国際宇宙ステーションへ HTV打ち上げ・初補給に成功

H-ⅡB打ち上げ,HTV-ISSドッキング成功

2009年9月11日午前2時01分(日本時間。軌道上のできごとについても同様)。日本の新たな大型ロケットH-ⅡB試験機が,鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられました。
H-ⅡBは先行型のH-ⅡAを改良,打ち上げ能力を増強した2段式液体燃料ロケットです。全長57メートル,総重量は531トン(JAXAホームページ及びプレスキットによる。以下同)。衛星などの軌道投入能力は,低軌道(高度300~1500キロメートルの比較的低い軌道)で19トン,静止トランスファー軌道(投入後,ロケットエンジン及び衛星自体に内蔵されたエンジンで静止軌道へ移行するまでの一時的な軌道。H-ⅡAで打ち上げられた気象衛星ひまわりなどが当初投入された軌道はこれにあたります)では約8トンで,H-ⅡAと比べ約2倍に向上しています。

今回搭載されたのは,現在地上約400キロメートルを周回中の国際宇宙ステーション(ISS,詳細次頁)に物資を運ぶ目的でこちらも新たに開発された,宇宙ステーション補給機(HTV)でした。
HTVは全長約9.8メートル,直径4.4メートルの円筒形で,自力航行用の燃料を含めた総重量は約10.5トン。ISSに滞在中の宇宙飛行士のための食糧や水,衣類,実験装置,交換用の部品などを約6トンまで積むことができます。

打ち上げられたH-ⅡBは,打ち上げから約15分後にHTVを分離,予定された軌道への投入に成功しました。
最初の軌道は地球に最も近づく時で高度200キロ,最も遠ざかった時には300キロとなる楕円状の軌道で,ISSに到達する為には高度が不足しています。HTVには自力航行のための電子機器とエンジン,燃料が搭載されており,約1週間掛けて少しずつ高度を上げ,ISSに接近しました(今回は1号機のため,航路上で性能試験を行いました。通常は打ち上げから約3日で,ISSまで到達できます)。

H-ⅡBの打ち上げH-ⅡBの打ち上げ。
先端の白い部分(HTV用フェアリング)にHTVが搭載されている(JAXAフォトアーカイブス)

9月17日午後10時59分。HTVはISSの後方約5キロに到達し,相対的に停止しました。相対停止とは同じ軌道上を同じ速度で周回する,お互いに近づきもせず離れもしない状態です。
次いでISSの真下(宇宙側を上,地球側を下としています)約500メートルに入り,毎分10~1メートルのゆっくりとしたスピードで上昇,更に距離を詰めて行きました。
そしてISS側のロボットアームに掴まえられ,翌18日7時26分,ISSに結合されました。

HTVには与圧部と非与圧部があります。
与圧部は宇宙飛行士が直接乗り込んで作業する区画で,ISSの内部で使用する物資や部品が積まれています。ISSと同じく空気で満たされており,気圧は1気圧,温度もISSと同等に保たれています。ドッキング後の19日,ISSとの間を隔てていたハッチが開かれ,宇宙飛行士が乗り込みました。21日からは実際に物資を運び出す作業が行われています。
非与圧部は空気がなく,直接宇宙空間に晒される区画です。ISSの外,宇宙空間で使用される,実験装置や交換部品を載せたパレットが収納されていますが,打ち上げ時などに飛び出してしまわないよう固定されているだけで,外との仕切りはありません。
ISSに到着後,パレットはロボットアームで非与圧部から取り出され,実験装置などを降ろした後再びHTVに戻されました。

10月1日現在,HTVは未だISSに結合された状態で軌道上にあります。物資の搬出が続いており,終了後は空いたスペースにISSでの使用済み機材などの廃棄物が積み込まれることになっています。その後ISSから切り離され,地球大気圏に突入してほぼ燃え尽きる予定です。

まとめ
  1. HTVはISSに食糧や物資を運ぶ補給専用の宇宙船です。
  2. ISSの近傍までは自動操縦で接近,ISSのロボットアームを使用してドッキングしました。
より詳しく知りたい方のために

国際宇宙ステーションISS

SSは地上約400キロメートルに建設中の,有人の宇宙実験施設です。1999年に軌道上での建設が開始され,2010年に完成,2016年までの運用が予定されています(※1)。

アメリカ・ロシア・日本・カナダ,欧州宇宙機関(ESA)参加国のうちイギリス・イタリア・オランダ・スイス・スウェーデン・スペイン・デンマーク・ドイツ・ノルウェー・フランス・ベルギーの計15ヶ国の協同プロジェクトであり,これらの国の宇宙飛行士(未だ自国の飛行士を送り込んでいない国もあります)を中心にこれまでに延べ250人以上が滞在しています。

ISS2009年3月,スペースシャトル『ディスカバリー』から撮影されたISS。
中央部奥が当時建設中の『きぼう』(NASA)

居住区画や実験室など各モジュールの開発や打ち上げ,軌道上での組み立ては,各国・各グループの宇宙機関がそれぞれ分担して行っています。
計画全体の取り纏めを担うのは米国航空宇宙局(NASA)です。一部の実験モジュールや,ロボットアームの稼動するレールとその台座,太陽電池と電力系統などを担当しました。スペースシャトルを利用した乗員の移送も行っていますが,シャトルは2010年を最後に退役予定(※2)となっており,アメリカの手で新たな移送が行われるかどうかは明らかにされていません。
ロシア連邦宇宙局(FSA)は,ISSの第1号モジュールとなった基本機能モジュール『ザーリャ』を打ち上げた他,居住モジュール『ズヴェズダ』を提供しました。また,ロシアの有人宇宙船ソユーズは,緊急事態が発生した際に地上へ帰還する手段として,常時1機がISSにドッキングした状態を維持しています。
ヨーロッパ宇宙機関(ESA)は,欧州実験棟を提供したほか,来年の打ち上げを目指して観測モジュールを準備しています。観測モジュールは7枚の窓が組み合わさったドーム型になっており,設置されればISSから地球をはじめ,ドッキング中の宇宙船,ロボットアームなどを直接見ることができるようになります。
カナダ宇宙庁(CSA)は,ISSの組立や実験装置の交換に使用するロボットアームを提供しました。

そして日本の宇宙航空開発研究機構(JAXA)は,日本の実験棟『きぼう』を提供しました。『きぼう』は2008年・2009年に3回に分けてスペースシャトルで打ち上げられ,それぞれ日本人宇宙飛行士が搭乗して組み立て・起動・性能試験などを行いました。
『きぼう』には宇宙飛行士が実際に立ち入って実験を行う船内実験室,実験材料などを保管できる船内保管室,ISSの外,宇宙空間に曝露された環境に実験装置を設置するための船外実験プラットフォームなどが備えられています。

『きぼう』では無重量空間を生かした実験,地上と比べ遥かに薄い大気密度を生かした実験が行われます。
無重量空間では地上ではできない高品質のタンパク質結晶の精製や,それを利用した医薬品開発が行われます。また無重量空間自体が,動植物のからだにどのような影響を与えるのかも調査されます。
地球大気を外側から見ることで,オゾン層破壊の原因となっている微量機体の観測や,オゾン層が放射する電波の観測ができるようになると期待されます。地球環境問題の解決の一助となるかも知れません。
地上では大気の影響でほとんど捉えることのできない,X線カメラを使っての天体観測も予定されています。現在稼動中のX線天文衛星『すざく』とも合わせ,私たちの銀河系の外にある天体の様子や銀河の分布の研究が行なわれる予定です。

※1,2 ISS・スペースシャトルの運用期間は,アメリカ政府・議会などの動向によっては延長される可能性があります。

まとめ
  1. ISSはアメリカ・ロシアを中心に,15ヶ国が参加する国際プロジェクトです。
  2. 各国が役割を分担しており,日本も『きぼう』を提供しました。
  3. 『きぼう』は船内実験室,船外実験施設の両方を備えており,地球環境など様々な分野の研究に貢献が期待されています。

HTVが果たす役割

今回の打ち上げ・補給の成功は日本の宇宙開発のみならず,ISSの組み立て・運用に対しても大きな意味を持ちます。

ISSへの組み立て資材・補給物資の運搬は,これまでアメリカのスペースシャトル,ロシアのプログレス,ヨーロッパのATVの3種の補給機が担ってきました。
スペースシャトルは3種のうち最大の,約14トンの輸送力を持ちます。ISS内部用・外部用の両方の物資を運ぶことができ,同量の荷物をISSから地球に持ち帰ることもできます。しかし来年,2010年を最後に引退が決まっており,シャトルでの輸送を前提に作られた部品を今後どうするのかなど不安の声が聞かれています。
プログレスの輸送力は約2.5トンと他より小ぶりですが,ロシアの宇宙ステーション『ミール』の時代から使われて来た歴史ある補給機です。3~4ヶ月に1度の頻度で打ち上げが可能で,『コロンビア』号の空中分解事故以降スペースシャトルの打ち上げが中止されていた時期には唯一の補給手段ともなりました。
ATVは2008年に登場したばかりの新しい補給機で,7.5トンの輸送力を持ちます。しかしプログレスと同じドッキングポートを使っている関係上,搬出・搬入用のハッチの大きさもプログレスと同じく直径0.8メートルにならざるを得ず,体積の大きい物資の搬出入はできません。

各補給機の主要な仕様各補給機の主要な仕様

これら3種の補給機は,HTVの与圧部と同じく,ISSとのドッキング時(スペースシャトルは常時)には宇宙飛行士が宇宙服なしで乗り込んで作業することができます。一方,ISS船外で使用する資材を輸送できる機体はスペースシャトルが唯一でした。

HTVの輸送力は6トン。与圧部と非与圧部が揃っており,搬出・搬入口の大きさは1辺が1.2メートルの正方形になっており,プログレス・ATVと比べ,より大型の資材の搬出が可能です。
ドッキングにはプログレスなどが使用するポートとは異なり,モジュール同士の結合などを目的とした共通結合機構を使用しています。共通結合機構には自動ドッキングに対応した誘導装置がつけられていませんが,ポートに比べてハッチが広いことに加え,船外用資材を取り出すためのロボットアームが傍にあることも利点と言えます。

ISSが飛行している軌道は,地上からの高度およそ400キロメートル。『宇宙』ステーションと呼んでいますが,正確に言えば地球の大気の内側(熱圏)です。大気の密度は太陽の活動の強度に比例して増減するため,影響の大きさを一律にはお伝えできませんが,ISSと地球大気の間には程度の差はあれ常に摩擦があり,ISSの飛行速度は下がり続けています。そのまま放置しておけば,ISSの高度は下がり,やがては地上に落下してしまいます。
これを防ぐためISS自体とHTV以外の3種の補給機は,スラスターを使ってISSの速度を上げ,地上高度を上昇させる「リブースト」の機能を備えています。ISSの建設開始当初は主にスペースシャトルがその任に当たりましたが,現在はISSの進行方向後方にドッキングするプログレスが主な担当となっており,プログレスよりも推進力・燃料積載量共に優れるATVも今後の活躍が期待されます。
共通結合機構がISSの進行方向前方に位置しているため,HTVにはリブーストの機能はありません。

HTVは,2010年に迫ったスペースシャトル退役後,大型の物資,及び船外用の物資を運搬できるただひとつの輸送機となります。他の補給機と役割を住み分けながら,今後も1回1回の打ち上げ,補給を確実にこなして行くことが求められています。

まとめ
  1. 各補給機にはそれぞれ特徴があり,得意なこと,できないことがあります。
  2. 違いを生かして役割を分担し,着実にこなして行くことが求められます。

HTV Q and A

打ち上げ

Q:何故夜間,しかも01分という中途半端な時間に打ち上げたのですか?
A:ISSの軌道面(ISSの飛行経路が円周となる円形の平面)が発射場所である種子島宇宙センターの上空にある時刻に打ち上げることで,HTVとISSの軌道面を合わせるために必要な推進剤を節約するためです。
JAXAによれば,打ち上げ時刻が約10分前後しただけで,軌道面を合わせるためにはHTVに搭載している推進剤の大部分が必要になります。

ISSへの飛行

Q:秒速約8kmという高速で地球上空を周回中のISS。強力なエンジンや豊富な燃料を持たないHTVはどうやって追いついたのですか?
A:ISSを追い掛けるために精一杯スラスターをふかしてどんどん加速…した訳ではありません。
地球の周りを回る軌道にあるISSやHTVなどの飛行体は,速度を上げると軌道の地上からの高度は高く,その結果軌道を1周するために掛かる時間は長くなります。ISSの速度が変わらないままHTVだけが加速すると,たとえ同じ位置からスタートしても,ISSが地球を1周した時にはHTVは1周し切れていない,つまり遅れた状態になります。
逆に考えれば,ISSに対してHTVを減速してやれば,その分軌道高度が下がり,1周に掛かる時間は短くなります。相手より遅いのに追いつける,というのは可笑しな感覚ですが,地球の周囲360度のうち,同じ時間でどれだけの角度分周ることができたか(角速度)を比較するとHTVはISSより,確かに速くなっているのです。

ISSへのドッキングを控えたHTVISSへのドッキングを控えたHTV。右上に日本の実験棟『きぼう』,右下はISSのロボットアーム(NASA,ISSより撮影)
ドッキング

Q:何故自動ドッキングではなく,ロボットアームでの手動ドッキングを行ったのですか?
A:本文中(前頁)でもご紹介しましたが,より大型の物資の運搬・搬出・搬入を目的とするHTVは,プログレスなどが使用している自動ドッキング対応のポートとは異なる,共通結合機構をドッキングに使用しました。共通結合機構には自動ドッキング用の誘導装置がないため,HTVに限らず自動でドッキングすることはできません。

HTVのこれから

Q:HTVの次の打ち上げはいつか?
A:具体的には決定していませんが,2010年中の打ち上げが決まっています。またその後も2015年まで毎年各1機,合計7機が打ち上げられる予定です。

Q:HTV与圧部に人間を乗せて,宇宙に送ることはできないのか?
A:与圧され,室温も維持されていますが,人間を乗せるためには人間が排出する二酸化炭素ほか化学物質,排泄物等の処理システムなどクリアすべき課題が多くあります。また,仮に乗って行くことができても,大気圏突入・回収システムを備えていないHTVでは地上に戻ることもできません。
しかし,ISSの飛行士が安全に進入できる実績をつくれたことで,有人宇宙船への第一歩を踏み出せたことは確かです。HTVを改良しての有人飛行の計画もあり,今後を楽しみに見守って行きたいところです。

※日本のロケットや宇宙空間の飛行体は,ISSに関わるものだけではありません。
 H-ⅡB以外のロケットや衛星・探査機については,回を改めてお伝えする予定です。

(研究推進課 西村美里)

最新の記事