夏休み,生き物たちに親しもう! ― 生き物の『多様性』のひみつ (Part 1)

『多様性』って何だろう?

私たち人間の周りには,私たちとは違った姿,違った暮らしぶりを持つたくさんの生き物が暮らしています。
家や町の中で見られるものもいれば,人間に飼われているものもいます。動物園や植物園では,世界の様々な生き物を間近に見ることができます。一方で,テレビやインターネットでもめったにその姿を見られない生き物や,名前さえつけられていない未知の生き物も数多くいます。
未知の生き物の数にもよりますが,生物の種の数はだいたい500万から1,000万くらいだろうと考えられています。

これらの生き物の種の違い,暮らしている場所や環境の違い,遺伝子の違い(※1)をひとまとめにして『生物多様性』といいます。

たくさんの「違う」生き物たちがいることは,私たちヒトにとっても大きな意味があります。
ヒトは昔から動物・植物のからだの一部または全部を食糧にしたり,建物や工業製品,薬の材料などとして使ってきました。
直接には使うことのない生き物の中にも,水や空気をきれいにしたり,ヒトが飼っている家畜のえさになるなどして,間接的にヒトに恵みを与えてくれているものがあります。
また,宗教的に神聖な生き物,あるいは良くない生き物として意味を与えられたり,絵画や音楽,文学などに登場する生き物もいます。ヒトは歴史・文化を発展させる上でも,多くの生き物たちと関わって来たと言えます。

私たちにとって一見何の役にも立たないと思える生き物でも,必要ない訳ではありません。全ての生き物は食う・食われるの関係や,共生・寄生の関係などさまざまな形で繋がっています。たとえひとつの生き物が絶滅したり,大きく数を減らしてしまうことがあったとしても,近い生態の生き物がその代わりとなって繁栄することで,生き物全体の繋がりが守られることもあります。

種の数も,生きている環境も,遺伝子も。色々いることに意味がある ― これが,『生物多様性』とその保護の基本的な考え方なのです。

多種多様な動植物
調べてみよう!
家の周りや近くの公園で生き物を探してみましょう。
朝・昼・夜で見られる生き物に違いはあるでしょうか?
朝・昼・夜の生き物たちはそれぞれ何をしているでしょうか?
スケッチや写真で記録してみましょう。
自分の家ではないところで観察する時は,4ページ目にある注意をよく読んで,安全に観察できるよう注意してください。

※1 遺伝子の違いは,同じ種に属する個体同士,グループ同士の違いです。同じヒトである「あなた」と「私」が同じ体つきや顔つきにならないのは遺伝子が違うためです。
ペットや家畜として飼育されている動物,園芸植物の品種の違いも,同じ種の中での遺伝子の違いによって生じています。例えばウシという種について見てみると,日本では主に牛乳をしぼる目的で飼われている黒地に白ぶちのホルスタインと,肉を食べるために改良された様々な和牛はそれぞれ別の品種です。遺伝子が異なっているため,姿や大きさ,肉の味も違っています。

日本列島の豊かな自然

日本列島は,世界的に見ても生物多様性の豊かな地域です。
日本の国土は,陸地だけでみればおよそ38万平方キロメートル。世界的に見ても広い方から数えて60位と,大きい方とは言えません。
しかし日本には多様な生き物を育むことができる秘密がたくさんあります。

まず第1に,日本の国の形です。日本は南北に長く連なる列島で,北海道・宗谷岬の先端から沖縄県の八重山諸島までの直線距離はおよそ2,600キロあります。北極から赤道までの距離がほぼ1万キロですから,その4分の1以上にもなるのです。
第2は,国のある場所です。極地にも赤道にもそれほど近くない,中緯度帯に位置しています。
この形と位置のお陰で,日本はひとつの国の中でも,北と南では季節の移り変わりが全く違っています。例えば2007年の3月の札幌の平均気温は摂氏0.9度(気象庁調べ,以下同じ),雪も残る冬景色でしたが,沖縄県の石垣島では平均気温21.6度,下旬には日本一早い海開きも行われ,夏へと向かい始めていました。
少し難しい言い方をすると,日本は北から亜寒帯・冷温帯・暖温帯・亜熱帯の4つの気候帯に属しています。北海道は亜寒帯,南西諸島や小笠原諸島は亜熱帯,他の地域は温帯です。気候帯の違いはその場所に育つ植物の違いとも言え,植物が変わればそれをすみかや食糧として利用している動物の種類も変わります。

黒潮温帯海域の海国立科学博物館日本館『日本列島の素顔』より,黒潮温帯海域の海

第3に,山が多いことです。山がたくさんできた理由はここでは説明しませんが,日本は国土の70%を山地が占める「山国」です。高い山がいくつも連なってできた山脈もあちこちにあります。
山脈は海の湿り気を含んだ風を遮って,山の手前に雨や雪を降らせます。山脈を越えた後の風は湿り気を失って乾いています。
夏には北太平洋高気圧から噴き出す南東の風が強くなるため,太平洋側で蒸し暑くなり,夕立など雨が降りやすくなります。冬にはシベリア高気圧からの北西の風が強まり,日本海側で雪が増えます。
東京からのスキー客も多く訪れる新潟県の湯沢から東京都の丸の内までは直線距離で約160キロ,新幹線ならだいたい1時間20分ほどで,東京から遠い印象はほとんどありません。ところが,間にある越後山脈の影響により,2ヶ所で降る雪の量は大きく変わります。2009年1月の1ヶ月間に降った雪の量を比べると湯沢では246センチ(アメダスでの観測のため,スキー場での積雪量とは異なります),東京では雪が降った日は3日あったものの,積雪はほぼゼロでした。

山では高く登るほど,周りの気温が低くなります。気温の下がり方は空気がどれくらい湿っているかで変わりますが,乾燥した空気ならだいたい,100メートル登るごとに1度気温が下がります。山の標高にもよりますが,同じ山のふもとと頂上で,生えている植物が全く違う,ということもあります。
日本アルプスなど中部地方の山々で多く見られる高山植物には,氷河時代に平地に生えていた植物の生き残りが含まれています。氷河時代が終わって気温が上がった時,気温のより低い高山へ追いやられたと考えられています。

第4に,国を取り囲む海と海流の存在があります。
日本は周りを海に囲まれた島国です。海岸線は複雑な形のリアス式海岸や岩場・砂浜など変化に富んでいます。
日本の周りの海流は,太平洋側・日本海側それぞれに南からの暖流と北からの寒流が大陸に沿って流れ込み,ぶつかり合っています。
太平洋側の暖流,黒潮はフィリピン沖から北上して来ます。黒潮の影響を最も大きく受ける南西諸島や九州南部沿岸では,夏の海水の表面の温度は30度を超え,冬でも20度を下回ることはありません。この海域の比較的浅いところ(深さ100~200メートル程度まで)では,黒潮に乗ってやって来た熱帯・亜熱帯の生き物が多く見られます。
千葉県房総半島よりも南の太平洋側では,本当ならば熱帯・亜熱帯の海で暮らしているはずのチョウチョウウオやスズメダイなどの熱帯魚が見つかります。卵や稚魚のうちに黒潮に運ばれて来るのですが,生きられるのは夏のうちだけで,冬に水温が下がると死んでしまいます。

太平洋側の寒流,親潮は北部北太平洋,千島列島付近から南下して来ます。北海道や東北北部が特に大きな影響を受けます。この海域の表面の水温は冬には0度近くまで下がり,夏でも20度以上になることはありません。黒潮と比べ栄養分が豊富で,雪解け水などの淡水が流れ込みやすいため塩分濃度は低めです。黒潮よりも深いところ,およそ400メートル程度まで影響を与えており,亜寒帯の生き物が数多くやって来ています。

黒潮と親潮の両方が流れ込んでいるのが,三陸沖から千葉沖にかけてです。2つの海流がどのあたりでぶつかるのかは年や季節によって変わりますが,2つの海流が運んで来た南北両方の生き物が集まって良い漁場になります。

調べてみよう!
夏休み,どこかへ旅行に出かけたら,自分の住んでいる近くでは見たことがない生き物がいないか探してみましょう。
見たことのない生き物に出会ったら,その生き物がどうして家のそばにはいないのか考えてみましょう。

行ってみよう!
国立科学博物館日本館では,3階『日本列島の素顔』,2階『生き物たちの日本列島』で日本に暮らす生き物たちとその生態を紹介しています。
このページではお話し切れなかった,日本列島の生物多様性の秘密もまだまだあります。

日本の自然が抱える問題

豊かで身近な日本の自然。これまでもこれからも,ずっと私たちのすぐ傍にあって,私たちを楽しませてくれる…でしょう,と言えたら良かったのですが,残念ながら日本の自然は今,さまざまな問題を抱えてしまっています。危険な状態になってしまっている場所や,生き物たちもいます。

元々人間の手があまり加わっていなかった山や森,世界自然遺産にも登録されている北海道の知床や鹿児島県の屋久島には,自然に親しもうとするたくさんの人が訪れています。
しかしあまりにもたくさんの人がやって来たために,ゴミやトイレの処理が追いつかなかなかったり,植物が踏み荒らされて傷んだり枯れたりするという問題が起こるようになってしまいました。
人間から餌を与えられたり,人間がポイ捨てしたゴミを拾って食べて,「人間のいるところには食べ物がある」ことを動物が覚えてしまうこともあります。餌の欲しくなった動物が人間の傍に近づいて来たり,人間の家に入り込んだりするようになると,襲われたり部屋を荒らされたりと思わぬトラブルが起こることがあります。
森や島に1度に入れる人数を制限するなどの対策が考えられていますが,少しでも自然をいためないよう,ゴミは捨てずに持って帰る,動物は見るだけにして,触ったり餌をやったりしないなどのマナーを必ず守るようにしましょう。

江戸期の水田と里山ジオラマ日本館2階常設展示『日本人と自然』より,江戸期の水田と里山ジオラマ

キノコやタケノコを採りに行ったり,薪や炭,家を建てる材料として使える木を植えたりと,人間が積極的に利用し,関わってきた山や森を「里山」と言います。里山は元々人間が住んでいた場所のすぐ傍にあり,採り過ぎ,使い過ぎを防ぐため,近隣の人々によって厳しく管理されてきました。
しかし1950年代の後半ごろから,里山は2つの意味で次第に失われるようになりました。都市の人口が増えたことにより,郊外にあった里山の多くが切りひらかれて住宅地になりました。切られずに済んだ里山も,近くに住んでいた人々が都市へ出て行ってしまったために管理する人がいなくなったこと,薪や炭の代わりとなる燃料として石油が使われ始めたために利用する人が減ったことなどにより次第に荒れていきました。

人間が里山に植えていた木は,クヌギやアカマツなどでした。クヌギは成長が早く,10年ほどで木材として使うことができます。樹液にはカブトムシやクワガタムシが集まり,枯れ木にはシイタケが生えます。アカマツの葉や枝は樹脂を多く含み,たいまつや陶芸窯の燃料として優秀です。木材は軽く強いため,家を建てる材料として育てられていました。林の地上に生えるマツタケも大きな魅力です。
これらの木が成長するためには,たくさんの日光が必要です。大きな木が既にたくさんある森では,人間が周りの木を切ったり,枝を落としたりして苗に日光を当ててやらなければ育つことはできません。
里山を利用する人間が減ったことで,森の木は成長に日光が多く必要なものから,日光をそれほど必要としないものへと変化しつつあります。その結果,これまで里山で暮らして来たカッコウやモズ,ムクドリなどの数が減ったという報告もあります。

人間の手が加わらない,より自然な状態の森に変わって行くことを良いことだと考える人もいます。しかし一方で,これまで里山で暮らしてきた動物・植物たちの多くは,里山以外の森で生き続けることは難しいと考えられています。
自然のままに放っておくのが良いことなのか,人間が手を貸すことで里山の状態を保つ方が良いのか,決めるのは簡単ではありません。

生き物たちに会いに行こう!

身近な干潟や磯,里山に生き物の観察に出かけてみましょう。

干潟は砂や泥がある程度の広さで溜まった河口や海岸で,潮の満ちた時には水の底に,潮が引いた時には陸地にと,1日のうちで大きく見た目が変わります。
海水が毎日運んで来る養分,水が引く度に直接当たる日光が,様々な生き物たちを育んでいます。
砂や泥に潜っている貝やカニ,ゴカイは,干潮の時に砂や泥を掘ると見つけることができます。砂や泥に開いた小さな穴の傍で,中の住人を驚かせないように静かに待っているとカニやゴカイが顔を出すかも知れません。
生き物をついばみに,鳥がやって来ることもあります。チドリやシギのなかまが砂や泥を時々つつきながらカメラや双眼鏡を持ってのバードウォッチングもお勧めです。

海や湖の水際の中でも,石や岩が多く砂・泥が少ないところを磯と呼びます。
干潟と比べて大きく違うのは,岩の重なりや割れ目など,小さな生き物が隠れることのできる空間がたくさんあること,潮の満ち引きによって岩などのくぼみに海水が残って溜まる,潮溜まりができることが挙げられます。
また,岩に藻などがついていることも多いため,海の生き物たちにとっては餌になりますが,観察に行く時には滑りやすくなるため注意が必要です。

磯の石の裏側をのぞいてみると,小さなカニやヤドカリなどが隠れているのが見つかることがあります。岩の側面や水底には貝やイソギンチャクがついていたり,藻を食べに来た魚や,アメフラシなどの軟体動物がいることもあります。

里山ではクヌギなどの樹液に集まる,昆虫を観察してみましょう。
木の幹から流れ出ている樹液は,人間の鼻でも充分にわかるあまずっぱいにおいがします。
昼間にはカナブンやカミキリムシなどの甲虫,タテハチョウやジャノメチョウなどチョウのなかまがよく見られます。スズメバチがやってくることもあるので,見かけたら触ったり振り払ったりしないように充分注意しましょう。
樹液が出ている木を覚えておいて,夜にもう1度見に行ってみると,運が良ければカブトムシやクワガタムシに出会えます。大型のガや,バッタのなかまがいることもあります。

沖縄県西表島の干潟_科博自然観察会上:沖縄県西表島の干潟の様子。 潮が満ちている間水中にあった泥の中から,潮が引くと共に姿を現したミナミコメツキガニ(円内)
下:国立科学博物館で開催した自然観察会『磯の動物観察会』。
※今年度は終了しました。来年度の実施は未定です。

このように楽しい自然観察ですが,安全に観察する為には幾つかの約束事もあります。
出掛けたい山や海を決めたら,出発する前にその場所について調べましょう。山の持ち主の方や漁協の方に,観察に入る許可をもらわなくてはいけないことがあります。観察に入るだけなら良くても,採集が禁止されている場所もあります。
天気予報も見ておきましょう。少し前までは晴れていたのに急に激しい雨が降り出したり,雷が鳴ったりする『ゲリラ豪雨』も増えています。長時間外に出掛ける時には,携帯電話やラジオなどを持ち,外にいても気象情報がわかるようにしておくとより安心です。
海に行く場合は満潮・干潮の時間も調べておかなければなりません。干潮の間は安全に歩くことができた場所でも,潮が満ちると水の底になったり,小島のようになって取り残されてしまう危険があります。

 屋外に出かける時は帽子をかぶり,動きやすく汚れても良い服を着ましょう。山に行くなら草で肌を切ったり,虫やヘビなどへの対策としても長袖長ズボンがおすすめです。長袖だと暑い,という場合は半袖でも構いませんが,上にはおれる長袖は持って行っておくと良いでしょう。海でも怪我を防ぐため長袖長ズボンが望ましいですが,濡らさないように折り曲げられるものが便利です。
靴は足に合ったはき慣れた靴で,底のしっかりしたものにしましょう。海に出かける場合でも,ビーチサンダルやゴムぞうりはぬかるみで脱げたり,岩や生き物を踏んで怪我をする危険があり良くありません。

暑い屋外での観察は,汗や日焼けで自分で感じている以上に疲れが溜まりがちです。水分や塩分を補給し,適度に日陰に入って休憩をとるようにしましょう。
気分が良くないと感じたら無理をせず,早めに家に帰って休むことも大切です。

おうちの方に「行ってきていいよ」と言われた場合を除いて,出掛ける時は必ずおとなの方と一緒に行くようにしましょう。ひとりで行っても良いと言われた場所であっても,行き先や帰る時間を伝え,黙って行かないようにしましょう。

持って行くと便利なものは筆記用具とメモ帳,スケッチブックなどです。採集が許可されている場所なら,採集のためのアミやくま手など,その場所に応じた道具を用意すると良いでしょう。
標本づくりを目的としている場合を除いて,捕まえた生き物は観察が終わったら,見つけた場所に返しましょう。

お知らせ
ホットニュース『夏休み,生き物たちに親しもう! ― 生き物の「多様性」のひみつ』は次回,8月15日号に続きます。
8月15日号では生物の多様性を守っていくために,私たちひとりひとりは,日本は,世界は何ができるのかについて考えていきます。
ホットニュース8月15日号は,8月15日が土曜日のため17日,月曜日の掲載となります。どうぞお楽しみに!

(研究推進課 西村美里

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