目が離せない恐竜発掘・研究事情(協力:地学研究部 冨田幸光,真鍋真)

『大恐竜展』開催中!

現在開催中の特別展『大恐竜展 知られざる南半球の支配者』は,お陰様でご好評を頂き,5月14日現在37万9千人のご来場を頂いています。

南米・アフリカ・南極など,かつて中生代ジュラ紀から白亜紀に掛けてゴンドワナ大陸と呼ばれた大陸の一部であった地域から発掘された,日本初公開の恐竜・翼竜たち。

ポスターにも描かれているマプサウルスは,白亜紀後期のゴンドワナ大陸を代表する肉食恐竜のひとつです。大型の獣脚類(※1)の化石はこれまで,1体1体単独で発見されることがほとんどでした。しかしマプサウルスは,マプサウルスばかりまとまった群れとして発見されています。群れの中には全長およそ13メートルのおとなの個体から,6メートル程度とまだ若い個体まで含まれており,今回の特別展ではおとなと子ども各1体の復元骨格を展示しています。
マプサウルスは群れで生活していたのでしょうか?群れで子どもを育てたり,一緒に狩りをしたりしたのでしょうか?想像が膨らみます。

『大恐竜展』にて展示中のマプサウルス『大恐竜展』にて展示中のマプサウルス カルメン・フネス博物館(アルゼンチン)監修復元 (背景に写っているのは同じく展示中のメガラプトル)

ハーモニカのように横に広がった口を持つニジェールサウルスは,その名の通りアフリカ,ニジェールで発見された竜脚類(※2)です。全長10.5メートル程度と,竜脚類としては比較的小さく,首も短めです。特徴的な口は地面近くの葉や草を噛み切るのに役立ったと考えられます。

翼竜コーナーでは沢山の歯を持つアンハングエラの新種と,ユニークな形のとさかを持った歯のないタペジャラの仲間の顔つきを見比べるのも楽しいかも知れません。

『大恐竜展』は6月21日(日)まで。残すところひと月あまりとなりました。未だ見ていない…という方はこの機会に是非,ご来館ください。

さて,恐竜の発掘,研究ではこのところ,新たな発見が相次いで紙面を賑わせました。
日本国内では,2007年11月の本コーナーで,『恐竜化石の発見相次ぐ』として兵庫・福井・和歌山・熊本の4ヶ所での発見をご紹介しましたが,その後も次々に新たな化石が見つかっています。
世界的には恐竜と鳥類との関係を裏づけるとも考えられる,ふたつの発見がありました。

今回のホットニュースでは,前回の掲載からこれまでに話題となった,恐竜に関する新たな情報をまとめてご紹介します。

※1 獣脚類…三畳紀後期に出現し,白亜紀末まで繁栄した恐竜の1グループの総称です。2足で歩行し,大部分は肉食だったため肉食恐竜とも呼ばれますが,魚食のもの,一部には植物食のものもいたことがわかっています。ティラノサウルスのような大型のもの,デイノニクスなど敏捷で高い知能を持っていたと考えられているものを含んでおり,近年では獣脚類の中の1グループが,鳥類に進化したとの仮説が有力になっています。

※2 竜脚類…ジュラ紀前期(原始的なものを含めれば三畳紀後期)に登場した恐竜の1グループの総称です。4足歩行の大型の体,長い首が特徴で,これまでに発見されている種は全て植物食です。白亜紀に入ると北半球では衰退しましたが,南半球では白亜紀末まで繁栄を続けました。

国産恐竜,発見続く

先ずは2008年2月。群馬県の神流町で,ティタノサウルス形類に分類される竜脚類の歯が見つかりました。
ティタノサウルス形類には大小さまざまな竜脚類が含まれます。2006年に発見され,現在も発掘が続く兵庫県丹波市の「タンバリュウ」もティタノサウルス形類です。
神流町ではこれまでにも獣脚類の骨や歯が見つかっていましたが,植物食恐竜が発見されたのは初めてのことでした。

福井県勝山市北谷では,福井県立恐竜博物館などが中心となって発掘調査が続けられています。2008年度の調査では,イグアノドン類の幼体の上顎と下顎が発見されました。過去に見つかっているイグアノドン類のフクイサウルスとの関係はまだわかりませんが,幼体の発見は恐竜の成長を研究する上で非常に重要です。

また,2007年度の調査で発掘されていた,化石を含む約50センチ四方の岩石をクリーニングしたところ,ドロマエオサウルス類(※3)と思われる小型獣脚類の上顎が見つかりました。4本の歯が顎についたままで保存されており,ほぼ完全な状態と言って良いものでした。歯が残された獣脚類化石の発見は,国内では初めてのことです。
クリーニングは現在も続けられており,同じ獣脚類の一部と考えられる大腿骨や頸椎,脳幹(頭蓋骨のうち,脳が収まっていた部分)など,全身のおよそ60%にあたる,160点もの骨がこれまでに見つかっています。
新種である可能性も高く,今年度中には全身の復元が行われる予定です。

文中に紹介した化石の発見地文中に紹介した化石の発見地(赤・!)。 青点はその他の国産恐竜化石産出地(2007年度以前の発見)。

「タンバリュウ」発掘現場でも,今年に入って新たな発見がありました。「タンバリュウ」のものと思われる歯の発見です。
生え始める前のものと思われる真新しい歯から,使われて斜めに磨り減った歯まで,合わせて6本が見つかりました。状況の異なる複数の歯の発見は,未だ見つかっていない「タンバリュウ」の頭骨の形の推定の助けになります。
他の恐竜のものと思われる歯も同じ場所で見つかっており,当時の環境をより詳しく推定できるようにもなりそうです。

※3 ドロマエオサウルス類には,地球館地下1階に展示されているデイノニクスやバンビラプトル,さらにヴェロキラプトルやミクロラプトルなどが含まれます。後肢に大きな鉤状の爪を持っていることが共通の特徴です。羽毛を持ったものも見つかっており,デイノニクスは恐竜温血説が広く知られるようになったきっかけとなった恐竜でもあります(詳しくは地球館地下1階の展示映像をご覧下さい)。

恐竜の子育て:卵を抱くオスがいた?

現生の鳥類では卵やヒナの世話に,オスの協力が必要な場合が多いことは良く知られています。実に9割以上の種で,オスが卵を温めたり,餌を取りに行ったりと育児に協力しています。哺乳類では5%未満,爬虫類や両生類などではほとんどが産みっぱなしか,メスだけが世話をしていることを考えると驚くべき比率です。
この「オスによる子育て」が,鳥類の祖先とされる小型獣脚類の恐竜で既に始まっていたとする研究が,昨年12月,アメリカの科学誌『Science』に発表されました。

白亜紀後期の北半球に生息していた小型の獣脚類,トロオドン類(※4)は,非対称な形,層状の殻など,現生の鳥と良く似た特徴を持つ卵を産んでいました。卵の並んだ巣の化石と一緒に,卵の世話をしていたらしいおとなの化石もしばしば発見されてきました。

恐竜の化石からオス,メスを直接判定することは簡単ではありません。生殖器など性別を明確に示す組織は,化石として残りにくいためです。
現生の鳥や爬虫類は,卵の殻に,カルシウムとリンを多く含んでいます。鳥類のメスでは産卵期になると,大腿骨の内側に「骨髄骨」とよばれる特別な構造がつくられ,そこから殻の原料となるカルシウムやリンが供給されます。ワニなどの爬虫類のメスではこの骨髄骨が作られないため,骨そのものからカルシウムやリンが溶け出してしまいます。
2005年,アメリカでティラノサウルスの大腿骨(次ページでご紹介している,タンパク質が保存されていたとされるティラノサウルスと同一の標本です)の化石から骨髄骨が発見され,この個体が産卵期のメスであったと判ったことがありました。

現生鳥類・ワニ・恐竜の体重と巣の卵の総容量の関係現生鳥類・ワニ・恐竜の体重と巣の卵の総容量の関係
Varricchio et al., Science Vol.322, 1826-1828(2008)より改変

そこで今回も,卵を抱いた状態で見つかった恐竜たちの後足の骨の内部構造が調べられましたが,骨髄骨は発見されませんでした。骨から直接カルシウムなどが溶け出したらしい様子も見られませんでした。
自分の体内のカルシウムやリンを使わずに卵を産もうとする場合,カルシウムやリンを多く含む餌を採ることによって身体の外から補給するしかありません。しかしこの方法では大きな卵を幾つも産み続けることは難しいでしょう。
このことから,卵を抱いていた親はメスではなかった可能性が高いと言えます。

また,現生の鳥では,親が1度にあたためる卵の総容量(大きさ×数)を,おとなの体重がほぼ同じ種同士で比較した場合,オスだけが育児を行う種で容量が最も大きくなり,両親が育児を行う種で最も小さくなることが知られています。
オスに育児を任せられる場合メスはより大きく,たくさんの卵を産むことに集中でき,逆に両親が一緒に子育てを行う場合,卵にかかる体力の消耗を抑えることで,ヒナの世話の方により多くの時間やエネルギーを使うことができるためと考えられています。
トロオドン類の恐竜では,巣の中で発見された卵の数は20~30個と多く,卵の大きさも親の身体に比べて大きなもので,現生の鳥のうちダチョウやレア,エミューなど,オスだけが子育てをする種の卵の総容量に極めて近いものだったことが判りました。

骨の構造,卵の総容量共に状況証拠のため,本当にオスが卵を抱いていたと結論づけるにはまだ早いかもしれません。オスだったとしてもトロオドン類に限った話で,他の恐竜ではメスが卵を抱いていたかもしれません。
しかし,恐竜を含め爬虫類,鳥類の子育ての起源については判っていないことが多く,今回の成果は非常に興味深いものです。羽毛や飛行能力の獲得など,恐竜が「鳥らしく」なっていく過程を知る上でも面白い1歩と言え,今後の発展を見守っていきたいところです。

※4 トロオドン類…プロトケラトプスのものと思われた卵の入った巣の上で発見されたことから,卵を盗って食べようとしていたとして「卵泥棒」を意味する名前をつけられた,オヴィラプトルなどが含まれます。後にその卵はオヴィラプトル自身のものだったとわかり,泥棒の汚名は返上されましたが,学名は変更が許されないため,今もオヴィラプトルのままです。

恐竜の化石からコラーゲンの採取に成功

アメリカの約8,000万年前の地層から発見されたハドロサウルス類の植物食恐竜,ブラキロフォサウルス(※5)の大腿骨の化石からコラーゲンが発見され,今年5月,アメリカ,ノースカロライナ州立大学のシュヴァイツァーらによって『Science』誌に発表されました。
コラーゲンは脊椎動物をはじめ多くの多細胞生物の身体に含まれる物質で,皮膚や骨・軟骨・腱などを形づくっているタンパク質のひとつです。

恐竜化石から有機物が発見されたのは,これが初めてではありません。シュヴァイツァーらのチームは2年前にも,6,800万年前のティラノサウルスの化石からタンパク質を発見しています。
しかしタンパク質などの有機物は,その生物の死後短期間のうちに腐敗,または分解されてしまうのが普通です。「ティラノサウルスの有機物」には,多くの疑問が提示されることになりました。そもそもそれほど長い間,分解されなかったとは考えにくいこと。骨格が化石化してから発見・調査・研究されるまでの間に,何らかの別の生物に由来する有機物によって汚染された可能性があることなどです。

地球館地下1階に展示中のヒパクロサウルス地球館地下1階に展示中のヒパクロサウルス(撮影・加工 大橋智之)

そこで今回シュヴァイツァーのチームは,タンパク質が確かに化石に由来するものであることを確かめる為,非常に注意深い発掘・調査を行いました。地表から7メートル近い深さに埋まっていた化石が外気に触れてしまわないよう,掘り出す際には周囲の砂岩を10センチ以上残すようにしました。クリーニングは無菌室内で,滅菌された器具を使って行いました。取り出した化石は密閉容器の中に,乾燥剤と共に保管しました。また,サンプルはアメリカ,イギリスの複数の研究機関で分析を行ないました。
このようにして保護された化石を電子顕微鏡で観察したところ,現在のダチョウのものと良く似た骨組織,血管が観察できました。血管の構造や骨を構成する骨細胞も,ダチョウと良く似たものでした。
アミノ酸配列などを調査するため,組織内に含まれていた物質を分析したところ,今回の物質が以前ティラノサウルスで発見された物質に近い性質を持っていること,更には現生のダチョウのコラーゲンとも良く似た性質であることがわかりました。現生のワニなど爬虫類とも比較しましたが,鳥と比べると類似性は強いものではありませんでした。

最初の発見で批判的だった研究者も,今回の発見には今のところ,未だ賛成ではないものの,否定的になる理由は特にないという態度をとっています。

今回のコラーゲンから得られたアミノ酸配列などの情報は断片的なものです。「恐竜のタンパク質」と聞くと,クローン作りによる恐竜の復活を想像したくもなりますが,残念ながら今回の発見はクローン作りに結びつくものではありません。
しかし,一部とはいえ恐竜の身体を形づくった物質が,8,000万年の時を越えて観察できたことには大きな意味があります。今後他の恐竜の化石からも生体物質の発見が続けば,恐竜の種同士の関係や,鳥をはじめとする他の生物と恐竜との関係がより詳しく判るようになるかも知れません。

※5 ブラキロフォサウルスは当館にはありませんが,同じハドロサウルス類のヒパクロサウルスの全身復元骨格(親子と想像される大小3個体)とランベオサウルスの頭骨を地球館地下1階で展示しています。

(研究推進課 西村美里)

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