四川大地震の発生のメカニズム,および地震の揺れの特徴を中心にご紹介します。
なお被災地の状況や地震の科学的な分析は,現在も刻々と変化しています。ここでは5月16日(金)一杯までの発表・報道を取り扱いますが,最新の研究,被害状況などについては,関係研究機関あるいはマスコミ発表をご参照ください。
※1 地震が発するエネルギーを表すマグニチュードは,1935年,アメリカの地震学者,チャールズ・リヒターによって提唱されました。地震のエネルギーの対数をとったもので,マグニチュードが1増えるとエネルギーは約32倍(2増えると32の2乗で約1,000倍)になります。
四川省及び周辺地域で300年間に発生したM6.5以上の地震(平成20年度理科年表より抜粋)今回の地震の特徴(1)
四川大地震の震源域は,ユーラシアプレートとインドプレートという2枚の大陸プレートの衝突の境界付近に当たります。
インドプレートは1年間でおよそ5.8cmのスピードで北に動いており,ユーラシアプレートとの衝突はヒマラヤ山脈やチベット高原を隆起させたことでも知られています。
ユーラシアプレートに衝突したインドプレートはユーラシアプレートの下に潜り込もうとしますが,インドの北と西には巨大なユーラシア大陸が広がっているため,容易には潜り込むことができません。東側には硬い岩盤ブロックがありこちらも進むことができません。その結果余った歪みのエネルギーは,ヒマラヤ山脈の南東で大きく南に回りこんでいます。この力の回り込みに平行,および直交する形で断層帯が発達し,中国内陸部からヒマラヤ山脈東端に掛けての地域に巨大地震を引き起こす原因となっています。
東アジア地域のプレートと今回の震源
地震時に地盤に働く力の方向は,断層の形によって変わります。今回の四川大地震は,ひとつの地盤が他の地盤の上に押し上げられる「逆断層」タイプの地震でした。
東京大学地震研究所が地震波形や余震分布などを解析した結果,今回の地震は四川省を北東-南西方向に走る長さ約300キロメートルの巨大な竜門山断層の少なくとも一部が動いたことによるものと考えられています。
また,筑波大学の八木勇治准教授らの解析によれば,逆断層が動いたおよそ60秒後に断層の北側で地盤同士が水平にずれており,地震に関連した断層がふたつあった可能性も示唆されています。
このような複数の断層がほぼ同時に動いて大規模地震を起こす可能性は,日本でも駿河湾の東海地震と静岡沖の東南海地震,紀伊半島の南海地震で論じられています。
この竜門山断層の上に,余震の震源地と被害の大きい地域が集中しています。四川省の省都であり人口1千万人を超える成都市は,震源からの距離は約70kmで犠牲者はおよそ1000人,一方で断層上にある北川羌族自治県では,震源からの距離は約150kmですが7000人以上の犠牲者が出ています。被害の大きさは地盤の強度や建物の構造によって大きく変わりますが,震源となった断層からの距離が小さいほど被害が大きくなるのは地震一般についても言えることです。
今回の地震の特徴(2)
今回の地震発生からおよそ3分後,震源地からおよそ1500km離れた首都北京でも体に感じる地震がありました。日本の震度(※詳細次項)に換算すると震度時間は明確ではありませんが北京の南,天津市でもはっきりと知覚できる揺れ,更に南に下った南京や香港でも揺れを感じたとの報告があります。中国国内の新聞報道によれば,「国土の半分にも及ぶ範囲が揺れた」といいます。
これは今回の地震で発生した地震波のうち,表面波と呼ばれる成分によるものと考えられています。表面波は震源の深さが50km程度までと比較的浅い場合に発生しやすく,地殻内で何度も反射しながら伝わるため,距離が離れても揺れが小さくなりにくいという特徴があります。2004年の新潟県中越地震(M6.8,震度6強)などでも発生し,200km以上離れた東京で震度3を観測するなど広い範囲で体に感じる揺れがありました。中国では日本と比べて地殻が硬く平坦なため更に表面波が伝わりやすく,より広い範囲に揺れがもたらされることになったと考えられています。
日本では地震発生のおよそ5分後から,各地の地震計で体には感じられない程度の揺れが捉えられています。また,15時41分と17時45分頃・18時10分頃・20時15分頃・20時40分頃の計5回,周期が最大約2分の,同じく体に感じられない揺れが観測されました。
気象庁地震火山部の発表では,15時41分の揺れは震源地から直接届いた表面波であり,18時10分,20時40分のものはそれぞれ地球を1周,2周して到達したもの,また17時45分と20時15分のものは地球を逆方向に回って伝わってきたものであるとされており,今回の地震の激しさを物語っています。
外の地震報道を見聞きしたら:注意しておきたい「震度」の基準
今回に限らず海外で発生した地震では,震度の報道が全くないことや,仮にあっても「日本の震度で言えばおよそ幾つくらい…」という言い方を耳にすることがあります。今回の地震については,日本の震度で6強または7ではないかとの指摘が出されているとの報道が聞かれました。
私たちが日ごろ耳にする震度は,正式には『気象庁震度階級』といい,日本独自の尺度です。地震計だけが検知でき人間の体には感じられない震度0から,耐震性の高い建物でさえ破壊される可能性があり,地形が変形する場合もある震度7までで,更に5と6には強弱の2段階が設けられており,全部で10段階です。
かつては人間の体感を基準に定められていましたが,兵庫県南部地震などの大きな災害の際判定が難しく,発表が遅れがちとなった経験から,現在は揺れの加速度や周期,継続時間などから計算によって求められるようになっています。
これに近い震度を採用しているのが台湾で,5と6から強弱をなくした0から7までの8段階が使われています。
その他の多くの国で採用されている震度階級は,『改正メルカリ震度階級』といい,地表の構造物や人間への影響から,人間が判定しているものです。ほとんどの人が感じないI(きわめて弱い)から,あらゆるものが崩壊するXII(絶望的)までの12段階があり,今回の四川の地震についてはアメリカ地震情報センター(USGS)が現地の状況などから,最も大きい場所でVIII(きわめて強い)ではないかとの推定を発表しています。
(研究推進課 西村美里)