2009年ノーベル賞 自然科学3賞の業績
2009年ノーベル賞出揃う
2009年のノーベル賞受賞者の発表が出揃いました。
昨年に続く日本人の受賞はなりませんでしたが,就任から1年足らずでのオバマ米国大統領への平和賞授賞や,医学・生理学賞で2人,化学賞で1人と自然科学系の女性の受賞者が多かったことなどが話題となりました。
今年の自然科学3賞は,私たちの身体や日々の生活に関わりの深い,比較的身近で実用的な研究・開発に光が当たったことも特徴です。
ノーベル物理学賞を受賞するのは,光通信に使用するグラスファイバーの実用化に繋がる研究を行った香港(英国籍)のチャールズ・K・カオ氏と,CCD(電荷結合素子)センサーを発明したアメリカのウィラード・S・ボイル氏,ジョージ・E・スミス氏です。 化学賞は細胞の中にあるタンパク質合成の場,『リボソーム』の立体構造を解明した業績により,イギリスのベンカトラマン・ラナクリシュナン氏,アメリカのトーマス・A・スタイツ氏,イスラエルのアダ・E・ヨナット氏の3氏に。
医学・生理学賞は同じく細胞の中にある,染色体を保護する構造『テロメア』と,テロメアの成長に寄与する酵素『テロメラーゼ』の働きを解明したアメリカのエリザベス・H・ブラックバーン氏,キャロル・W・グライダー氏,ジャック・W・ショスタク氏に授与されます。
授与式は現地時間で12月10日,スウェーデン・ストックホルムで開催の予定です。
アルフレッド・ノーベル(Wikipedia)ノーベル賞の発案者であり賞名に名を残すアルフレッド・B・ノーベルは,1833年にストックホルムで生まれました。父イマニュエルは水中火薬の改良などで知られた発明家で,アルフレッドも父を手伝って爆薬事業に携わるようになって行きます。
1866年に爆薬,ダイナマイトを発明。これは,威力は高いものの些細な衝撃で爆発するため扱いが難しかった爆薬,ニトログリセリンを,珪藻土などに浸み込ませることで,威力はそのままに衝撃への耐性を大きく高めたものでした。
折しも第二次産業革命下のヨーロッパでは,輸送手段としての鉄道の建設が盛んに進められており,ダイナマイトはトンネル工事などでその威力を発揮することになります。しかしその一方,1870年の普仏戦争など戦場でも使用され,大きな犠牲を出すことにもなりました。
ダイナマイトの国際特許や工場をはじめとする多国籍企業の展開などで財を成したアルフレッド・ノーベルは,生涯独身で子どももなく,遺言書の中で自分の遺産が『国籍を問わず,人類に最も貢献した人々に』授与されることを希望しました。貢献が評価される分野は,物理学・化学・医学または生理学・文学・国家間の友好の5つ(※1)としました。
第1回のノーベル賞が授与されたのはノーベルの死から5年後の1901年。それから100年以上が過ぎ,後に誤った成果であったと判明した研究や,政治的に過ぎるなどとして批判されることとなった選択もありつつも,かつての受賞研究・発明が現在の私たちの生活に欠かせないものとなっている例,或いは私たちに恩恵をもたらす新たな発展的研究へと繋がった例は数多くあります。
今回のホットニュースでは,2009年のノーベル賞のうち自然科学系3賞について,授賞理由となった研究・発明と,それらがもたらす影響についてお伝えします。
※1 現在一般に『ノーベル賞』の名で授与される賞にはあと1つ,経済学賞があります。これはノーベルの遺言によるものではなく,1968年にスウェーデン国立銀行の提案によって創始されたものです。正式名称は『アルフレッド・ノーベル記念経済学スウェーデン銀行賞』で,授賞式などは他のノーベル賞と合同で行われますが,賞金はノーベルの遺産ではなくスウェーデン銀行から拠出されています。
光ファイバーとCCD:現代ネットワーク社会への恩恵
光ファイバーとCCDセンサーはどちらも,現在の私たちの生活に既に深く入り込んでいます。
このWEBサイトをご覧いただいている皆様なら,記事の右上にしばしば図や写真が添えられているのにお気づきになっているでしょう。これら写真や図は版権の断り書きがある場合を除いて,筆者がデジタルカメラで写真を撮影したり,手描きイラストをスキャナで取り込んだりして使用しています。これらの画像はデジタルカメラやスキャナに内蔵されたCCDセンサーによって電気信号に変換され,科学博物館の光ファイバーケーブルを通って皆様へと繋がるネットワークへ流れて行きます。
地球館地下3階に展示中のすばる望遠鏡モザイクCCD光ファイバーは,離れた場所へ情報を伝える伝送路です。現代のほとんど全ての情報通信で使用されており,地球を取り巻く光ファイバーケーブルの総延長は10億キロメートルにも及んでいます。
しかしここに至るまでの過程は平坦なものではありませんでした。1930年代にはごく短い光ファイバーが医療現場で患者の体内を観察したり,手術時に患部に光を当てる目的で使用されていました。しかしファイバーから光が漏れたり,ファイバー自体も直ぐに傷んでしまっていました。1960年代になるとファイバーの被覆が行われるようになり,胃内視鏡やその他の医療装置への利用が広がるようになりました。しかしこれらの光ファイバーは,いずれもごく短いもので,長距離の情報伝達に使えるものではありませんでした。
1960年代から70年代に掛けてのレーザーの開発で,ファイバーに簡単に導入できる細く安定した光信号が作れるようになりました。しかし折角導入された光も,当時は僅か20メートル進んだだけで最初の1パーセントにまで減衰してしまっていたのです。
1966年,カオ氏は減衰の軽減のため,光ファイバーの材料としてそれまでになく透明度の高い,高純度の石英ガラスを使うことを提案します。そして1970年,彼の提案を受けたアメリカのガラス製造会社コーニングが,長さ1キロメートルの光ファイバーを作成したと発表しました。
1988年,アメリカとヨーロッパの間に最初の大陸間海底光ケーブル(光ファイバーを保護用に被覆しケーブルにしたもの),約6000キロが敷設されました。以来世界中で敷設が続き,現在の総延長は地球をおよそ25000周するまでになりました。伝送効率は1キロメートルを進む間に約5パーセントの情報が失われる程度にまで向上しています。
CCDセンサーは光電効果を利用して,画像情報を電気信号に変換して記録する,言わば電子の眼です。
光電効果とは物質にある一定の振動数以上の光が当たった時(物質に当たった光子1個当たりのエネルギーがある一定より大きい時),物質から電子が飛び出して来る現象のことです。
CCDセンサーが私たちにもたらした恩恵は数え切れません。ハッブル宇宙望遠鏡の美しい天体写真は,宇宙にそれほど興味はないという方でも,見たことのある方は多いのではないでしょうか?その他記憶に新しいところでは『かぐや』が届けた月面の様子や,『はやぶさ』から送られてきた小惑星イトカワの画像もCCDカメラで撮影され地球に伝送されたものです。
しかしCCDの開発者であるボイル氏とスミス氏は,元々映像装置を作る予定ではなかったといいます。2人は当時使われていた磁気バブルメモリーの性能を向上させる手段の研究の途上で,電子を次々に受け渡して行くCCDの原理を思いつきました。
CCDセンサーはシリコン製のプレートの表面に,無数の光電素子が並べられた構造になっています。光を受けて飛び出した電子を,素子内に他より電位の高い部分(他よりも電圧がプラスになっている部分。電位の井戸と呼びます)を作り出すことによって井戸内に集め,次いでセンサー全体の電位を調整することによってひとつの井戸から隣の井戸へと移動させて行きます。素子に当たった光が強ければ強いほど,ひとつの井戸に溜まる電子の量は多くなります。やがてセンサーの読み取り部分にたどり着くと,電子の量は電気信号に変換されて記録されます。
CCDセンサーで記録できるのは,入射した光の強弱だけです。その為撮像された画像は,そのままでは白黒になってしまいます。カラー画像を得るためには,例えば複数台のセンサーを用意しておき,ひとつには赤い光だけを,ひとつには青い光だけを,残りひとつには緑の光だけを透過するフィルターを取り付けてそれぞれのデータを合成するという方法があります。
タンパク質合成の現場に迫る
私たちがどのような生物種で,どのような姿をしているのか。私たちの体の器官や臓器は,それぞれどのように働いているのか。DNAは私たちを私たちとして形作るために必要な情報が記された,生命の設計図だと良く言われます。
例えばヒトの体には,およそ60兆個の細胞があります。その細胞のほとんど(成熟した赤血球など例外もあります)が,核と呼ばれる球状の構造を持っており,核の中には両親から各23本ずつ受け継いだ46本の染色体が入っています。染色体を更に詳しく見ると,細長い糸状のDNAがタンパク質(ヒストン)に巻きついて複雑に折り畳まれているのが判ります。
細長い糸のように見えるDNAは,実際には2本の細い鎖がお互いに塩基と呼ばれる腕状の構造を出し合って結合し,らせん状に絡み合った構造をしています。
DNAの塩基にはアデニン(A)・チミン(T)・グアニン(G)・シトシン(C)の4種類があり,AはTと,GはCとのみそれぞれ相補的に結合しています。
生命の設計情報は,この4種類の塩基の並ぶ順番によって記されています。しかしこのままでは,単なる文字列に過ぎません。
DNAの情報を発現させるためには,大きく分けて2つのプロセスが必要です。まず初めにDNAの2重らせんを解き,塩基の並びの情報を伝令RNA(mRNA)に写し取ります。RNAはA・G・Cとウラシル(U)の4つの塩基からなる1本鎖で,mRNAはDNAの片方の鎖に対しAにU,GにC,CにG,TにはAがそれぞれ結合することで形成(※2)されます。これを遺伝情報の『転写』と呼びます。
完成したmRNAは核から細胞質へと移動し,小胞体にあるリボソームに付着します。リボソームはそれ自体RNA(rRNA)タンパク質からなり,mRNAによって届けられた情報を読み取って生命活動に必要なタンパク質を合成します。
地球館地下1階展示解説より細胞の構造
小胞体の表面に見られる無数の小粒がリボソーム
mRNA上の遺伝情報は,塩基3個の組み合わせで,タンパク質を構成するアミノ酸1個を指定しています。この3つ組の塩基配列をコドンと言い,例えばGGGならグリシン,UUUならフェニルアラニンが指定されます。タンパク質の合成開始や終了を指定するコドンもあります。
指定されたアミノ酸を運搬するのは,コドンと相補的に結合することのできる塩基配列(アンチコドン)を持った運搬RNA(tRNA)です。mRNAがリボソームに到着すると,対応するtRNAがリボソームに集まり,アンチコドンがコドンに結合することでアミノ酸が指定の順番通りに並べられます。アミノ酸同士はペプチド結合で繋がり合い,立体的に折り畳まれてタンパク質となります。ここまでの過程をまとめて『翻訳』と呼びます。
リボソームはtRNAの到着,ペプチド結合の形成,アミノ酸の運搬を終えたtRNAの離脱の各過程を円滑に進め,なおかつ誤ったアミノ酸を持ったtRNAが入り込まないよう監視する役割を持ちます。
DNAからタンパク質の合成に至るこのプロセスは,1950年代の後半には既に提唱されていました。しかしリボソームが実際にどのような働きをしているのかを原子レベルで捉えることは長く不可能とされてきました。
立体的な物質の構造を原子レベルで観察するには,X線結晶構造解析が有効です。X線結晶構造解析では目的とする物質の結晶にX線を照射し,結晶内の原子に当たって散乱されたX線を観察することで原子の種類と立体的な位置関係を知ることができます。
正確な分析のためにはできるだけ均質な結晶が必要です。しかし一般に分子量が大きくなるほど,タンパク質の結晶化は難しくなります。リボソームは大小2つのサブユニットからできていますが,小さい方でもrRNAひとつと約32個のタンパク質,大きい方ではrRNAが3つと,およそ46のタンパク質を含んでいます。これは生体高分子の中でも特に巨大もので,結晶化には様々な工夫が必要でした。
今回の受賞者のひとりヨナット氏は,摂氏75度の温泉に生きる微生物に目をつけました。高温の環境で生き抜くことのできる生物ならば,他の生物より安定なリボソームを持っているのではないかと考えたのです。結晶を安定化させるため液体窒素で冷やしたり,塩分濃度の高い死海の生物を試したこともありました。
やがて結晶化に成功すると,他の2氏を含め複数の研究チームが解析に参入して来るようになりました。各チームは時に競争し,時に協力しながら研究を進め,2000年の夏ごろには大・小それぞれのサブユニットの構造が相次いで解明されました。リボゾーム全体の構造が解明されたのは2006年,ラマクリシュナン氏のチームが他をおさえて最初の報告者となりました。
リボソームの構造が明らかになったことによる恩恵は,タンパク質合成の現場により詳細に迫れるようになったことだけに留まりません。
私たちが細菌などに感染した際の治療に効力を発揮する抗生物質は,微生物が他の微生物の増殖を抑えるために産生する様々な化学成分を薬として利用したものです。微生物が作る物質そのものを使う場合もあれば,効力を強めるなどの人工的な改良を加えて使用する場合もあります。
抗生物質の効き方には,例えばペニシリンなどのように細菌の細胞壁の合成を阻害して細菌の生育,増殖を抑えるタイプのものもありますが,結核の治療薬として知られるストレプトマイシンなどは細菌のリボソームRNAに結合し,生存に必要なタンパク質の合成を阻害します。
感染症治療に大きな成果を上げて来た抗生物質ですが,それらが効かない耐性菌も多く出現しており,常に新たな物質の発見,開発が求められています。リボソームの立体構造が明らかになったことにより,リボソームの働きを阻害するタイプの新たな抗生物質の開発が進むことが期待されています。
※2 多くの真核生物では,DNAから転写された情報がそのままmRNAとなる訳ではありません。DNAの情報にはアミノ酸の指定とは関係のない配列が多く含まれるため,転写後のmRNA前駆体から不要部分を切り落とし,必要な部分だけを繋ぎ合わせる(スプライシング)必要があります。
テロメアとテロメラーゼ:細胞の老化の功罪
DNAの役割は,情報の発現だけではありません。自己をコピーし,情報を次の世代へと引き継いで行く必要もあります。
DNAのコピーが作られるのは,細胞が分裂する時です。DNAの2重らせんが解け,DNAポリメラーゼの働きによってそれぞれの鎖に新たな塩基が結合し,元と全く同じ2本のDNAが作られます。
DNAポリメラーゼがDNAの複製を開始するには,プライマーと呼ばれる短い核酸の断片が足場としてDNAに結合する必要があります。
プライマーはRNAやタンパク質から供給され,DNAの配列そのものとは全く関係がありません。DNAの複製開始後すぐに酵素によって分解されてしまいます。プライマーが結合していた部分の配列情報は複製されないため,新たな鎖は元の鎖よりプライマー分だけ短くなってしまうことになります(詳細は文末註 ※3)。
複製の度にDNAが短くなるのだとすれば,生存に必要な遺伝情報は次第に失われ,遂にはDNAそのものが消滅してしまうことになります。しかし実際には細胞は何度も分裂を繰り返しており,何故それが可能なのかは長く謎とされてきました。
ブラックバーン氏とショスタク氏は,染色体のそれぞれの端に見られる特殊なDNA配列『テロメア』が,染色体を保護するキャップの役割を果たしていることを発見しました。前頁でご説明したように,染色体はDNAがヒストンに巻きついて折り畳まれたものです。テロメアはDNAの端にある生物固有の特徴的な繰り返し配列で,存在は1930年代から知られ,染色体同士の融合を防ぐ働きがあると言われてきました。
1970年代,ブラックバーン氏は単細胞生物(繊毛虫)テトラヒメナのDNAを解析し,末端に『CCCCAA』の短い塩基配列が繰り返し現れることに気がつきました。同時期にショスタク氏は,鎖状DNAを人工的に合成して作成したミニ染色体を酵母菌に導入すると,染色体が急速に劣化することに気づいていました。
1980年,全く異なる生物を研究対象として来た2人の共同研究が始まりました。ブラックバーン氏がテトラヒメナからCCCCAAの繰り返し配列を単離,ショスタク氏はその配列を,ミニ染色体のDNAに結合させて酵母に導入しました。その結果ミニ染色体は劣化せず,繰り返し配列が染色体を保護していることが明らかになりました。
テトラヒメナの遺伝子構造が全く別の生物である酵母の中で機能したことにより,繰り返し配列の働きは生物種に関わらず,普遍的なものであると推定されました。現在ではほとんどの動物・植物に繰り返し配列 ― テロメアの存在が知られています。
末端にテロメアがあることにより,細胞分裂によるDNAの複製が繰り返されて行ったとしても,短くなって失われるのはテロメアの部分だけで済みます。しかし逆に言えば,DNAの複製が繰り返されて行くほどに,テロメアの長さは短くなって行きます。これを細胞の老化といい,老いた細胞が更に分裂を繰り返した場合,いずれテロメアは完全に失われ,必要な遺伝情報がむき出しになってしまいます。
必要な遺伝情報の部分に短縮が起こると,生命活動に必要なタンパク質の合成が正常に行われなくなります。行われないだけであればまだしも,異常なタンパク質が作られてしまう危険もあります。これを防ぐため,老いた細胞ではそれ以上の分裂増殖を行うことができなくなっています。
ブラックバーン氏とグライダー氏は,短縮されたテロメアを伸長させる働きを持つ酵素『テロメラーゼ』を発見しました。
老いた細胞ではテロメアが短くなっていますが,裏を返せばテロメアの長さを維持することができれば,細胞の老化を遅らせることができます。
いつまでも若くいられる…といえば良い話にも聞こえるのですが,細胞の老化がそのまま組織や体全体の老化に繋がって行くかどうかは今のところ明らかにはされていません。むしろ癌細胞ではテロメラーゼの働きが活発なことが知られており,テロメアがいつまでも短くならないために,細胞が無限に増殖してしまっています(※4)。
テロメアの構造,働きが明らかになったことで,癌細胞のテロメラーゼをターゲットとした新しい癌治療,癌ワクチンの研究が始まっています。既に治験の段階に至っている研究もあり,新たな光明がもたらされる日も遠くないのかも知れません。
※3 DNAの鎖には方向性があり,片方の末端を3'末端,もう一方の末端を5'末端と呼びます。2本の鎖は互いに逆向きに結合しており,鎖の一方の5’末端にもう一方の鎖の3'末端が対応しています。DNAの複製は2本の鎖で同時に進行しますが,DNAポリメラーゼが新しいDNAの鎖を作ることができるのは5’末端から3'末端へ向かう一方向に限られています。
コピーの元になるDNAのうち一方の鎖(リーディング鎖:元の鎖の3'側から複製が始まる)では,新たな鎖は5’から3'へと一気に伸びることができますが,もう一方(ラギング鎖:元の鎖の5'側から合成が始まる)では5'から3'へ向かう不連続なごく短い鎖(岡崎フラグメント)が次々に合成され,その後酵素の働きによって1本に繋ぎ合わされています。複数の合成が同時多発的に行われるラギング鎖の複製は,リーディング鎖と比べ多くのプライマーを必要としますが,末端以外ではより上流から複製を進めてきたDNAと置き換わるため長さの問題は起こりません。
プライマー分の塩基配列が失われてしまう問題は,いずれの鎖かに関わらず,飽くまでそれより上流のない5'末端(元の鎖から見れば3'末端が持っていた情報)に限られています。
※4 逆に幾つかの遺伝病は,テロメラーゼの働きがほとんどないか弱すぎるために細胞がダメージを受けることで起こると考えられています。
参考:ノーベル財団プレスリリース(全頁)
(研究推進課 西村美里)