ダイトウウグイスの巣と卵の発見・撮影に成功 (協力:附属自然教育園 濱尾章二)

ダイトウウグイスの巣の撮影に成功

国立科学博物館附属自然教育園・濱尾章二研究主幹らのグループは今年5月,鹿児島県奄美諸島の喜界島でダイトウウグイスの繁殖・生態調査を行い,巣及び卵の発見,撮影に成功しました。

ダイトウウグイスはウグイスの亜種(※1)のひとつで,1922年に南大東島で初めて確認され,南大東島に固有の亜種として発表されました。ところがその後約80年もの間生息が確認できず,既に絶滅したのではないかと考えられてきました。
2002年,京都大学の梶田学氏らによって沖縄県,沖縄本島に生息するウグイスの中にダイトウウグイスと特徴が一致する個体がいることが指摘され,ダイトウウグイス『再発見』として話題になりました。その後,琉球列島の幾つかの島でダイトウウグイスと思われるウグイスが生息している,との情報はありましたが,営巣状況を明らかにした情報はなく,繁殖生態は全く判っていませんでした。
今回巣と卵を確認・撮影できたことで,一度は絶滅したと言われたダイトウウグイスの繁殖が正式に確認され,繁殖生態が明らかになってきました。
詳細な研究はこれからですが,今回のホットニュースではこれまでの調査の経緯,また『絶滅』から『再発見』に至る,ダイトウウグイスの興味深い歴史をご紹介します。

巣から顔を覗かせるダイトウウグイスのメス巣から顔を覗かせるダイトウウグイスのメス (撮影 濱尾章二,矢印は筆者が描き加えたものです)

※ 国立科学博物館では,総合研究『変動する地球環境下における生物多様性の成立とその変遷』として,様々な環境・時間スケールの中で生物多様性がどのように生まれ,また維持されてきたのかを調査してきました。今回の研究はその一環として,南西諸島固有の鳥類について,個体群が成立し維持されていくシステムを生態学的に調査するものでした。
 また,昨年創立130周年を迎えた記念として行っているプロジェクト研究のひとつ『南西諸島における進化的に有意な単位(ESU(※2))の解明』(動物研究部研究員西海と自然教育園研究主幹濱尾の共同研究) では,南西諸島に固有の生物群の遺伝的多様性を調査し,ダイトウウグイスを含めた各種鳥類の保全の手法を探っています。

※1 亜種とは生物分類の階級において種の下に位置し,種としては同じでも互いに隔絶された地域に生息するなどの理由によって色や形などが変化しているものを言います。島嶼では大陸や他の島 に生息する個体との交配が起こりにくいため,亜種が生じやすくなっています。

※2 Evolutionary Significant Unit:分類学上の生物種としては同一であっても,DNAの異なるもの同士は別のグループとして区分します。生物種そのものの維持にとどまらず,生物種内の遺伝的多様性を保全するべきだとする考え方から来ています。

これまでに判ったダイトウウグイスの生態

今回喜界島で発見されたのはダイトウウグイスの既に使われなくなった古巣3個を含む9個の巣です。発見場所は林の縁や畑の脇の藪(※3)です。飛散した種子から生育した牧草の一種が高く成長して込み入った藪で,倒れた草は絡み合って毛布のようになっていました。巣は植物の茎や分枝した所に掛けられており,地面までの距離はおよそ1メートルですが,巣のすぐ下まで草の毛布が届いていました。

巣を訪れる親鳥や,一帯に生息している個体を許可に基づいて捕獲したところ,オス10羽,メス5羽の計15羽が確認できました。見た目は北海道から九州に生息するウグイスや,これまで南西諸島で知られていた別の亜種(詳細次項)と比較して羽の赤褐色味が強く,翼があまり尖らず丸みを帯びているなど,先に紹介した梶田氏らの論文で指摘されたのと同様の,ダイトウウグイスの特徴を確認することができました。捕獲した個体は測定後,個体を識別するための足輪をつけて放鳥しました。

1757052799154ダイトウウグイスの巣とヒナ (撮影 濱尾章二)

ひとつの巣あたり卵の数は4個から5個で,既に孵化した巣もありました。子育ての様子をビデオに録画してみたところ,卵を抱いたり,ヒナに餌を持ち帰ったりしているのはメス親だけであることが判りました。
それぞれの巣同士の距離は比較的近く,1羽のオスのなわばりで複数のメスが営巣していた例もありました。鳥類では珍しい一夫多妻の可能性があります。

※3 ダイトウウグイスを含めてウグイスは警戒心が強く,深い藪を好んで開けた場所にはなかなか姿を現しません。密集した草,また喜界島以外の生息地(沖縄本島など)ではハブの危険もあり,巣の捜索・鳥の追跡を困難にしています。

『絶滅』から『再発見』へ―ダイトウウグイス『消失』の謎

1922年の発見から80年近くの長きにわたって『絶滅』とされてきたダイトウウグイス。『再発見』以来続けられてきた調査で,絶滅が危惧されるほどに個体数が減ってしまっている訳ではないこと,喜界島や沖縄本島など複数の島に比較的普通に生息する鳥であることがわかってきました。それでは何故『再発見』までに,これほど長い時間が掛かってしまったのでしょうか?

理由は主にふたつあります。ひとつは先にも触れたように,人間の接近を容易に許さない藪の中に生息していることです。北海道から九州に生息するウグイスでも,藪からほとんど出て来ないため,毎年のように声を聞くことはあっても姿を見ることは稀ですがそれとほぼ同じ状況といえます。

もうひとつの理由は,日本に生息するウグイスの亜種の分類からきています。
日本付近に生息するウグイスは,樺太以北及び北方領土に生息し,他と比べて灰色がかった亜種カラフトウグイス,北海道から九州まで広く分布する亜種ウグイス,小笠原諸島に生息し,嘴の長い亜種ハシナガウグイス,そしてカラフトウグイスと同じく灰色味の強く,南西諸島に生息する亜種リュウキュウウグイスの計4つが知られています。
南西諸島に現存しているウグイスは,リュウキュウウグイス1亜種のみだとこれまで信じられてきました。しかし1975年から1999年に掛けて行われた調査で,沖縄本島で灰色のウグイスに混じって,赤褐色のウグイスがいるのが見つかりました。冬期に捕獲された個体では,灰色のものが赤褐色のものの数倍いました。ところが春から夏に掛けての繁殖期になると,たくさんいた筈の灰色の個体は姿を消してしまいました。そして僅かに残っていたのが,赤褐色のウグイスでした。
 
赤褐色のウグイスは何ものなのでしょうか?また灰色のウグイスたちは何処へ行ってしまったのでしょうか?
灰色のウグイスは本州以北で繁殖するウグイス(亜種カラフトウグイスか亜種ウグイス)なのではないか,という仮説が梶田氏らによって出されています。リュウキュウウグイスは繁殖地で別の亜種名を与えられたウグイスであり,北の地方で繁殖し,越冬のため琉球列島に渡ってきているのではないか,というのです。
そして赤褐色のウグイスが,ダイトウウグイスでした。1922年に記載されたダイトウウグイスのタイプ標本は戦災で失われてしまったため,赤褐色の個体とつき合わせて確かめることはできませんが,特徴などの記録や記載当時の図版から確認することができました。
リュウキュウウグイスに比べて数が少ないこと,この地域にはリュウキュウウグイスしかいないと信じられていたことから長く判りませんでしたが,ダイトウウグイスは消えてしまっていた訳ではなく,最初の発見当時からずっと琉球列島で,変わらず生き続けていたのです。

ダイトウウグイス調査のこれから

80年近い時を経て生存が確かめられたダイトウウグイス。その生態についてはまだまだ不明な部分が数多く残されています。今回の写真の撮影者であり,今月も再調査に現地を訪問予定の国立科学博物館研究主幹濱尾章二に,今後のダイトウウグイスの調査・研究の予定について聞いてみました。

Q:ダイトウウグイスの研究について,今後どのようなテーマ,研究手順が考えられますか?
A(濱尾):現在考えている目標は3つあります。先ず第1は,卵の数やメスだけが子の世話を行っているらしいことなど,今回新たに判った繁殖生態を確認し,より正確に習性を記録することです。
第2には,ある特定の環境の中で生活する生物がどのような生態を獲得することになるのかという進化・適応をさぐることです。島は『進化の実験場』とも言え,周りから隔絶された環境の中で獲得された,島独特の生態を調べることは興味深いものです。
具体的に言えば喜界島のダイトウウグイスは何を食べているのか,捕食者はいるのか,生息密度から種内競争などを調べます。そして,婚姻形態や子の世話の様式とつき合わせ,他地域のウグイスと比較してみたいと思います。

ダイトウウグイスの卵ダイトウウグイスの卵 (撮影 濱尾章二)

Q.離島に暮らすウグイスの生態で,これまでに何か判っていることはありますか?
A.北海道から九州に掛けて生息する亜種ウグイスのオスは,全く子の世話に参加しません。オス1羽に対してつがいとなるメスは時に6羽~7羽と,非常に発達した一夫多妻制を持っています。これは肉食獣やヘビなどウグイスを捕食する生物が多く,生まれた卵のおよそ4分の1しか巣立ちまで育つことができないことが関係しています。捕食によって卵やヒナを失ったメスは相手のオスのなわばりが安全な繁殖地ではないとみると,より安全ななわばりを持つオスのところへ移動して行きます。その結果,オスにとっては子育てをせずに次のメスを迎え入れた方がたくさんの子を残すことができ,一夫多妻制が発達することになります。
一方で小笠原諸島に住むハシナガウグイスは,オスも子育てに参加し,一夫多妻制は発達していないようです。卵は少なく,1つの巣に2,3個程度です。小笠原では捕食者が少ないこと,鳥の種数は少ないものの1種あたりの個体密度が高いことが原因と考えられます。密度が高くなると餌をめぐる競争相手が増えるため,少数のヒナにオス・メス双方で餌を運ぶ方法でないと子育てが難しいのでしょう。

Q.喜界島のダイトウウグイスについては,これまでに見たところ卵の数や,メスだけが子育てをしているところなど北海道から九州のウグイスに近い繁殖生態のように思えますが?
A.そうですね。ただ,巣を観察するだけでは不十分で,オスがなわばりを持ち始めるのはいつ頃なのか,オスとメスがつがいになる時期はいつなのか,巣立ちの成功率はどのくらいなのか,餌の不足によるヒナの餓死はないかなど,今後継続的に観察して行く必要があります。それによって,ダイトウウグイスの環境に適応した生態をトータルで理解できるようになります。

Q.第3の目標についてもお聞かせ下さい。
A.第3は,ダイトウウグイスの保全です。喜界島ではネズミを退治するために人間が持ち込んだイタチが野生化しています。東京都の三宅島ではイタチが侵入して以来鳥の巣が襲われ,巣が高い位置につくられるようになったとも言われています。喜界島でも何らかの影響が出ている可能性があります。

Q.ありがとうございました。

(研究推進課 西村美里)

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