琉球の植物相はなぜ豊富?

種の多様性が高く、絶滅危惧種の集中する地域をホットスポットといいます。2005年、日本列島の全土が世界のホットスポットに指定されました。その日本列島のなかでも琉球列島は種の多様性が高い地域となっており、琉球列島の単位面積当たりの植物種数は九州以北の日本列島の約45倍といわれています。 その要因として「多様な環境」、「島特有の固有植物」、「チャンプルー植物相」の3つが考えられています。

多様な環境

琉球列島は南北に長く、青森から高知までの緯度差とほぼ同じです。その緯度差による温度の多様さに加え、豊富な雨による湿潤な森林と乾燥した海岸の隆起さんご礁などの光・湿度の多様さによって琉球列島には様々な環境がみられ、それぞれに様々な植物が適応分化して生きています。

沖縄島北部(やんばる)の渓流沿い
(撮影:横田昌嗣)

伊是名島

海で隔てられた遺伝子交流

琉球列島には多くの固有植物し、その形成には海による島の間の遺伝子交流の妨げ(島嶼隔離)が影響しています。

ダーウィンの進化論に登場し、多くの固有種で有名なガラパゴス諸島のように一度も大陸と陸続きになったことのない島を「海洋島」といい、琉球列島(大東諸島を除く)のようにかつて大陸と陸続きであった島を「大陸島」といいます。 一般に、かつて生物が陸伝いに渡来できた大陸島では固有種は多くありませんが、中琉球のように古くから島嶼隔離を受けてきた大陸島では多くの固有種が分化したと考えられています。

チャンプルー植物相

沖縄にはチャンプルーという料理があります。豆腐やソーメンなどいろいろな種類の具材をまぜた野菜炒めの方言で沖縄を代表する家庭料理です。もともとチャンプルーとは「混ぜる」という意味で日本本土、中国などの文化が混ざり合った琉球文化はチャンプルー文化とよばれています。

琉球列島の植物相は日本本土、台湾、中国大陸、フィリピン、東南アジア、オーストラリアなど様々な地域由来の植物が混ざり合っているチャンプルー植物相といえます。

 1. 日本本土からきた植物たち
琉球列島が日本本土と陸続きであったころ、地球の寒冷化にともなって多くの温帯性植物が琉球列島に南下してきました。その後、北琉球と中琉球の間にトカラ海峡が形成されると、隔離された琉球列島で多くの植物種が独自の分化をはじめました。

ヤマグルマ(ヤマグルマ科)

 2. 台湾からきた植物たち
北琉球を除く琉球列島と最後まで陸続きだったのは台湾です。特に南琉球は約2万年前に台湾と離れたばかりで、低地の気候も似ているため多くの共通種がみられます。また、台湾は中国大陸、インドシナ、マレシア地域から琉球列島に渡来した植物の通り道ともなりました。

サクラツツジ(ツツジ科)

 3. 中国からきた植物たち
琉球列島と中国にしか分布しない植物、つまり隔離分布をする植物が知られています。これらの植物については、かつて東アジアに広く分布していましたが琉球列島だけに生き残った場合と、風や鳥の散布による進入あるいは琉球列島が大陸の一部であった時代に古揚子江などを通って中国から琉球列島に直接進入した場合の2つが考えられます。

リュウキュウツルマサキ(ニシキギ科)

 4. マレーシアからきた植物たち
琉球列島にはフィリピン、インドネシア、マレーシアなどマレシア地域から渡来した植物が分布しています。その多くが海流散布や渡り鳥によって運ばれました。

ミズビワソウ(イワタバコ科)

 5. インドシナからきた植物たち
琉球列島には現在のインドからインドシナ半島にかけての地域を起源とする植物も分布します。これらの多くが陸伝いあるいは鳥や海流の散布によって琉球列島に渡来しました。

ハナシテンツキ(カヤツリグサ科)
(撮影:横田昌嗣)

 6. オーストラリアからきた植物たち
琉球列島には近縁種が台湾やフィリピンなどの近隣地域をとび越してオーストラリアに分布する植物が知られています。なぜそのような隔離分布をするのかはっきりとした理由はわかっていませんが、渡り鳥や海流による種子の散布が考えられています。

マルバハタケムシロ(キキョウ科)