金とレアメタル-資源枯渇を回避するために- (協力:地学研究部 宮脇律郎)

今注目が高まる『金』

今年8月8日から24日まで開催された,北京オリンピック。日本選手団は選手・役員合わせて576名と過去最多,熱戦の模様やメダルの吉報が日々報道され,部屋で中継やニュースにくぎづけ…という方も多かったことでしょう。
オリンピックをはじめとして各種の競技大会でメダル,といえば金・銀・銅が一般的(※1)です。特に金メダル獲得者への注目と賞賛・祝福は敢えてここで説明するまでもないことでしょう。

さて,この「金」,科学的には銀・銅と同じく周期表の第11族に属します。熱や電気を通しやすい,自然界から単体で産出するなどの共通点がありますが,銀や銅が他の元素と反応し易いのとは対照的に,金は非常に反応性の低い金属です。空気中では腐食されることはほとんどなく,一部(※2)を除いて酸やアルカリの影響も受けません。燃やしてもほとんど蒸発せず融解するのみで,温度を下げれば元の固体に戻ります。

このような非常に安定な性質から,金は有史以来世界中の様々な地域で富や権力の象徴として,また宗教的意味を付与されて重要視されてきました。銀・銅と共に貨幣の原材料ともされ,日本でも戦国時代以降,各地の戦国大名によって金貨・銀貨が盛んに造られて流通し,江戸時代に始まる貨幣制度の端緒となりました。

現在,金は私たちの身近に,様々な分野で利用されています。飲食物によって腐食されにくく,人体に与える影響が少ないと考えられることから歯科治療の歯冠に。電気を通し易く錆び難いことから,コンピューターなどの電子回路に。薄く,また長く引き伸ばすことができるため,金箔或いは金糸として美術・工芸品に。一方ではその 柔らかさが逆に変形・傷を招く可能性がある為,銀や銅,パラジウムなどとの合金が使われることが多くなっています。

しかしこのような素材として使える金には限りがあります。
イギリスの貴金属リサーチ会社,ゴールド・フィールズ・ミネラル・サービシズ(GFMS)の報告によれば,2006年末の時点で現在地上にある世界の金の総量は約15.8万トン。このうちの約半分が宝飾品として使われており,約5分の1は各国など公的機関が保有,個人投資家の元には全体の約6分の1が保有されています。公的機関保有のうち,日本にあるのは800トン弱に過ぎません。
同じく2006年の日本の金利用を見てみると,自国金鉱山からの産出及び海外からの輸入,リサイクルを合わせた獲得量は約180.5トン,電子機器や歯科,メッキ,宝飾などでの消費量は約181.7トンで,若干ですが需要が供給を上回っています。全需要の約77%が工業及び歯科用で,これは世界の工業・歯科用の金利用の約3割を占め、我が国特有の傾向が現れています。

現在,特に中国・インドなどを中心に電気・電子機器素材としての金の需要は着実に増大しつつあります。このままのペースで消費が続けば,地球上の金の埋蔵量はあと20年でゼロになるとも言われており,まさに枯渇の危機といえます。

今回のホットニュースでは金資源のリサイクルの実情,及び課題を紹介します。

※1 第1回近代オリンピックでは優勝者のメダルが銀,準優勝が銅で金メダルはありませんでした。また今回の北京オリンピックのメダルデザインでは,近代オリンピックの歴史上で初めて,裏面にそれぞれの色に合わせた「玉(ぎょく)」が使われました。
※2 金を溶かすことができる液体は,濃塩酸と濃硝酸を体積比3対1で混合した王水や,青酸化物水溶液などごく少数です。ヨードチンキ(ヨウ素のエタノール溶液。消毒用に販売されているのは希ヨウ素液と言って2倍に希釈したものです)もそのひとつで,金メッキや薄い金箔などの上にたらせば溶ける様子が観察できます。

日本列島は資源の宝庫?

今年1月,独立行政法人物質・材料研究機構は,「現在日本国内に蓄積されている金資源は約6,800トン」であるという統計を発表しました。これは2006年の世界の総需要,約3,900トンの1.7倍,現在の世界の全埋蔵量4万2000トンと比較しても約16%を占めるという驚くべき数字です。
先に紹介したように現在日本の公的機関が保有している金の量は約800トンに過ぎません。新しい鉱山が見つかったという訳では勿論ありませんし,身近なところでも硬貨として流通している金属はアルミニウムの1円玉を除けば全て銅の合金です。歯の治療は自然な歯の色と変わらない色を出すことのできるコンポジットレジンなどでの修復も増えています。宝飾品として身に着けている方は勿論あるでしょうが,誰でも身近に,という訳には行きません。

現在多くの日本人が日常的に携帯している「あるもの」には,1トンあたりにしておよそ400グラムの金が含まれています。日本で唯一稼動している鉱山である鹿児島県の菱刈金山の鉱石では1トンあたり40グラム以上の金が含まれ,世界的にも割合が高いことで知られていますが,それと比較しても約10倍の高割合です。
現在の普及率は単身世帯を含めた統計で95%以上。通信機器として,カメラとして,目覚し代わりとして,ゲーム機として,音楽プレイヤーとして…持っている方で1日1度もそれに触らない,という方はまずいないでしょう。持っていない方も家の外に出ればほぼ確実に目にする「あるもの」 ― 携帯電話は機種変更の後捨てられたり,元の使用者がそのまま所有していることも多くありますが,これを確実に回収・リサイクルすることで金をはじめ多くの金属資源を獲得することができるのです。

携帯電話基盤携帯電話基盤

携帯電話・携帯音楽プレイヤー・デジタルカメラ・パソコンなど現在極めて身近になったこれらの電子機器から資源を取り出す方法は幾つかありますが,そのひとつ「乾式プロセス」と呼ばれる方法では,先ず使用済みのそれら製品を解体・破砕し,次に天然の鉱石と共に1,000度以上の高温の炉で溶かします。その後それぞれの金属の性質の違いを利用して分離・製錬して回収します。
電子機器に含まれている金属は非常に種類数が多い上,形態や量も一定ではないため,必要な金属だけを選んで製錬することは容易ではありませんが,製錬プロセスの研究を続け,原料全体に占めるリサイクル由来原料の割合が約30%に達した精錬所もあります。

金メッキの工程上で発生する使用済みの金メッキ液,メッキされた直後の製品の洗浄液などからの金の再回収も行われており,限りある資源の保護と有効利用の努力が続けられています。

金より希少?レアメタルとは

DVDとMODVDとMD

工業用に使用されている金属のうち,鉄や銅・亜鉛・アルミニウムなどの広く一般に使われる金属,及び金・銀などの貴金属を除いた,流通量や使用量の少ない希少な金属を「レアメタル」と呼びます(※3)。

全ての金属の中で最も軽いリチウムは携帯電話やノートパソコンの充電電池として使用されています。
強度が高い上錆びにくいチタン合金は ,汗などの分泌物で腐食されにくいことからアクセサリーに使われるほか,歯のインプラント,人工骨などの医学的用途にも有用です。チタンの酸化物は,光が当たると有機物を分解することができる「光触媒」の効果を持つため,建物の壁,自動車のミラーやトイレなどにコーティングすると汚れや臭いを抑えることができます。
クロムは鉄とニッケルとの合金「ステンレス鋼」として自動車の外装や流し台,調理器具などに使われています。日本の産業にとって重要な金属ですが国内では産出せず,南アフリカ・インド・カザフスタンなどからの輸入に頼っています。このため万一の国際的な有事によって輸入が止まった場合に備え,最低60日分の国内消費量を国が備蓄しておくよう定められている鉱物資源のひとつです。
ガリウムはシリコン製のものより発熱の少ない,新たな半導体の素材としてパソコンや携帯電話に使われています。リンとの化合物から赤色・黄緑色の,そして窒素化合物からは青色の発光ダイオードをつくることもできます。
パラジウムはそれ自体の体積の900倍以上もの水素を吸収することができ,水素の精製に使用されています。また金銀との合金は歯科治療の歯冠(銀色になるためいわゆる「銀歯」)や装飾品,電子機器の部品に使われています。
テルルは単体,化合物共に毒性があり,ニンニクのような悪臭を持ちます。しかし熱を加えることで結晶化・非結晶化を何度も繰り返させることが可能な性質があるため,書き換えができるDVDの記録膜などに利用されます。

レアメタルの中でも原子番号57番のランタンから71番のルテチウムまで(周期表上では「ランタノイド」として別記されます)に,21番のスカンジウム,39番のイットリウムを加えた17種類をレアアース(希土類元素)と呼びます 。金や銀などの貴金属と比べて埋蔵量は多いものの,単独で分離することが困難なため希少な素材です。
スカンジウムはランプに封入すると太陽光に近い光を発するため,野球場などの夜間照明に使われています。
ネオジムは鉄とホウ素と化合させることで非常に強力な永久磁石を造ることができます。
ユーロピウムはテレビのブラウン管のうち,赤色の蛍光体として使われてきました。
ガドリニウムは常温で高い磁性を持ち,MOなどの光磁気ディスクの材料やMRI検査の造影剤として使われています。
ジスプロシウムは中性子を吸収する能力が高く,鉛やガドリニウムとの合金として原子炉の制御に有用です。また光のエネルギーを蓄積させて発光する性質があるため,夜光塗料としても使われます。
レアアースの供給はほとんどを中国からの輸入に頼っているのが現状です。日本国内のマンガン鉱床に含まれるレアアースに,新たな供給源として注目が高まっています。

この他,定義にもよりますが合計で約50種程度のレアメタルがあり,いずれも供給・需要とも多くはないもののいずれも現在の機械社会・情報社会に欠かせないものばかりです。
金と同じく携帯電話などの電子機器に含まれているものも多く,リサイクルは今後の大きな課題となっています。

※3 金なども含め,鉄以外の金属全体をレアメタルと呼ぶ場合もあります。

科博からのお知らせ

国立科学博物館では7月21日(土)から9月21日(日)まで,特別展『金GOLD-黄金の国ジパングとエルドラード』展を開催しています。

ここに紹介した金の性質,利用,リサイクルなどのほか,世界でも2番目の大きさを誇る自然金,かつて黄金の国ジパングと呼ばれた日本でつくられた仏像などの美術品,2004年アテネオリンピックで日本人選手が獲得した金メダルなどを紹介しています。
また,日本・コロンビアの外交樹立100年を記念し,エル・ドラード伝説で知られるコロンビアから黄金の装飾品も多数出展中です。
120kgもある本物の金塊を持ち上げ,見た目以上の重量感を体感できる貴重な体験コーナーもあります。
会期は残り僅かとなってしまいましたが,この機会に是非,地球館地下1階・特別展会場へお立ち寄りください。

(研究推進課・西村美里)

多摩川砂金多摩川砂金(会場にて展示中)
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