世界最古級の被子植物化石,日本で発見(協力:地学研究部 植村和彦,植物研究部 加藤雅啓)
白亜紀の被子植物化石,北海道で発見
北海道三笠市の約1億年前の地層,(中生代白亜紀の蝦夷層群)から1999年に採集された種子の化石(国立科学博物館蔵)が,現在ではオセアニアなど南半球だけに分布する原始的な被子植物,「トリメニア」の仲間の種子であったことが明らかとなり,金沢大学の山田敏弘講師(前国立科学博物館地学研究部),国立科学博物館などのグループによって先月発表されました。
長さ3ミリ,幅(径)2ミリ程度の小さな種子化石ですが,種子の微細組織が良く保存されています。厚い層状に発達した外種皮や内種皮の構造などから,現生のトリメニア科植物の種子と同じ特徴を持っていることが観察できました。
トリメニア科やアンボレラ科,アウストロバイレヤ科など,最も原始的な被子植物の多くは南半球にのみ分布しています。
南半球にある現在の大陸は,ゴンドワナ超大陸が白亜紀以降次第に分裂して生まれたものです。このため,被子植物の起源はゴンドワナ大陸ではないかとこれまで信じられてきました。しかしそれを具体的に証明できる化石記録はほとんど見つかっていませんでした。
今回の発見によって,トリメニア科の植物が1億年前に北半球の中緯度地域に存在していたことが明らかになりました。1億年前は,被子植物が急速に発展する少し前にあたります。
今回の発見は,被子植物の起源がゴンドワナ大陸であったとする考えに疑問を投げかけるものです。トリメニア科植物はほかの原始的な被子植物と同様に,ゴンドワナ大陸起源というよりも,白亜紀以降の変遷をへて現在のオセアニアに残っている遺存植物と見るべきことを,北海道の小さな化石は示しています。
※1 蝦夷層群は北海道のほぼ中央部を南北に貫く形で分布しており,南は浦河町付近から北は稚内市,更にはサハリンへ続いています。およそ1億2000万年前から6800万年前の海で堆積した地層で,アンモナイトやイノセラムスなど多くの海生動物化石が豊富なことで知られています。
とくに保存の良い化石は石灰質のノジュール中に含まれていますが,その中には木材や葉,種子などの植物片がしばしば見つかります。西側のアジア大陸から流されてきた“ゴミ”のようなものですが,植物の細胞組織が見事に残された“宝物”とも言うべき化石です。
上:種子化石と現生トリメニア種子の顕微鏡写真
(2枚の写真を同じ縮尺で半分ずつ左右に貼りつけたもの)
下:現生のトリメニアの花 (共に金沢大学大学院自然科学研究科 生命科学専攻 植物自然史分野 山田敏弘講師提供)
研究の詳細
現生のトリメニア科植物はインドネシアのスラウェシ島からオーストラリア東部,さらに太平洋南西部の地域に1属(トリメニア属)8種類が知られています。いずれも低木またはつる植物で,花は単性あるいは両性,両性花は多数の花被片と雄しべ,1心皮の雌しべからできています。胚珠は1個で子房に包まれており,固い皮(種皮)を持った種が1個入った果実(液果)ができます。
トリメニア科は,かつてはクスノキ目,次いでモクレン目とされてきましたが,分子系統学的な検討からはアンボレラ科やスイレン目(スイレン科,ジュンサイ科),ヒダテラ科,アウストロバイレヤ科,シキミ科などとともに原始的な被子植物として知られるようになり,アウストロバイレヤ目に含められています。
被子植物の起源についてはまだ多くの謎が残されていますが,トリメリア科にみられる“原始的”な形質(果実,2種皮性の種子,養分を貯蔵する内乳など)を理解することで,この問題は解決に向けて大きく前進することになるでしょう。
剥ぎ取り切片のプレパラート先に紹介した原始的被子植物のうち,スイレン目やシキミ科は,白亜紀前~中期の化石の記録があり,分子系統学で明らかにされた結果を支持するものと考えられます。しかし,他の多くの種類については,確かな化石記録は未だ知られていません。
被子植物の起源を明らかにする上で,花粉化石の記録は重要な証拠になります。花粉の膜は化学的に丈夫なため,変成作用を受けていない泥質岩にはたいてい花粉化石が含まれています。世界各地の白亜紀層の花粉分析結果は,被子植物が比較的低緯度で誕生し,そこから両極に向かって拡散していったことを示しています。しかし花粉化石の場合,しばしば属や科の識別ができないことがあります。
トリメニア科の花粉化石は既に報告がありますが,残念ながら科を特定するのは困難です。トリメニア科に類似した白亜紀の葉の化石も報告がありますが,こちらも科の特定には至っておらず,分類学的に最も重要な花の化石,あるいは果実や種子の化石の発見が待たれていたところでした。
今回発見された種子化石は,北海道三笠市の西部,蝦夷層群の日陰の沢層から1999年に採集されたもので,約1億年前,白亜紀中頃(前期白亜紀の後期)のアルビアン期のものです。確実なトリメニア科の化石としては世界最古のものであり,同時に北半球にトリメニア科が1億年前に分布していたことを示した初めての化石です。
化石の観察は,化石を含んだノジュールの岩片を研磨し,組織を薄く剥ぎ取って作った切片(※2)を光学顕微鏡で観察し,現生のトリメニア科植物の種子と比較しました。その結果,層状を成す厚く硬い外種皮や受精時に花粉管が胚珠に侵入するための珠孔の構造などで,現在のトリメニア科植物と変わらない特徴が見つかりました。
この化石では,種子の内部の組織もよく保存されていて,胚や養分を蓄える胚乳(内乳)の痕跡も観察することができます。
現在のトリメニア科植物の種子と比較すると,化石ではよく発達した胚乳(内乳)がみられ,さらに胚珠の背線から伸びる維管束系の発達にも違いがみられます。このため研究グループは,この種子がトリメニア属とは異なるトリメニア科の新属新種ではないかと考えています。
※2 今回の北海道の化石は石灰質のノジュール中に植物の組織が残されています。この種の保存様式は,印象化石や炭化(圧縮)化石と区別して鉱化化石といいます。
鉱化化石の観察には,ピール法という方法が有効です。岩石標本ではダイアモンドカッターでスライスしたものを更に研磨して薄片をつくりますが,この方法はスライス時,また研磨時に失われる石片が多く,種子などの小型化石の観察には向いていません。
ピール法では植物化石のある面を先ず平らに研磨し,その表面を塩酸などの腐食性の溶液で僅かに溶かします。植物組織が薄い層状に浮き出してきたところで水洗いし,乾燥させた後,その面にアセトンをたらしてアセチルセルロースフィルムを被せると,植物組織をフィルム内に封入する形で剥ぎ取ることができます。剥ぎ取った面に対して同じ作業を繰り返すことで,連続的な切片を得ることができます。
剥ぎ取りフィルムは現生植物の切片と同様にスライドガラス上に封入し,顕微鏡で観察することができます。
被子植物の分類と進化
被子植物は長い間,双子葉類と単子葉類の2種類に分類されてきました。ごく一部の例外を除いて種子が発芽する際一番初めに出る葉(子葉)が1枚か,2枚かで区分できるというわかりやすい分類です。学校で習った,という方も多いのではないでしょうか?
ところが1990年代以降,分子系統学の見地から,特にこれまで双子葉類としてひとくくりにされてきた植物について,幾つかの系統に分けられることが分かってきました。
分子系統学では生物同士のDNAの塩基配列を比較することで,それらの生物の進化をどこまでさかのぼって行けば共通の祖先に行き当たるのか,生物同士がどの程度近い「親戚」関係にあるのかを知ることができます。他の生物との共通の祖先がより古い時代にしか存在しないもの,つまり他の生物からより古い時代に分岐したものほど原始的な生物だということができます。

被子植物ではアンボレラ科の分岐が最も早く,次いでスイレン目,アウストロバイレヤ目(アウストロバイレヤ科・シキミ科・トリメニア科)が分岐しました。クスノキやモクレンなどを含むモクレン類も比較的古いグループです。ショウブやユリ,イネ,ツユクサなどを含む単子葉類は良くまとまったグループですが,モクレン類と近縁関係にあります。そしてこれまで双子葉類と呼ばれてきた植物のうち,初期に分岐したものを除くほとんどの種は,モクレン類と単子葉類を含むグループと共通の祖先を持つ,別のグループ(真正双子葉類と呼びます)としてまとめられています(右上図を参照)。
アンボレラやスイレン,トリメニアなど原始的な被子植物の起源は,何処にあるのでしょうか?今回のトリメニア科化石の発見により,現在原始的な被子植物が生き残っている南半球が必ずしも被子植物誕生の地とは言えない,ということが明らかになりました。
確実に被子植物といえる最古の記録は,イスラエルから見つかった約1億4000万年前の白亜紀初め頃の花粉化石です.少し遅れてクラバティポレニーテスと呼ばれる花粉化石はヨーロッパ,アメリカ,南アメリカなど南北両半球から知られています。
1998年に中国で発見されたアルカエフルクトゥスは,水草様の葉・茎に果実(袋果)をつけた見事な化石です。この化石の時代はジュラ紀後期と考える研究者もいますが,化石層に近接した火山岩の放射年代から,上記の花粉化石よりも少し若い時代と考えた方がよさそうです。
被子植物の誕生の場所は未だ謎のままですが,少なくとも白亜紀には北半球を含め,世界中に拡散していったことは確かです。
被子植物の起源について議論するためには,北海道の種子化石のように,形質の情報が多く質の高い化石の探索が強く望まれます。
日本の植物化石
国立科学博物館日本館3階『日本列島の生い立ち』フロアでは,古生代から新生代まで,後の日本列島となるアジア大陸の縁辺,及び周辺の海で暮らした生き物の化石を,各時代の「後の日本」の姿や当時の地球環境などと合わせて紹介しています。
トリメニアの展示は残念ながらありませんが,白亜紀の被子植物として熊本県から産出したプラタナスの葉の化石を展示しています。明治時代に採集された古い標本ですが,白亜紀後期の初め,被子植物が陸上の植物界で主役になり始めた頃の化石です。プラタナスの祖先型は当時の北半球でもっとも繁栄した植物のひとつです。
また,日本で最も古い陸上植物の化石であるデボン紀のレプトフロエウムから,中生代のシダ類,イチョウのなかまなどの裸子植物,更に新生代の多くの被子植物,と,各時代を代表する植物の化石を,当時の動物や地層の写真などと共にご紹介しています。
現在の日本の豊かな植生はどのように形づくられたのか,またその途上でどのような植物が消えていったのか。『日本列島の生い立ち』フロアで辿ってみてください。
(研究推進課 西村美里)
白亜紀のプラタナス化石展示状況