あのニュースは今? ― 変わり続けるニュースを追って

ニュースの『その後』を見てみよう

ホットニュース製作用資料ホットニュース製作用資料と,ホットニュースから生まれたNEWS展示のチラシ(一部)

今回のホットニュースでは,これまでにご紹介したニュースの中から,幾つかの話題の『後日譚』をお届けします。

日々刻々と変化する社会情勢と同じように,科学にも時に急速な革新の時期があり,時には少し歩みを緩めて,これから何を,どうしていくべきなのだろうかと熟慮する時期も訪れます。ニュースを視聴する私たちは,何か変化が起こる度に,その変化が自分や身の回りにどんな意味を持つのかを考え,変わることを歓迎するのか拒否するのかを択んでいかなければなりません。

ニュースに取り上げられる話題は日々さまざま。筆者自身も身近に思える話題もあれば,こんなの解らないよ…と溜息を吐きたくなる話題も数知れずあります。情報の海に溺れながら,掴む藁が欲しい,もう少し楽に浮いていられそうな板切れか,欲を言えば小舟が欲しい…と手を伸ばし続ける毎日です。

それでも,解らないからと目を背けることなく,見つめ続け,考え続けたいと願って,敢えて難しい,とっつきにくい,皆様の選択が分かれそうなテーマも多く選んできました。

科学情報の大海を泳ぐ皆様にとって良き藁となれたか,或いは荒波となってしまったかは判りませんが,それぞれの話題について「この先どうなったかニュースを点けてみようかな?」「自分がどうしたいか少し考えてみようかな?」と考えてくださる方が少しでも増えてくだされば幸せです。

『ホットニュース』では今後とも科学や科博のホットな話題を皆様にお届けして行きます。こんなことが知りたい,ここが良く解らない…というご意見,ご質問も引き続きお待ちしています。
新聞やテレビで気になった科学ニュースをもう少し詳しく知りたい,という時,科博の展示や研究の裏側をちょっと覗いてみたい時。これからも是非『ホットニュース』のページを開いてみてくださいね!

新潟のトキ,上野のパンダ…動物たちの『その後』

パンダ『初公開!はく製リンリン』で展示されたリンリンのはく製。
※このはく製は現在開催中の『大哺乳類展 陸のなかまたち』でも公開しています。
放鳥後初の自然産卵か?放鳥トキ2世誕生に期待

新潟県佐渡島で昨年と一昨年に放鳥され,野生復帰が目指されているトキ。今年3月初めごろから,放鳥されたトキのうち一部の個体がオス・メスのペアになり,他の個体から離れて2羽だけで行動している様子が何度か報道されてきました。

くちばしでつまんだ木の枝を渡し合う『枝渡し』やオスがメスの背中に乗る『偽交尾』などの求愛行動が観察されたとの報道もあり,巧く行けばこのままつがいになるかも知れないとの期待が高まっていました。

環境省は3月29日,2008年秋に放鳥された3歳のオスと2009年の秋に放鳥された1歳のメスがつがいとなって佐渡市内に巣をつくり,産卵した可能性が高いと発表しました。卵の存在を確かめた訳ではありませんが,オス・メスが交代で巣の上に座り込むしぐさを見せていることから,卵を温めているのではないか,と解釈できるとのことです。
抱卵期間は約26~28日(佐渡トキ保護センター)とされており,巧く行けば4月の下旬にはヒナが見られるかも知れません。放鳥個体同士からヒナが誕生すれば,野生復帰に向けた大きな1歩になります。
他にも2組のペアで巣作りが確認されていますが,こちらでは産卵の気配は見られないようです。

3月上旬には次回の放鳥候補として順化ケージに移されていた個体がテンに襲われ,うち9羽が死亡しました。環境省はこの4月にも再発防止策をまとめた上で,残った個体で引き続き秋の放鳥を目指して行くとしています。

2011年,新たなパンダがやって来る?

2008年4月,上野動物園で飼育されていたジャイアントパンダ(愛称リンリン,オス,当時22歳7ヶ月)が死亡。1972年10月のカンカン・ランラン来日以来,およそ37年に渡った上野のジャイアントパンダの歴史が途絶えました。
国立科学博物館では,上野動物園からリンリンの遺体の寄贈を頂き,はく製標本・骨格標本を製作しました。このはく製と骨格を,上野動物園でこれまで飼育されていた他のジャイアントパンダたちと共に公開した,NEWS展示『初公開!はく製リンリン』(2008年12月~2009年4月)には,非常に多くの方々のご来場を頂きました。
1頭1頭のはく製を見比べながら,顔つきや体つき,模様の色の濃さなどの違いを観察されていた方。カンカン・ランラン見たさに上野動物園で行列を作り,見られたのは後姿だけだったと思い出をお聞かせ下さった方。小さなお子様を腕に,本物のパンダを見せるのは初めてなんです,と仰っていたお母様。 筆者が展示室でお会いした方はごく一部ですが,皆様のパンダへの関心の高さ,リンリンへの哀惜の想いが伝わって来ました。

今年2月,石原慎太郎都知事は記者会見で,中国からジャイアントパンダのオスメス各1頭をレンタルし,2011年の早い段階で上野動物園で飼育を始めると発表しました(東京都HP,石原知事定例記者会見録)。繁殖を含む共同研究を目的に,年間95万ドル(約8500万円)を支払うことが条件です。
レンタル費用が掛かること,希少動物であるジャイアントパンダを生息地から連れ出すことなどに対しては反対意見もあります。上野での繁殖や,2008年5月の四川省の大地震で被害を受けたジャイアントパンダ生息地や保護施設への支援に繋がるという見方もあります。
いずれにしても,やって来る2頭のジャイアントパンダがリンリンやそれまでの個体同様,多くの人々とって,動物への興味・関心を掻き立てる存在になってくれることは間違いないでしょう。

写真:『初公開!はく製リンリン』で展示されたリンリンのはく製。
※このはく製は現在開催中の『大哺乳類展 陸のなかまたち』でも公開しています。

クロマグロ絶滅危惧種指定論議の『その後』

クロマグロクロマグロ漁(Wikipedia,Credit: Kotarokurosawa)
クロマグロ,絶滅危惧種指定を回避

近年資源量の落ち込みが心配されている,大西洋・地中海産のクロマグロ。西ヨーロッパのモナコ公国は昨年10月,大西洋のクロマグロをワシントン条約付属書Ⅰに記載する,すなわち絶滅の恐れのある種に指定して,国際的な商取引を禁止することを提案しました。

今年3月,中東,カタールのドーハで開催されたワシントン条約の締約国会議の主な議題のひとつが,この提案を採択するか否かでした。

私たち日本人は,世界的に見ても有数のマグロ消費者であり,クロマグロについては全消費量の約6割を大西洋・地中海からの輸入に頼っています。クロマグロの国際商取引が禁止され,輸入することができなくなれば,クロマグロは日本人の食卓から消えないまでも遠いものになるであろうことは想像に難くありませんでした。
これに対して日本は,クロマグロ資源の減少自体には同意する立場を取りながらも,大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)による資源管理を継続し,漁獲量を制限することによって資源の回復は可能な筈だと主張して来ました。しかしモナコ側はICCATの漁獲制限を超えた密漁が横行しているとして,資源ではなく野生動物として,ワシントン条約で保護を訴え続けてきました。

モナコ案にはアメリカやEU諸国が支持に回るとの前評判もあり,反対派の日本の立場は厳しいのではないかとする見方も広がっていました。
しかし採決の結果は賛成20票に対して反対68票,棄権が30票(票数は水産庁HPによる。以下同)と大差で否決,取引禁止までに1年間の猶予期間を設けるとしたEUによる修正案も,賛成が43票に対し反対が72表,棄権が12票で同じく否決されました。

クロマグロの国際取引の禁止はひとまず回避されましたが,クロマグロの資源量が持続的な利用に堪える状態だと国際的に認められた訳ではありません。
今後も引き続きクロマグロを利用し続けることを望むのであれば,日本はICCATの中で,一層主導的な立場を発揮し,密漁などの不正な漁獲・取引を防止するために積極的に取り組んでいく必要があります。
赤松農林水産大臣は3月25日に談話を発表し,ルールに従っていないと思われる漁獲物は一切輸入しない,蓄養に頼らない完全養殖技術を普及・定着させるなど,今後日本が取り組むべき幾つかの方針を示しました。
私たち消費者に対しても,漁獲制限や禁漁期間への理解や協力が求められています。食べたい時にいつでもマグロを食べられるように。今後とも情勢を注意深く見守って行きたいところです。

『はやぶさ』帰還へ,『あかつき』間もなく打ち上げ…太陽系探査機の『その後』

金星金星探査機『マゼラン』が撮影した金星(NASA/JPL)
『はやぶさ』間もなく帰還

2003年5月に打ち上げ,2005年の11月に小惑星イトカワに着陸し,小惑星表面からのサンプル採取に挑戦した小惑星探査機『はやぶさ』。エンジンや姿勢制御装置の故障など様々なトラブルを乗り越え,2010年6月の地球帰還を目指してきました。
JAXA,月・惑星探査プログラムグループの発表によれば,『はやぶさ』は順調な飛行を続けており,今年1月中旬には地球の引力圏を通過する軌道に入り,2月下旬には月軌道の内側に,3月の半ばには静止衛星の軌道の内側に…と着実に地球に近づいています。

『はやぶさ』の最終的な目標は,イトカワのサンプルが入っている可能性のあるカプセルを地表に帰還させることです。3月の半ばまでの『はやぶさ』は地球の公転軌道の内側(地球から見ると太陽方向,昼側)を通る軌道を飛行していました。地球は太陽の周りを反時計回りに公転しながら,同時に反時計回りに自転しています。公転軌道の内側から地球大気に突入した場合,地球の自転と進行方向が逆になる為,突入の速度が速くなり過ぎます。速度を下げるには公転軌道の外側を通るよう『はやぶさ』の軌道を変更し,地球の自転方向と同じ方向から突入させる必要がありました。
3月25日,『はやぶさ』は地球の夜側を通る軌道への軌道変更に成功,昨年春から断続的に行って来たイオンエンジンの運用を終了しました。

現在の軌道は最も地球に近づいた時で高度1万4000キロ。この後も少しずつ軌道を調整しながら,引き続きカプセルの回収を目指すことになります。

打ち上げ迫る金星探査機『あかつき』

金星探査機『あかつき』(プラネットC)プロジェクトは,金星の大気や気象現象の観測を主な目的とする,世界でも初めての本格的な惑星気象探査ミッションです。2010年5月18日に種子島宇宙センターから打ち上げられ,打ち上げから約半年後には金星に到達する予定になっています。

金星は赤道面での直径が地球の約95%,質量は82%。地球と同じく岩石質の地表を持ち,成分は大きく異なりますが大気をもっています。太陽系の他の惑星と比べると,直径がより小さかったり,大気がなかったり,或いは地表がガス状だったりと,地球とはかけ離れた姿のものが多い中,金星は地球と良く似たタイプの惑星と言えます。
しかしこの2つの惑星にそれぞれ近づいてみると,大気と気象の様子は大きく異なっています。金星の大気の主な成分は二酸化炭素で,太陽からのより近い距離と,二酸化炭素による温室効果が地表を温め続け,地表面の温度は摂氏約460度にもなります。大気圧は地表でおよそ90気圧,空は硫酸の雲で覆われ,秒速100メートルにも達する暴風『スーパーローテーション』が吹き荒れています。金星の自転速度よりも遥かに速いこの風の生じるメカニズムは,太陽系の中でも最大の謎のひとつです。

地球と良く似た大きさの惑星,金星の大気を調べることで,地球の大気はどのようにして生まれたのか,金星のような過酷な環境にならずに済んだのは何故なのかを理解することができると期待されます。
金星の厚い雲の下では,何が起こっているのでしょうか。地球のように稲光が閃いたり,火山活動による焔や灰を見ることはできるのでしょうか。『あかつき』に搭載された複数の波長のカメラが捉える,金星の素顔に期待しています。

(研究推進課 西村美里)

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