孤島に生き残っていた小型人類ホモ・フロレシエンシスの謎
大発見!ホモ・フロレシエンシス
人類学の分野で国際的な注目を集めている小型人類ホモ・フロレシエンシス。2003年に、インドネシアのフローレス島にある洞窟から発見され、大発見となり、人類学研究に大変重要な課題を投じた新種の小型人類です。
通称“ホビット”と呼ばれるこの人類は、身長も脳サイズも極端に小型です。これまで原人は存在しないと考えられていた海の向こうの島に、かなり最近まで生息していたことがわかっています。ネイチャーやサイエンスなどの有名学術誌に論文が掲載されたほか、ナショナルジオグラフィック、NHK等々さまざまなメディアに取り上げられ、発見された場所であるリャンブア遺跡はとても注目されています。
国立科学博物館人類研究部の研究者は、現在この化石の研究に携わっていますが、その成果を生かしてホモ・フロレシエンシスの精巧な復元像を作成することができました。国立科学博物館地球館地下2階人類の「原人・旧人の進化」コーナーで、新たな目玉展示として、平成22年3月22日から公開しています。

今回のホットニュースでは、この「小型人類ホモ・フロレシエンシス」の第一線の人類研究について紹介いたします!
どんなところから発見されたの?─ 実際の発掘現場
フローレス島西部にある町ルテンから北西7km、海抜500mの位置に、石灰岩からなるリャンブア洞窟があります。“リャンブア”とは現地の言葉で、「つめたい洞窟」という意味です。ここから発見されました。
リャンブア(Liang Bua)洞窟とは?
奥行き40m、入口は25m幅あり、広い洞窟です。この洞窟は、大変空気の循環がよく、住みやすい環境であったようです。その周辺では、石器を作るのに適した石、チャート、玉石、安山岩がとれます。水源になっているラチャン川は、地元の人の水田や生活用水に使われています。もともとは地下に形成された洞窟でしたが、川の流れの変化で一部が削られ、北側が開いて洞窟ができました。
発掘調査はどんなふうに行われるの?
1960年代から、この洞窟内をいくつものグリット(区画)に区切って、発掘調査が行われています。その結果、こちらの洞窟からは、なんと2種類の人類が発見されたのです。1つは、1万年前より新しい地層から出現しているホモ・サピエンス、そして、もう1種類が、10万~1万数千年前の地層から発見された、今話題となっているホモ・フロレシエンシスです。
洞窟の東壁に近いグリッドからは、もっとも保存の良い全身骨格化石であるLB1(リャンブア1号)を含め、様々な発見がありました。このグリッドは現時点で9.5m掘っており、1.5mごとに足場となるステップが作られて、深い発掘現場に一気に下まで落ちないようになっています。

発掘の始め方、進め方
他のグリッド(区画)の掘り出された土などが混ざらないように(特に違う時代のものが混ざらないように)、掘り始める場所を清掃してから発掘が始まります。10cm程度の深さ、あるいは自然の地層ごとに少しずつ掘り進みます。何か発見された場合は、立体的に座標をとって丁寧に記録をとります。どの層のどの部分に、どんな形でみつかったかの情報は化石を理解するためにとても重要だからです。
同様に発見される動物化石も、化石自体が壊れないように接着剤で固めてからとりだします。その後ベースキャンプでクリーニング作業が行われます。地層中から炭化物がみつかれば炭素C14による年代測定ができ、地層の年代(いつ頃堆積したのか)を決めることができます。保存された状態のままから、正確に情報を取り出すため、汚染(違う異物が混ざってしまうこと)がないように、きれいな道具を使って作業します。
掘った場所だけを検討するのではなく、もちろん発掘で出てきた土も、小さな遺物が含まれていないか調査します。重さを量った後、専門の担当者が篩にかけて石器などを見つけます。数センチレベルの大きなかけらを調べたあとに、細かく調べるために2-3mmの篩にかけて、細かい破片なども丁寧に収集します。さらに、水洗ふるいを行ってもっと細かく調べて出てきたものは見逃しません。
実際発見された様子は?
ホモ・フロレシエンシスの地層の調査は特にメディアに注目されています。でも、その上のホモ・サピエンスの地層の出土遺物も大変重要なのです。上層からはイノシシ、サル、ヤマアラシ、ジャコウネコなど、人が持ち込んだと考えられる動物の骨が出ています。現代人の骨は9500年前が最古ですが、この島で埋葬された例として最古であるなど大変興味深いものです。その2つの層の間には、大量のタフ(火山灰)の層が挟まっていて、2つの層が全く違う時代であることが分かります。このタフは3mの厚さがあり、細かい白いタフの層と下の粗い黒い層からなります。
黒い層の下からステゴドン(絶滅したゾウ)、コモドオオトカゲ、巨大なラット、ハゲコウ(腐肉食の巨鳥)、カメ、そしてホモ・フロレシエンシスが見つかっています。フローレス島のような孤島では、動物の体のサイズが極端に小さくなったり大きくなったりすることがあります。リャンブアでも、ラット、ハゲコウ、トカゲは大きくなっていますが、ステゴドンは小さくなっていました。ステゴドンの化石は多数見つかっていますが、その大半が幼獣のもので、ホモ・フロレシエンシスが狩って持ち込んだのではないかと考えられています。
そして・・・ホモ・フロレシエンシス、もっとも保存が良くタイプ標本となった LB1(リャンブア1号)の全身骨格化石は、地表下約6mの地点で見つかりました!一部の骨は間接した状態で発見されましたが、大変もろかったので固めてから掘り出されました。取り上げは慎重に、3つに分けて1週間もかかって行われました。頭の骨は手に乗るぐらい小さな骨です。LB1以外の別個体の顎や脚の骨も、みなとても小さな個体でした。そこで、あだ名が“ホビット”とつけられています。
進められている研究 ─これまでとこれから
ホモ・フロレシエンシスについて、国際的な研究プロジェクトがどのようにおこなわれているのでしょうか?どんなことが明らかになっているのでしょうか?インドネシア国立考古学研究センターでは、国際的な研究協力のもと研究が進められています。
様々な研究分野―ホモ・フロレシエンシスの骨格についての研究は?
ホモ・フロレシエンシスの骨格について、インドネシア以外にもオーストラリア、アメリカ、日本など様々な国の多数の研究者が、研究を分担して行っています。現時点で明らかになっている主な特徴は、身体サイズが極端に小さい(身長1メートル強)、脳がチンパンジーや猿人並みに小さい、脚が短く腕が長い、手の骨には原始的な特徴がある、などです。足が脚と比べて大きいので、走るのは苦手だったという推測もあります。
また、ホモ・フロレシエンシスは病気のために小さくなったのではないかという説もありましたが、それについては様々な特徴から違うことが判明しています。科博の研究チームは、現在、頭骨の詳しい解析などを行っていますが、これが終わればまた新たなことが明らかになるでしょう。

ホモ・フロレシエンシスはどんな環境にいて、どんな生活だったのかについて研究する!
ホモ・フロレシエンシスが生きていた頃の島の環境についても、研究が進められています。動物化石については先に述べましたが、そのほかにも洞窟や洞窟の前の谷がどのように形成されたか、洞窟の中の堆積がいつどのように起こったかを調べることも大事です。例えば、10万年以上前の洞窟内には川の水が入り込むことが多く、動物にとって住みづらい環境であったと考えられています。このほか、当時の植物についても研究が進められています。
どのような検討がされているのでしょうか?どんなことが明らかになっているのでしょうか?
孤島において、動物の体のサイズが変化する例が知られています。足が短く、脳サイズが小さくなる等の変化が見られる場合もあります。理由としては、島に入って来やすさ、捕食者がいない、たべものがすくない・・などの 島の環境的影響があるようです。ホモ・フロレシエンシスの小さな身体も、このように島における矮小化として説明できるのでしょうか? しかし一度大きくなった脳までも小さくなってしまうなどということが、人間の進化の中であり得るのでしょうか?
この謎を解くためには、フローレス島のより古い時代の動物と人類について調べる必要がありそうです。少なくともステゴドンは、80万年前には大型でしたがリャンブアの時代には小型化していました。石器が存在することから、人類は島に少なくとも100万年前からいたことがわかっています。ホモ・フロレシエンシスの祖先候補であるこの人類の化石が見つかれば、身体サイズの謎を解く大きな手がかりになると思われますが、残念ながら現時点ではみつかっていません。
もしホモ・フロレシエンシスの祖先の脳がもともと小さかったとするなら、この人類における極端な矮小化を考える必要がなくなります。このような考えから、モーウッド博士は、200万年前のアフリカにいた、原始的で脳が小さいホモ・ハビリスのような人類から派生したのでは?と考えています。
教科書では、人類はアフリカでホモ・エレクトスまで進化してその後にユーラシアへ拡散したとされています。もし、ホモ・フロレシエンシスが、ホモ・ハビリスとつながると考えられるなら、今までの人類進化の考え方を変更しなくてはなりません。一方で、ホモ・エレクトスとつながったとしても、今度は人類進化における極端な矮小化という問題が出てきてしまいます。どちらにしろ、大変大きな課題がホモ・フロレシエンシスによって与えられているのです。
ホモ・フロレシエンシスの起源を探るため、リャンブア洞窟以外の場所でも、野外調査が始まっています。リャンブア洞窟の調査が新たな研究調査に結びついているといえるでしょう。リャンブア洞窟での証拠は、人類の進化についてこれまでの説明が単純すぎたこと示しめしています。その詳細は、今後の新しい発見で明らかになっていくことでしょう。
精巧な復元像完成!─ 小さかった私たちの仲間
生体復元展示が出来るまで、どのようなプロセスがあったのでしょうか?
ホモ・フロレシエンシスを復元する!
LB1(タイプ標本であるもっとも保存の良い骨格のリャンブア1号)の生体復元は、既にフランスやアメリカなどでも製作されています。国立科学博物館でも、人類研究部の研究者が、その研究成果に基づいて当館オリジナルの復元を作成しました。
担当したのは海部研究主幹、坂上研究員、馬場名誉研究員です。実際にジャカルタの研究所で骨の長さや間接の大きさなどを計測し、できる限り忠実に再現しました。一部の大きさは推定しなければなりませんが、例えば仙骨が見つかっていないLB1の腰の幅は、まず猿人ルーシーの仙骨で代用し、次いでこれを原人モデルに変換して若干幅を縮めることによって決めました。身長については、大腿骨の長さを現代人の推定式に当てはめた106cm弱という値がありますが、科博の復元では2つ残っていた椎骨から脊柱の長さを推定し、身長を100cmとしました。

復元の流れ
| 1月13日 | 復元のための最初の打合せ。姿勢や場面設定について決め、基本情報を製作側に渡した。 |
| 1月29日 | 一次原型の作成過程でいくつかの問題点が浮上。 |
| 2月8日 | 問題点解決のため、ジャカルタの研究所にてホモ・フロレシエンシスの骨格形態を再検討した。 |
| 2月12日 | 検討結果を持ち帰って、腰幅を狭くするなどの修正を行ったたが、さらに問題点がみつかる。 |
| 3月1日 | 最後の修正を終え、全体の最終確認を行った。これで一次原型の完成。 |
| 3月20日 | 髪型を整えて復元が完成。展示室に設置 |
骨だけから生きていたときの姿全てはわかりませんが、このように、可能な限り科学的根拠のある復元となるよう努力しました。頭骨にあるゆがみ、足の小指がない、怪我をしている骨からもわかる情報は、復元に反映させました。
今回復元されたホモ・フロレシエンシス像は女性ですが、実は、LB1の骨格化石が、女性か男性かはっきりわかっているわけではありません。初めての論文報告で女性と推定されたので、科博でもこれを尊重して女性として復元しました。背景となっている動物の復元画は、オランダの専門家の監修を受けて描きました。
展示の復元の設定は?・・「フロレシエンシスが石器を使って巨大ラットを解体しているところに、突然巨大ハゲコウが現れたので、緊張感ただよう中その様子をうかがっている」というのが場面設定です。LB1は見上げる姿勢をとっているので、ちょうど来館者の方と目線が合うようになっています。是非、常設展示をご覧になってください。
監修/協力:国立科学博物館 人類研究部 海部陽介
参考:常設展改装記念講演会講演内容
※常設展改装記念講演会は、平成22年4月17日(土)に会場:国立科学博物館 日本館2階講堂にて開催されました。
講演会の講演題目
| フロレス島における国際共同研究プロジェクト | トニー・ジュビアントノ博士 (インドネシア・国立考古学研究センター・所長) |
| ホモ・フロレシエンシスの発見:リャン・ブア洞窟の発掘調査 | トーマス・スティクナ博士(インドネシア・国立考古学研究センター) |
| ホモ・フロレシエンシス:その調査と発見の意義 | マイク・モーウッド博士 (オーストラリア・ウォロンゴン大学・教授) |
| 科博で蘇ったホモ・フロレシエンシス:リャン・ブア1号の生体復元展示 | 海部陽介・馬場悠男・坂上和弘(国立科学博物館人類研究部) |