第9惑星再び!? -海王星の外側に新たな惑星の可能性 (協力:理工学研究部 西城惠一)
太陽系内に「新惑星」発見か?
「太陽系に第9番目の惑星が存在する可能性がある」こんなニュースが先月末,各誌に取り上げられました。一昨年惑星から除外されることになった冥王星(詳細3頁)が惑星に復活…という訳ではありません。冥王星は一昨年決まった準惑星のまま,全く別の新たな惑星が発見される可能性が出てきた,というのです。
「可能性」と繰り返しましたが,今のところこの「新惑星」が実際に観測・発見された訳ではありません。
神戸大学の向井正教授とパトリック・リカフィカ研究員が行なったコンピューター・シミュレーションによる「予言」で,質量は地球の3割から7割,直径は地球の8割強から1.3倍程度の氷惑星と推定されています。
太陽に最も近づく時(近日点)の太陽との距離は約80AU(※1),楕円軌道の長い方の半径が100AUから175AU,軌道は地球やその他の惑星の軌道(黄道面)に対しておよそ20から40度傾いていると考えられます。
仮想「新惑星」想像図 右上のぼんやりとした明るさの天体は太陽。
提供:神戸大学
現在仮に太陽に近づいた状態であるとすれば,明るさは14から18等程度と考えられます。これは15等の冥王星と比較しても,特別に暗いという訳ではありません。それでもこれまでこの「新惑星」を発見することができなかったのは,軌道の傾きが非常に大きいためだと研究グループは説明しています。
これまでの観測は主に,黄道面に近いところを中心に行なわれてきました。「新惑星」は黄道面から大きく離れているため,「新惑星」発見のためには探索の範囲を広げなければなりません。
アメリカなどを中心とした国際グループ等によって,太陽以外の恒星の周りを回る惑星や,太陽系内の新たな天体の発見を目的とした大規模な自動探査システムが現在計画されています。これが完成すれば今回の「新惑星」も,10年以内には実際に発見できるのではないかとの期待が高まってきています。
※1 AU(Astronomical Unit:天文単位)は,天文学で使われる単位のひとつです。太陽の周りを公転する地球の楕円軌道の長い方の半径の長さで定義され,約1億5000万kmです。
「新惑星」を予言したコンピューター・シミュレーション
今回の「新惑星」の存在の予言に至る,シミュレーションの背景をひも解いてみましょう。
海王星の軌道より外側の領域には,太陽系外縁天体(TNO)と呼ばれる小天体が数多く観測されています。これらの軌道や性質を詳しく調べてみると,TNOは大きく分けて4つのグループに分類できることがわかってきました。
第1のグループ,古典的TNOは軌道の長半径が海王星の軌道半径(30AU)よりも大きく,海王星の2倍以内の公転周期を持つ(長半径48AU未満)ものをいいます。
第2のグループは共鳴TNOといい,その天体の公転周期と海王星の公転周期の比を整数で表すことができる位置にあるものです。冥王星は海王星の1.5倍の公転周期を持っており,3:2の整数比で表すことができるためこのグループに属します。
第3のグループ,散乱TNOは,軌道の長半径が48AU以上でありながら,太陽に最も近づく時(近日点)の距離が37から40AUのものです。冥王星を惑星から降格させるきっかけともなった,冥王星より半径が大きいと考えられる準惑星エリスはこのグループに属します。
最後に分離TNOは,海王星の重力の影響をほとんど受けていないと思われるグループです。
これら4つのグループは,それぞれ他のグループとは全く異なる複雑な軌道の特徴を持っていますが,何故そのようにグループに分かれることになったのか,全てのグループの軌道を1度に説明できる理論モデルはこれまで存在しませんでした。
現在広く受け入れられている太陽系の形成モデル(※2)では,TNOを含め太陽の周りを公転する天体の軌道は,形成当初は楕円の中でも比較的円に近い(離心率の低い)形をしており,またおおよそ同じ平面上にあるものと考えられてきました。しかしTNOでは,円に近い軌道を持っているのは48AUより太陽に近いものだけです。また多くの軌道は惑星の軌道の面に対して大きく傾いています。この理由もこれまで謎でした。
今回のシミュレーションは,TNOの軌道に関するこれらの謎を説明する為のものでした。TNOが初めから現在の軌道を持っていたわけではなく,海王星や他の天体の運動や重力の影響によって現在の軌道に変化していったものと考え,どのような天体を仮定すれば軌道の変化をうまく説明できるかを検討したのです。
その結果導かれたのが,今回の「新惑星」の存在でした。
太陽系が形成されたばかりの頃,木星から海王星までの大型ガス惑星は,現在よりも太陽に近い軌道を回っていました。現在の天王星と海王星の軌道長半径はそれぞれ19AU,30AUですが,形成当初は15AUと20AU程度しかありませんでした。
「新惑星」は当時の天王星と海王星の間の位置で誕生しましたが,その後ふたつの惑星の影響を受け,より遠方の軌道に飛ばされてしまいました。落ち着いた先は海王星との公転周期の比が6:1となる軌道でしたが,その後木星から海王星までの惑星の軌道にマイグレーションと呼ばれる外向きの移動運動が起こり,海王星が現在の軌道に移動した時,影響を受けて更に太陽から遠ざかり,現在では軌道長半径が100から175AUになっているものと推定されます。
この「新惑星」の移動と重力の影響によって,原始TNOの軌道は大きく乱されました。例えば48AU以上を超える軌道長半径を持つTNOは,円に近い軌道から弾き飛ばされ,細長い楕円の軌道を持つようになったと説明できます。
※2 太陽系形成のやさしい解説は,バーチャルミュージアム「宇宙の質問箱」をご覧ください。
参考:Patryk S. Lykawka and Tadashi Mukai, Astronomical Journal Vol.135-4, 1161(2008)
惑星の定義の見直しと冥王星論争
太陽系に惑星は果たして幾つあるのでしょうか?この問題は古くから,人々の関心を呼んできました。
18世紀の初めまでに知られていた惑星は,地球を除くと水星・金星・火星・木星・土星の5つでした。
1781年,イギリスでドイツ人天文学者ハーシェルが天王星を発見しました。この発見は偶然で,ハーシェル自身彗星を発見したと発表してしまったほどでした。
1846年にドイツのガレによって発見された海王星は,天王星の観測によって存在を予言されていたものでした。天王星の軌道は理論的な計算から求められたものと実際に観測されたものとにずれがあり,それが未発見の惑星の影響によるものではないかと考えられたのです。フランスのルベリエとイギリスのアダムスはそれぞれ独自にこの未発見の惑星の軌道を計算で求めました。そしてガレはその計算の結果を元に,海王星の観測に成功しました。
海王星の影響を考慮してもまだ天王星の軌道がずれている,との指摘から更なる惑星の捜索が続けられ,1930年,アメリカのトンボーが冥王星を発見しました。(※3)
ハッブル宇宙望遠鏡により撮影された冥王星(左)と衛星カロン(NASA/ESA)
冥王星は他の惑星と比較して軌道の離心率が大きく,海王星の軌道の内側にまで入り込んでいます。また傾斜角も大きく,発見当初から「変わり者の惑星」とされてきました。(※4)
その後1990年代になると,海王星より外側の軌道を持つ太陽系外縁天体(TNO)で冥王星に近い大きさの天体が複数個発見され,冥王星を惑星として他のTNOと区別する理由があるのかどうか疑問視されるようになってきました。
2005年に発見が公表され,後にエリスと命名されることになるTNOは,冥王星より直径が大きく,また衛星を持っていたため,冥王星に次ぐ第10番目の惑星としてはどうかと検討されたこともありました。
しかし冥王星,後のエリスともに,軌道が他のTNOとそれほど違っているわけではないという問題がありました。冥王星を超える大きさのものは確かになかったものの,2000年以降相次いで発見された大型のTNOの扱いをどうするのかも問題でした。更には他のTNOにも,衛星を持つものがあることもわかりました。
そして2006年,チェコで開かれた国際天文学連合の総会で,後のエリスやその他の大型のTNOなどを新たに惑星と認めるかどうかを含めた,太陽系の惑星の定義の見直しが審議されました。その結果太陽系の惑星の定義は
①太陽の周りを公転していること
②自己の重力によって球形になることができるだけの質量を持っていること
③同じ軌道上に他の天体がないこと
の3つを全て満たすもの,とされ,冥王星は③を満たしていないとして惑星から除外されることとなりました。
さて,今回の「新惑星」はこの3つの条件を全て満たすことができるでしょうか?新たな探索システムによってその存在を確認することができたとしても,同じ軌道上に他の天体がないことが証明されるには多くの時間が必要になると考えられます。
最終的に新たな惑星として認められるのかどうかは今はわかりませんが,今後の経過を楽しみに見守ってきたいところです。
※3 ずれの指摘から計算で求められた軌道と実際の冥王星の軌道は全く異なっており,冥王星の発見は偶然によるものであったことが後にわかっています。また,探査機などにより各惑星の質量が正確に求められ,このずれは見かけのものであったことがわかりました。
※4 1970年代末ごろまでは,冥王星のサイズや質量は地球と同程度かそれよりやや小さいぐらいだと思われていました。しかし現在では,大きさは直径2400km,質量は地球の約1000分の2で月の5分の1以下であることがわかっています。
科博からのお知らせ
国立科学博物館では,毎月第1・第3金曜日に上野本館,第2・第4土曜日に筑波実験植物園で,天体観望会を開催しています。
晴れた日のみ,開始時間は上野では9月から3月までは18時30分,4月から8月までは19時30分,筑波では日暮れからで約2時間の開催です。
備え付けの望遠鏡を使って月や惑星,星雲など(観察できる天体は季節などによって変わります)を観察しながら,研究者から直接天体についての説明を聞くことができます。
都心では大した星は見えないのでは?とご心配の皆様,今回話題のTNOや「新惑星」までは無理ですが,月や木星や土星などの惑星,明るい衛星,二重星,明るい星団・星雲などが十分に観察できます。
開催予定日やその日に見える天体など,詳しくは下のリンクからご案内していますので,お近くの方はどうぞお気軽にお出掛けください。
(研究推進課 西村美里)
上野での観望会に使用している,日本館屋上の望遠鏡