日食観測を楽しもう!(協力:理工学研究部 西城惠一)

7月22日 国内陸上で46年ぶりの皆既日食

2009年7月22日午前,北海道から沖縄までの日本全国で日食が起こります。多くの地域では太陽の一部が月に隠される部分日食ですが,鹿児島県奄美大島北部・トカラ列島・屋久島・種子島南部,東京都小笠原諸島の一部では皆既日食となり,太陽は月の裏側に完全に隠れます。
日本の陸上で見ることができるものとしては実に46年ぶりの皆既日食です。折りしも今年はイタリアの天文学者ガリレオ・ガリレイ(1564~1642)が世界で初めて望遠鏡を宇宙へ向けてから400年を記念した『世界天文年』でもあります。私たちに最も身近な恒星,太陽を入口として,この夏休みに宇宙や天文学に親しんでみてはいかがでしょうか?

日食は太陽・月・地球がこの順番に,一列に並んだ時に起こる現象です。地球から見て太陽と月が同じ方向にあるため,月は必ず新月になります。
しかし新月の時ならいつでも日食が見られるかと言えばそうではありません。月が太陽を隠す為には太陽・月と地球が同じ平面上に揃っていなければならないのですが,地球が太陽の周りを公転する軌道に対して,月が地球の周りを公転する軌道が僅かに傾いているため, 月の位置はしばしば太陽と地球を結んだ線の上から外れてしまうのです。
線上からのずれが極めて小さければ,太陽の一部が隠される部分日食が見られる可能性が残りますが,完全にずれてしまえば日食は起こりません。

日食の起こるメカニズム図:日食の起こるメカニズム(国立天文台 天文情報センター)
写真:2006年3月,国際宇宙ステーションから撮影された,皆既日食時に地上に落ちる月の影。 写真上部の島はギリシア,キプロス島(左下が北)(NASA)

巧く同一の平面状で並んだとしても,毎回皆既日食が起こるわけでもありません。
月の公転の軌道は正確な円ではなく楕円形をしている為,月が楕円のどの位置に来ているかによって月と地球の距離は近づいたり遠ざかったりします。地上から見た月の見かけの大きさは,月と地球が近ければ大きく,遠ければ小さくなります。
皆既日食が見られるのは,地球から見た月の見かけの大きさが,太陽の見かけの大きさよりも大きくなっている場合だけです。月の見かけの大きさの方が小さい場合,太陽を完全に隠すことができず,月の外側に太陽の姿が円形にはみ出します。この時の太陽の姿が金色の環のように見えることから,これを金環食といいます。

皆既の条件が揃った場合,太陽と月を結んだ直線の真下に当たる昼側の地域で皆既日食を見ることができます。
皆既日食の時には普段光球(太陽の表面)の輝きに隠されて見ることができない,太陽の外層大気の様子を観察することができます。また,月の影が完全な円ではなく縁がでこぼこしている様子を見ることもでき,月に立体的な地形が存在することを実感できます。
太陽と月を結んだ直線から外れた地域では,ずれが小さければ部分日食となり,ずれが大きい地域では日食を見ることはできません。

より詳しく知りたい方のために ↑「世界天文年2009」のリンクが切れています。ご確認お願いいたします。

太陽活動と私たち

「最近太陽に元気がない」そんな話を聞いたことがありますか?
太陽はおよそ11年の周期で,活動の活発な時期と静穏な時期を繰り返しています。最近では1996年に活動レヴェルの最も低い極小期,その後次第に活発化し,2001年に最も活動的になる極大期を迎えました。そして再び沈静化へ向かい,当初の予測では2008年初頭を極小として,2012年頃に次の極大を迎えるものと考えられてきました。ところが2008年の太陽の活動は,次の極大へ向けた上昇を見せず,極めて低いレヴェルのまま終わってしまったのです。
太陽活動を示すバロメーターのひとつが,太陽の表面に観察できる黒点の数(※1)です。活動の活発な時期にはほぼ毎日観測でき,1年間の出現数は100個を超えることもあります。2001年の極大時現れた巨大な黒点群は,日食グラス(詳細後述)を使えば肉眼でも確認できたほどでした。
しかし2008年には黒点の全く見られない日が1年の73%にあたる266日(NASA調べ,以下同)を数え,同じく250日を越えた1912年(最多は1913年の311日)以来,100年ぶりの記録として話題になりました。2009年に入っても無黒点日は続き,3月31日までの最初の3ヶ月では78日(87%)にも上りました。
同じく2008年には,太陽風の風圧が1990年代半ばの記録と比較して約20%低下,太陽の明るさ(輝度)も1996年の極小時と比べて可視光で0.02%下がりました。
今年6月に入ってようやく,黒点数は若干の回復を見せてきました。黒点周囲ではフレア(太陽表面での爆発現象)も観測されており,極大に向かう傾向が見えてきたと考える専門家も増えて来ました。このまま推移すれば次の極大は,予定より約1年遅れて2013年5月頃になりそうです。

2001年に撮影された太陽活動期,2001年に撮影された太陽(NASA)

太陽の活動が活発な時期には,フレアの頻度・強度が高まる傾向にあります。フレアが発生すると多量のX線,ガンマ線,高いエネルギーを持った荷電粒子が惑星空間に放出され,それらが地球に到達すると人工衛星やGPS,無線通信,送電線などが故障,または一時的に乱れる可能性があります。大気圏外に滞在中の宇宙飛行士には放射線被爆の危険もあります。

それでは逆に,活動レヴェルが低い状態が続くと何が起こるのでしょうか?
記録に残っている最も大規模な太陽活動の低下は1645年~1715年,約70年に渡って黒点がほとんど現れない時期が続いたものです。太陽黒点数の記録を整理・研究していたイギリスの天文学者,エドワード・マウンダー(1851~1928)によって確認されたため,マウンダー極小期と呼ばれています。
この時期の地球は,14世紀半ばから19世紀半ばに掛けての『小氷期』と呼ばれる寒冷な時代の只中にありました。マウンダー極小期はその中でも特に気温の低かった時期にほぼ一致し,地球の平均気温は西暦2000年と比較して約1.5℃低かったものと考えられています。
平均気温が1度下がると,植物が生育できる期間は約3,4週間短くなります。また作物を育てることのできる畑の高度は約170メートル下がります。耕地面積と耕作期間の減少はヨーロッパ各地に繰り返し飢饉をもたらしました。
栄養と日照の不足は人間の健康状態悪化にも繋がります。1665年にはロンドン,1720年にはフランス,マルセイユでペストが流行しました。マルセイユでの流行では市内及び周辺地域でおよそ10万人の犠牲者を出しました。

しかし一方で,太陽活動の低下が必ずしも,地球の寒冷化,或いはこの時代の人間活動に影響を与えたとは限らないことには注意しておく必要があります。
17世紀半ばから18世紀初めにかけての太陽活動の低下と寒冷化は,確かに時期的に重なっています。しかし,大規模な火山活動など他の原因があった可能性も示唆されており,因果関係は未だはっきりしません。

※1 黒点の数は,個人によって,また観測の条件によってばらつきが出る可能性があるため,1980年まではスイスのチューリッヒ天文台,1981年以降はブリュッセルにある黒点数データセンターで相対化しています。

太陽観測衛星『ひので』

科学衛星『ひので』は,国立天文台・JAXAとアメリカ・イギリスの国際協力により開発された,日本にとって3代目の太陽観測衛星です。2006年9月23日,鹿児島県内之浦宇宙空間観測所から打ち上げられました。
『ひので』の主な目的は,太陽磁場と太陽表面の活動との関係,特に太陽の最も外層に存在するコロナの性質や活動についての謎を解明することです。また,太陽のフレアや磁気嵐など,地球上の人間活動に直接影響を及ぼす可能性のある太陽活動を観察することで,今後の発生の予測にも繋がると期待されています。

『ひので』に搭載されている3台の観測装置は,それぞれ観測の対象と,用いる波長(※2)が異なっています。
可視光・磁場望遠鏡のターゲットは,光球と太陽の下層大気,彩層です。太陽を対象としたものとしては世界で初めての本格的可視光望遠鏡で,太陽の磁場を3次元的に計測することができます。
光球の上層とコロナの間の高度を観測するのが,極紫外線撮像分光装置です。光球や彩層とコロナとの間に,エネルギーのやり取りがあるかどうかを調べます。
X線望遠鏡は,コロナを観測することを目的としています。可視光・磁場望遠鏡の情報と併せることで,太陽の磁気的な活動とコロナの活動の関係性が見えてきます。

それでは何故,太陽の磁場がそれほど重要なのでしょうか?
身近なところでイメージできる磁場は,磁石が持っているものでしょう。私たちの良く知る磁石は鉄を引き寄せますが,より強い磁場の中では鉄だけでなく,様々な物質・粒子が影響を受けます。
例えば黒点は,太陽表面のプラズマの対流が強い磁力線で妨げられ,熱が伝わりにくくなることで発生すると考えられています。黒く見えるのは,周囲より温度が低い為です。
太陽風は太陽表層のコロナが宇宙空間へ向けて膨張する現象と解釈されます。太陽表面の磁場は通常,プラズマを内側に向かって閉じ込めていますが,磁力線が繋ぎ変わるなどして開くと,プラズマは太陽の外へ向かう磁力線に引きずられる形で惑星空間へ放出され,大規模なフレアや太陽嵐を引き起こします。
太陽が何故磁場を持つのかは未だ解っていませんが,太陽磁場に何らかの変動が起これば,それはそのまま太陽活動の変動として地球や人類に影響を及ぼすことになるのは間違いありません。

太陽の構造上:太陽の構造(地球館展示解説より)
下:太陽観測衛星『ひので』(CG,国立天文台提供)

今回の観測のもうひとつのターゲット,コロナにも大きな謎があります。太陽の表面の温度は摂氏およそ6,000度ですが,コロナの温度は遥かに高いのです。
大気の温度は表面から高度500km付近までに4,000度程度に下がりますが,500kmを超えると上昇が始まり,高度2,000kmを境に1万度から一気に上がって100万度以上になります。
太陽のエネルギーの源は,中心核で進む核融合反応です。単純に考えれば中心に近い方がより温度が高く,中心から最も遠いコロナは最も低温になるべきであるように思えます。何故コロナだけが熱いのかは「コロナ加熱問題」として長年論議が続いてきました。

「コロナ加熱問題」の解決に繋がる可能性のある有力な仮説は2つです。
1つは磁力線の小規模な開放による小さなフレア(ナノフレア)による加熱です。太陽表面のあちこちで磁力線が切れては他と繋がることで,小規模なフレアが同時多発的に発生し,表層からコロナへエネルギーを伝えている可能性があります。
もう1つの仮説では,太陽表面の対流運動などによる磁力線の揺さぶりが原因としています。揺さぶられた磁力線は振動して波となり,この波がコロナにエネルギーを伝えているとする考えです。
今回始まった『ひので』による観測ではこれまでに,2つの仮説それぞれを支持する証拠と思われる現象が確認されています。2つの勝敗が決まるのではなく,2つの仮説を融合した新たなシナリオが描かれることになるかも知れません。

※2 私たちが通常,「光」「X線」「赤外線」などと呼び分けているものは全て,エネルギーを伝える「電磁波」です。ここでは詳しく触れませんが,電磁波の伝えるエネルギーは波長が短いほど大きくなり,周波数が大きいほど大きくなります。即ち,より短い波長を観測できる装置を用意することは,よりエネルギーの高い活動,またはより温度の高い領域を観測できることに繋がります。
ただし,紫外線より波長の短い電磁波は地球の大気によって吸収され地表には届かないため,観測する為には大気圏外に望遠鏡を打ち上げる必要があります。

科博からのお知らせ

7月22日,皆既日食・部分日食観察のため,全国で様々なイベントが予定されています。

国立科学博物館のある東京都では,残念ながら小笠原諸島の一部を除いて皆既日食を見ることはできません。しかし東京都心でも,太陽の直径の約75%が月の影に入る比較的深い部分日食を見ることができます。
食の始まりは午前9時55分33秒,食が最大になるのは午前11時12分58秒で,食の終わりは午後0時30分20秒です。日食の初めから終わりまで太陽が比較的高い位置にあるため,食の始まりから終わりまで連続して観察できる良い機会でもあります。

日食グラス日食グラスの一例

国立科学博物館では,22日当日朝10時(受付開始は9時30分)から,地球館屋上で小型望遠鏡による太陽投影と,日食グラスでの部分日食観測会を開催します(日本館屋上の望遠鏡は使用しません)。日食の原理や日食の観測方法について学びます。周りに遮る建物のない屋上で日食を楽しんでみませんか?
事前のご予約は必要ありません。当日朝,直接会場にお越しください。
定員は300名,先着順です。大変な混雑が予想されますので,場合によっては観測いただけない事があります。観測はおひとり1回のみ,お並びの順番でのご案内となります。観測時間帯はお選びいただけません。
日食グラスは順番に貸し出しますので,ご自分でご用意いただく必要はありません。尚,このイベントの時間中,観測会にご参加されない方は屋上への立ち入りができなくなりますのでご注意ください。

東から南に掛けての空を広く見渡せる場所であれば,ご自宅などの身近な場所でも日食観測を楽しむことができます。

日食グラスはプレート部分が両目を完全に覆うように手に持つ,または身につけて使います。日食グラスの遮光プレートを通してであれば,太陽の光に目を向けても大丈夫です。
望遠鏡店,大手ハウジングセンター,家電量販店等のほか,科博ミュージアムショップでも取り扱っています。
太陽を肉眼で直接見てはいけないことは勿論ですが,日食グラスを手作りする,グラスの代わりに色つきの下敷きやサングラス・すりガラス・フィルム・CDなどを使って覗くことも絶対にしないでください。
子どもの頃すりガラスで見た,というおとなの方もいらっしゃるかも知れませんが,眩しさを和らげることはできても太陽の熱(赤外線)はそのまま目に入り,網膜が焼けて最悪の場合失明に到る危険があります。
日食グラスを使っていても,目が疲れた,何となく熱いなど異常を感じたらすぐに観察を中止してください。

見るだけでなく日食の様子を記録したい場合は,街路樹などの下に立って,地面に落ちる木漏れ日の形を見る方法があります。葉の間を通って来たそれぞれの光が,太陽の形になって地面に映るのが解ります。小さな穴を開けた紙を太陽と地面の間に置いても同じことができます。少しずつ時間を空けて,木漏れ日の形が変わって行く様子を写真に撮ると面白い記録ができるでしょう。

屈折式の天体望遠鏡を持っている方は,太陽投影板を使えば木漏れ日より大きく鮮明な像を得ることができます。望遠鏡の接眼部分に取り付けたプレートに,太陽の像が映し出されます。プレート部分に紙を取り付けてスケッチしたり,写真を撮ることもできます。
望遠鏡の口径や機種によって取り付けられる投影板の種類が違う為,詳しくは望遠鏡の取扱店などでお尋ねください。

葉の間や穴の空いた紙を通して,または望遠鏡や双眼鏡で直接太陽を見てはいけません。望遠鏡や双眼鏡は光を集める分肉眼より一層危険です。日食グラスを掛けた上から双眼鏡,望遠鏡を覗くのも駄目です。
良く判らない時は自分で判断せず,このページや国立天文台などで紹介されている安全な方法を使う,または事前に専門家に相談してください。

(研究推進課 西村美里)

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