生き物から教えてもらう技術 !─バイオミメティクス」研究最前線
生き物から教えてもらう技術 ─ バイオミメティクス研究

この「バイオミメティクス」の研究には、様々な研究機関、大学、博物館などの研究者や企業が広く総合的に関わっていくことでしょう。その中でも、様々な生物の標本やそれにまつわる情報・資料をもつ科学系博物館の役割はどのようなものでしょうか。海外では、科学系博物館が関わって開発を進められる例が多々あるようです。
国立科学博物館における生物系の研究は、専ら自然史科学という最も基礎的な分野を担っています。解明されたことが「すぐ人の暮らしに役立つ」というような応用科学的な研究は、各研究者レベルでの研究では関連することがありますが、全ての分野をわたった関係性としては、これまで直接的な関わりが少ない状態だったといえるかもしれません。
科学系博物館が所有する様々な大量の標本、そして、すでに蓄積している生物に関する豊富な知識や情報が、この「バイオミメティクス」の研究に関してよりいっそう深く関わることで、実際に役立つものとして見える形となる可能性があります。生物系の研究の幅もよりいっそう広がり、社会的に貢献出来る内容も広がるのではないでしょうか。そして、バイオミメティクスの研究成果が自然史科学研究にフィードバックされることも期待できるでしょう。
協力・監修
下村 政嗣 科学技術動向研究センター 客員研究官
東北大学原子分子材料科学高等研究機構・多元物質科学研究所 教授
友国 雅章 国立科学博物館 動物研究部長
参考文献
「次世代バイオミメティック材料の研究動向と異分野連携」に関するジョイントシンポジウム2010年6月8日(火)会場:国立科学博物館日本館 シンポジウム資料 (http://poly.tagen.tohoku.ac.jp/biomimetics-symposium.pdf)
主催:バイオミメティクス研究会
共催:(独)国立科学博物館、(独)科学技術振興機構、(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構、(独)産業技術総合研究所、(財)化学技術戦略推進機構、北海道立開拓記念館、(国)九州大学先導物質化学研究所、(国)北海道大学電子科学研究所、(国)東北大学原子分子材料科学高等研究機構、(国)東北大学多元物質科学研究所
後援:経済産業省、(社)高分子学会、日本応用動物昆虫学会、日本昆虫学会、日本比較生理生化学会、応用物理学会有機分子・バイオエレクトロニクス分科会、(社)日本表面科学会、(社)日本化学会コロイドおよび界面化学部会、(社)日本機械学会バイオエンジニアリング部門、(社)日本機械学会流体工学部門、エアロアクアバイオメカニズム研究会、(社)表面技術協会、(株)日本経済新聞社
下村政嗣「生物の多様性に学ぶ新世代バイオメティック材料技術の新潮流」 Science & Technology Trends, May 2010(http://www.nistep.go.jp/achiev/results02.html)
バイオミメティクスとは?

「バイオミメティクス」とは、生物模倣、つまり、生物の構造とその機能から着想を得て、それらを人工的に再現することによって、工学や材料科学、医学などの様々な分野への応用を目指そうとする研究です。
「バイオミメティクス」のはじまり
バイオミメティクスの概念(考え方)はかなり古くからありました。1950年代後半に神経生理学者のオットー・シュミット博士によって提唱されました。彼は、シュミット・トリガーという、ノイズ除去用電気回路を発明しました。これは、イカの神経をつかった神経系の研究によって生み出された成果の一つだそうで、そもそも、彼の研究テーマは、生体の機能を工業応用することだったようです。
「バイオミメティクス」の研究は、今どんな状況なのでしょうか?
この「バイオミメティクス」の研究は、比較的新しい研究分野で、現在、欧米、特にヨーロッパ先進国で活発に行われています。日本では、この分野の研究が発展し始めたところのようです。この分野の特徴として、研究を推進するためには生物学、物理学、化学、工学、医学などの大変広範な分野の研究者がしっかりと連携することが大切といえるでしょう。これまではなかなか混じり合うことのなかったような違う分野の研究も、実際に携わる研究者が一緒になって、同じ方向を向き、特定のテーマに向かって研究を進めることが重要になってきます。
日本においては、次世代に向けた「バイオミメティック材料」への関心が高いものの、まだ現状では欧米の研究に比べ、始まったという状態のようです。今世紀になって学際的な融合と産学連携のネットワーク形成を促す政策的な働きかけもあり、「次世代バイオミメティック材料」研究が注目され始めました。工学と生物学の連携やバイオミメティクスの産業においての展開など、よりいっそう充実して図っていくため、我が国が早急に取り組む必要のある課題について、大学、博物館、研究機関、企業、科学技術政策など様々な立場からの問題提起と意見交換の場が作られつつあります。2010年6月8日にも、国立科学博物館を会場にシンポジウムが開催されました。様々な発表において、現状の確認、生物から具体的に開発された技術が紹介、これからについて、発表・議論されました。
この生き物からこんなことが!

では、これまでの所、具体的にどんな生き物の特徴から技術となった例があるのかを見てみましょう。
蓮の葉っぱに学んだ!超撥水性、超親水性
蓮の葉の表面には数ミクロンスケールの凸凹が配列しており、その微細構造とさらにそこから分泌されるワックス状化合物の相乗効果で、超撥水性とセルフ・クリーニング効果を示すことが見出されています。撥水機構を人工的に再現することに成功して、塗料が開発されています。さらにバラやひまわりなどの花弁も超撥水性と強い吸着力をもっていることが知られており、注目されています。
サメ肌リブレット構造を持つ競泳着
オリンピックで注目された競泳用水着では、水着の表面に鮫肌リブレットと呼ばれる構造が付けられていました。リブレット構造とは、数十ミクロンの間隔の周期的な溝で、この構造を取り入れると、流体の抵抗摩擦が少なくなることが知られています。レース用のヨットの船体や航空機の機体にも貼られ、速度の向上や燃費節減に利用されているようです。
美しい蝶やタマムシ モルフォ蝶の色の秘密
タマムシやモルフォ蝶の翅(はね)などが示す金属光沢を持つ色彩は、構造色と呼はれます。構造色とは、光の波長やそれ以下の微細構造によって発色する現象です。そのもの自身には色がないけれど、その微細な構造によって光が干渉するため、色づいて見えるというもの。見る角度に応じて様々な色彩が見られます。色素や顔料のような光の吸収による発色ではないので、色あせの問題がありません。このように、生物の構造色の発現を利用した材料開発が行われており、発色繊維に使用されており、美しい布地が実現しています。
モスアイ(蛾の目)構造から
携帯電話やノートパソコンなどの表示画面に組み込んで、光の反射率を極力抑えて「映りこみ」をなくす反射防止フィルムは、蛾の眼を模倣した無反射フィルムのアイデア。樹脂製フィルムに「モスアイ(蛾の目)構造」と呼ばれるnmオーダーの微細な構造を精度よく形成することで、滑らかに光が透過するようになり、光の反射を抑えることができるそうです。
ヤモリの指はなぜくっつくのか? ヤモリの指を模倣した接着剤
ヤモリは指先から粘着性の物質を分泌していないのにもかかわらず、垂直な壁を登り、天井をはうことができるのは不思議です。実は、ヤモリの指先にはラメラと呼ばれるひび割れ構造があり、その内部には数十万本の剛毛の先端は数百の枝毛に分裂し、個々の枝毛の先端はとても小さなナノスケールの皿状の構造になっています。指先の小さな構造と壁の間に働く力でくっつきます。ヤモリの指のように繰り返し利用が可能で粘着剤フリーの吸着テープなど、フィルムの研究が活発に行われています。また、壁面を移動できるロボットも開発されているようです。
その他・・・まだまだいろいろな分野で「バイオミメティック」が進んでいます。今後、様々な研究機関、大学、博物館などの研究者や企業が広く総合的に関わり、よりいっそう興味深い成果が出てくることでしょう。生物から学んだ技術で作られた、多くの身近な製品に囲まれる日も近いかもしれません。
博物館の自然史研究とバイオミメティクス

この「バイオミメティクス」の研究には、様々な研究機関、大学、博物館などの研究者や企業が広く総合的に関わっていくことでしょう。その中でも、様々な生物の標本やそれにまつわる情報・資料をもつ科学系博物館の役割はどのようなものでしょうか。海外では、科学系博物館が関わって開発を進められる例が多々あるようです。
国立科学博物館における生物系の研究は、専ら自然史科学という最も基礎的な分野を担っています。解明されたことが「すぐ人の暮らしに役立つ」というような応用科学的な研究は、各研究者レベルでの研究では関連することがありますが、全ての分野をわたった関係性としては、これまで直接的な関わりが少ない状態だったといえるかもしれません。
科学系博物館が所有する様々な大量の標本、そして、すでに蓄積している生物に関する豊富な知識や情報が、この「バイオミメティクス」の研究に関してよりいっそう深く関わることで、実際に役立つものとして見える形となる可能性があります。生物系の研究の幅もよりいっそう広がり、社会的に貢献出来る内容も広がるのではないでしょうか。そして、バイオミメティクスの研究成果が自然史科学研究にフィードバックされることも期待できるでしょう。
協力・監修
下村 政嗣 科学技術動向研究センター 客員研究官
東北大学原子分子材料科学高等研究機構・多元物質科学研究所 教授
友国 雅章 国立科学博物館 動物研究部長
参考文献
「次世代バイオミメティック材料の研究動向と異分野連携」に関するジョイントシンポジウム2010年6月8日(火)会場:国立科学博物館日本館 シンポジウム資料
(http://poly.tagen.tohoku.ac.jp/biomimetics-symposium.pdf)
主催:バイオミメティクス研究会
共催:(独)国立科学博物館、(独)科学技術振興機構、(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構、(独)産業技術総合研究所、(財)化学技術戦略推進機構、北海道立開拓記念館、(国)九州大学先導物質化学研究所、(国)北海道大学電子科学研究所、(国)東北大学原子分子材料科学高等研究機構、(国)東北大学多元物質科学研究所
後援:経済産業省、(社)高分子学会、日本応用動物昆虫学会、日本昆虫学会、日本比較生理生化学会、応用物理学会有機分子・バイオエレクトロニクス分科会、(社)日本表面科学会、(社)日本化学会コロイドおよび界面化学部会、(社)日本機械学会バイオエンジニアリング部門、(社)日本機械学会流体工学部門、エアロアクアバイオメカニズム研究会、(社)表面技術協会、(株)日本経済新聞社下村政嗣「生物の多様性に学ぶ新世代バイオメティック材料技術の新潮流」 Science & Technology Trends, May 2010(http://www.nistep.go.jp/achiev/results02.html)