鳥たちにも「流行」がある!? つがい相手選びと性選択 (協力:動物研究部 西海功)

毎年変わるメスたちの好み

2月14日はバレンタイン・デーでした。男性の皆さん,意中の女性からチョコレートは貰えましたか?
贈り物で,ことばで直接伝えたり,いつもよりおしゃれをしたり教養を磨いたりして好きな人に選んで貰えるように努力をしたりと,私たち人間の恋の表現はとても複雑です。
相手を気に入る理由も様々。一番大切なのは顔だという人もいるでしょう。顔よりも性格の良い人がいい,という人もいるでしょう。筋肉のある人がいい,運動のできる人がいい,勉強のできる人がいい,お金のある人がいい…
好まれる顔にも流行り廃りがあります。平安時代の絵巻物や江戸時代の浮世絵・美人画を,今流行のイケメン,グラビアアイドルと見比べてみると,各時代で好まれる顔が全く違っていることに気づかれることでしょう。

実はこのような『好みの違い』や『好みの流行り廃り』は,人間だけの特徴ではないことが最近わかってきました。
アメリカ,カリフォルニア大学サンタクルズ校のA. S. Chaineらのチームは,アメリカ大陸中西部・グレートプレーンズに生息する小型の渡り鳥,カタジロクロシトド(※1)を5年間に渡って観察し,メスがつがいの相手として好むオスの身体の大きさや色,模様など,外見の特徴を調査しました。その結果,メスがつがいの相手に求める「見た目」の条件が年ごとに大きく変化したこと,メスは良い縄張りを持っているかどうかや健康かどうかなどの条件よりも,その年流行の見た目かどうかを重要な基準としてオスを選んでいるらしいことが示唆されたのです。

カタジロクロシトドカタジロクロシトド(Calamospiza melanocorys)成鳥,オス
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 これまで,鳥のメスは常に同じ基準でオスを選択していると信じられてきました。例えばインドクジャクでは尾羽(上尾筒)がより長く,目玉模様の数の多いオスが選ばれ,多くの子孫を残すことができます。この「好み」は長期に渡って変わらず,その結果インドクジャク全体として,オスの尾羽はより長く,目玉模様はより多くなっていったと考えられます。
一方の性(多くの場合メス)につがいの相手として好まれるかどうかでもう一方の性の外見的特徴が変化していく ― これは進化論の重要な概念のひとつ,性選択(性淘汰 ※2)の1つの現象です。 カタジロクロシトドのようにメスの好みに「流行り廃り」があることは,その生物の外見的特徴にどのような影響を及ぼすのでしょうか?クジャクのような「安定した好み」を持つ生物と比較した,柔軟な性選択の効果を紹介します。

※1 カタジロクロシトド(Calamospiza melanocorys)はホオジロの仲間の渡り鳥で,アメリカ西部・コロラド州の平原,丈の低い草地で繁殖します。体長は14~18センチ,羽を広げると28センチ,重さ30~50グラムと,スズメより少し大きい小鳥です。メスは灰味がかった茶色,オスは黒い羽に白い斑模様があるのが一般的ですが,オスの色の濃さはメスに似た灰色から真っ黒まで様々で,また模様の大きさや形も1羽1羽違います。嘴は短く,太く青みがかっていますが,この大きさも個体によって様々です。

※2 ここに登場した鳥たちを含めて多くの生物種では,種内のオス,メスの個体の数やオスメスそれぞれが異性とつがうことができるチャンスは同じではありません。メスの方が数が少ないことが多く,しばしばオス同士の間で交尾の機会をめぐる争いが起こります。
シカやセイウチなどのように実際にオス同士が角や牙で直接争うこともあれば,クジャクの羽や一部の鳥の鳴き声のように,より美しいオス,良く目立つオスをメスが選択する場合もあります。この結果前者では強いオス,後者では美しい,目立つオスが多く子孫を残し,その特徴が子に引き継がれて顕著になっていったとするのが性選択の考え方です。

参考:A. S. Chaine, B. E. Lyon, Science 25, 459 (2008)

カタジロクロシトドの柔軟な配偶者選択とその影響

カタジロクロシトドの繁殖・子育ては,オスがメスを誘うための縄張りを草原につくるところから始まります。
オスは縄張りを訪れたメスとつがいとなって繁殖しますが,縄張りをつくることのできたもののうち多いときには45%ものオスがメスの獲得に失敗することもあります。その一方で,自分の縄張りも持ちながら,産卵前のメスがいる他所のつがいに数羽のオスのグループをつくってついて回り,交尾に成功するオスもいます。つがいのオスはそのような他所者オスの集団をしぶしぶ受け入れており,明確な攻撃を向けることはほとんできないのです。この結果,1羽のメスからはしばしば,「つがいのオスの子」と「つがい以外の子」の両方のヒナが生まれることになり,多くの子を残せるオスとほとんど子を残せないオスができることになります。どのようなオスが子を多く残すかはメスの好みと関連があると思われます。

今回の調査は1999年から2003年の5年間,コロラド州東部のポーニー国立草原で行なわれました。48ヘクタール(最後の2年間は80ヘクタール)の調査区域内でカタジロクロシトドの成鳥を捕獲し,識別用の足環をつけて放しました。
捕獲は年間を通して行なわれ,縄張りの成立から子育ての終わりまでの期間のオスの行動が調査されました。
オスがメスとつがいになったかどうかは,卵が生まれたかどうかやヒナに餌を運ぶ姿が見られるかどうかで判断できますが,それ以前に以下の4つの条件のうち,3つ以上を満たす行動がみられた時もつがいになったとみなしています。1)何日もの間特定のメスとだけ親密に過ごしている。2)2羽の間で自発的な交尾が見られる。3)オスが縄張り内でのほかのメスへのアピールを止めてしまう。4)メスに近づく他のオスに対して,オスがはっきりとメスを守ろうとする態度を見せる。
また,成鳥と巣内にいる巣立ち直前のヒナから血液を採集し,DNAによる親子鑑定も行なっています。

オスの外見の特徴のうち,羽について5項目(色,尾の部分の羽毛の黒と茶色の比率,尾以外の部分の羽毛の黒と茶色の比率,斑模様の大きさ,斑模様の色合い),大きさについて3項目(身体の大きさ,嘴の大きさ,体重)に注目し,どの特徴を持つオスがより多くのヒナを巣立たせることができたのか,つまり繁殖に成功したのかを比較しました。
すると1999年には嘴がほどほどに大きいオスが繁殖に成功していたのに対し,2000年には斑模様の大きいオスが好まれ,2001年には尾の部分の黒い羽が茶色の羽に対して多いオスが,2002年にはまた嘴の大きいオスが,2003年には全身の羽の黒いオスが,というように,多くの子孫を残せるオスの特徴が年々変化していることがわかりました。
同じくどのような特徴のオスが,つがいの相手を得ることができているかについても調べたところ,こちらもほとんど同じ傾向が見られました。
特徴ごとにつがい相手としてメスに選ばれたかどうかを見てみると,例えば全身の羽の黒さでは,1999年から2001年ではメスの選択にほとんど関わってきませんが,2002年にやや重要になり,2003年には最も重要な基準にまでなっています。また斑模様の大きさでは,2000年には大きいオスが好まれていますが,2002年には逆に小さいオスが好まれ,他の年には選択の基準になっていません。

縄張りを持っているオスについては,オスの外見そのものが気に入られてメスに選ばれたのであり,縄張りの環境的条件のためではなかったことを確認しました。
また1度子を巣立たせることに成功したメスも,翌年には全く違うタイプのオスを相手として選んでいることも判りました。自分の経験から学んだはずの,前の年以前に繁殖・子育てに向いていたオスよりも,その年流行りの外見のオスを選択しているようなのです。

多くの子を育て上げることのできるオスの外見的特徴は,毎年変化していますが,メスたちはそのような特徴を持つオスを巧く見分けてつがい相手に選んでいたのです。

このようなメスの柔軟な相手選びは,カタジロクロシトドという生物種全体にとってどのような意味を持つのでしょうか?メスが様々なオスを選択した結果,様々な特徴を持つオスの遺伝子が保存されることになります。種の中の遺伝子多様度が維持され,何らかの極端な特徴だけが残されることはなくなります。クジャクなどではメスの好みが偏るあまり,オスの外見的特徴は目立つ以外の役に立たず,生きる為には却って不利なほど極端になってしまうこともあります。メスの好みが変わることで,このような「行き過ぎ」が防がれているのかもしれません。
逆に言えば,メスが様々な特徴のオスを選ぶおかげで,オスの多様な外見的特徴が保たれ,また進化したということもできるのです。

インドクジャクの配偶者選択と外見的特徴の極端な発達

進化論の提唱者として名高いチャールズ・ダーウィンは,クジャクの尾羽(上尾筒)のあまりの長さ,目玉模様の派手さを前に悩んでいました。その時彼の考えの基本となっていたのは「自然選択」,つまり,より生存に適した外見を持つ個体や行動を取れる個体が生き残り,子孫を残すことができるという適者生存の考え方でした。
クジャクの尾羽は長過ぎて,餌を探したり天敵から逃れたりする為に動き回るにはあまり有利とは言えません。目立ちすぎて天敵に捕食されてしまうこともあります。
オスの尾羽だけが長く派手で,メスは短く地味である理由も自然選択だけからでは説明できませんでした。

クジャクの雄クジャクのオス ©mumbo

自然選択を説いた『種の起源』出版から12年後の1871年,ダーウィンは新たな著書『人間の進化と性淘汰』の中でこの問題に触れ,クジャクのオスの尾羽は通常の生活には確かに不利でも,メスに対するアピールとしては有用であり,尾羽の長いオスの方がより多くの子孫を残せていると指摘しました。これが性選択(性淘汰)です。

しかし,性選択そのものにも謎は残ります。生存には不利であるかもしれない極端な外見を持つオスを何故,メスは好ましいつがいの相手として選ぶのでしょうか?
1つの仮説は,長く派手な羽を持つことが,オスの力の証明になっているのではないか,というものです。長く派手な羽は生存の上では邪魔になりますが,邪魔なもの(ハンディキャップ)を抱えたまま生きていけるオスは,何も持たずに生きているオスよりも生きる力に優れている,ということになります。
このように,ハンディキャップが大きければ大きいほど力のあるオスとしてメスに選ばれやすくなる,とする仮説を「ハンディキャップ仮説」といいます。

一方で,メスが長く派手な羽のオスを好むようになったのは遺伝によるものだとする考え方もあります。数多くのクジャクのメスたちの中で,長い尾羽のオスを好むメスの方が短い尾羽のオスを好むメスよりほんの少しだけ多かったとします。このメスたちが子を産むと次の世代は,尾羽の長いオスの遺伝子と尾羽の長いオスを好むメスの遺伝子を受け継いだヒナが他より少し多くなります。このヒナたちは育ってそれぞれ,羽の長いオスと羽の長いオスの好きなメスになります。羽の長いオス同士でも,少しでも長いオスの方がメスに好まれるため世代を繰り返すごとに羽はどんどん長くなりました。こうして今ではクジャクの羽は,生きていくのに邪魔になるほどの長さになった,というのです。

遺伝によってメスの好みとオスの外見的特徴が極端に偏っていく,というこの仮説を「ランナウェイ仮説」といいます。
ランナウェイ仮説ではメスに好まれる外見は,オスの強さや環境への適性などとは関係ありません。ごく初期の頃にはもしかしたら,羽の長いオスを好むことに何らかのメリットがあったのかもしれません。しかしそのメリットが失われても,1度始まった「偏り」は修正されることはありません。クジャクの尾羽が今後短くなるとすれば,長い尾羽を持つことによる生存へのデメリットが,メスを得られるメリットよりも大きくなった時になるでしょう。

科博からのお知らせ

国立科学博物館では3月18日(火)から6月22日(日)の約3ヶ月間,上野本館地下1階特別展会場にて特別展『ダーウィン展』を開催します。

イギリスの自然科学者チャールズ・ロバート・ダーウィン(1809~1882)は,1831年,測量船ビーグル号に乗船,世界一周の航海に出ました。この途上1835年にガラパゴス諸島に立ち寄り,島ごとに少しずつ甲羅の形が異なるゾウガメに興味を持ちます。
5年間に渡った航海の中でダーウィンは,後に進化論を考えつくためのヒントとなったと思われる,幾つかの重要なことに気がつきました。
例えば南アメリカ大陸を海岸沿いに移動していくと,生物が少しずつ近縁と思われる種に置き換えられていっていました。また同じく南アメリカで,その時代には生息していない大型哺乳類の化石と出会い,生物の絶滅を目の当たりにもしました。

当時ヨーロッパで広く信仰されていたのはキリスト教でした。聖書では全ての生物は神によって,創世記に記された特別な日に創造され,それ以降形が変わったり,新しい種が増えたりはしていないとされています。またノアの洪水以外の理由で,滅び去った種もいないとされます。
ダーウィンはビーグル号航海での観察を通じて,生物種の不変性に疑問を感じるようになりました。やがて種の分岐を辿る系統樹を描くなど,次第に「進化」という可能性に気づき始めます。
ビーグル号の帰還以降ダーウィンは,航海記録の出版のかたわら,標本の整理,研究を行ないました。また自らハトの品種改良を行なって種が変異することへの確信を深めています。そして帰還から20年以上が過ぎた1858年,ビーグル号の航海記を読んで興味を抱き,自らも東南アジアなどへ調査旅行に出ていたアルフレッド・ウォレスとの連名の形で自然選択説の論文を発表しました。
更にその翌年,進化論,自然選択説を纏めた『種の起源』を出版,忽ちベストセラーとなります。キリスト教界を中心に激しい反発を受けますが,博物学者たちの支持,証拠となる標本の提供などを受けて少しずつ社会的に受け入れられて行きました。

『ダーウィン展』ではダーウィンの生い立ちに始まり,ダーウィンの人生に大きく影響を与えたビーグル号の航海とその途上出会ったであろう生き物たち,また航海からの帰還から『種の起源』出版までの研究と苦難の日々へとダーウィンの軌跡を辿ります。
アメリカ・ニューヨーク自然史博物館で2005年から2006年に掛けて開催され,好評を博した展覧会の世界巡回展です。進化論と日本のかかわりなど,日本オリジナルの展示も予定しています。

また,地球館1階には,生命の誕生から現在に至る生物の系統進化の過程を,標本と映像で体感できる常設コーナー『系統広場』があります。
この機会に是非,ご覧ください。

(研究推進課 西村美里)

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