壊さずに中を見る?CTスキャンでの研究資料観察とは?
壊さずに中を見る?CTスキャンでの資料観察とは?

様々な物や生物など、透視して中の様子をそのまま見えるなら、なんて便利でしょうか!
病院などでも使用されているX線CT(X-ray Computed Tomography:X線断層写真撮影)装置。
対象の物を切って中を開けてみなくても、詳しく中の様子を知ることが出来る装置です。断面や立体画像が簡単に得られる、医療現場にはなくてはならない診断装置となってきています。
対象の物(試料など)を破壊せずに、内部の構造を観察することができるという特徴は幅広い研究に大変有用といえるでしょう。この装置は、医療分野以外の様々な研究分野に応用されており、多くの貴重な情報が得られています。
たとえば、古生物の研究において、大変貴重な化石標本の場合、研究だからとはいっても破壊することが許されない場合があります。このような場合、CTでは非破壊で貴重な化石標本から古生物の3次元内部構造などの情報が取得できるので、古生物研究にとって大変画期的な活用方法です。
実はこの度、国立科学博物館の地球館地下1階の恐竜展示室の奥、CTスキャンの装置が設置されました。研究活動や、展覧会準備などに大活躍していくことでしょう。また、皆さんにCTを用いた研究の様子の一面を直接ご覧いただけると思います。
今回のホットニュースでは、この大変便利なCTスキャン装置について、どんな装置かそして、研究での活用などについて紹介したいと思います。
マイクロフォーカスX線CT装置とは?
X線CT装置のCTとは、Computed Tomography(コンピューテッドトモグラフィー)の頭文字“C”と“T”をとっています。測定の原理は、360度の全方位から組織にX線を照射して得られたX線透過率をもとにコンピュータで計算し、断層面上の特定位置でのX線吸収率を算出し、これらのデータを集合させて一つの断層画面で表示したものです。
このX線CTは1968年G.N.Hounsfield博士らによって発明されました。これにより、1979年ノーベル生理学/医学賞を受賞されています。広い分野での活用が期待されるすばらしい発明でした。現在では、当時の装置からは格段と進歩しており、医療を始め、様々な研究分野で活用されています。
普通のX線(レントゲン)写真も、対象物を通過したあとのX線量の減り具合が濃淡で表されていますが、レントゲン写真の場合は一方向にX線を照射して、X線の通り道にある組織や構造すべてのX線吸収量が集約されます。レントゲン写真は言うならば、対象物のX線による像を投影した、一枚の板に押し付けたようなものなのです。
これに対してCTでは、X線の通る方向に沿った「切り口」の様子を再現することができます。全方位から対象の組織にX線を照射して、得られた透過率がコンピュータで計算され、内部構造を反映した微妙なX線透過の差を細かく濃淡として表わすことができ、中がどうなっているのかを知ることができます。さらにCTでは、間隔を密にして連続的に断面画像を撮影することにより、物体全体を三次元的にデータ化することができます。とくに最近では、X線の検出器を複数備え、複数の画像が一度に撮影できるマルチスライスCTが活躍しているようです。観察時間が大幅に短縮され、同じ検査時間でたくさんの情報を得ることができるので、今まで見えなかった情報が見えるようになりました。こうした連続撮影データを利用すれば、物体をいろいろな向きで切った断面も得ることができますし、物体の外形や内部構造などの三次元形状を画像として再現することもできます。
医療用のX線CT装置はその空間分解能が0.1mm程で、生きた人間の体を撮影するのに適した設定で作られているため、もっと小さなものや、もっと大きなものを撮影するのには不向きでした。医療用は人体への影響を加味された設定ですが、その後、半導体チップ等の工業部品の非破壊観察のためにマイクロフォーカスX線CT(マイクロCT)装置が開発され、それぞれの被写体の大きさや性質に合わせた、高解像度の非破壊観察が可能となったようです。産業用は、医療用に比べより広い電圧幅で用い、強い線量が長時間あてられることや、線源がマイクロフォーカスX線であることなど、さまざまな違いがあります。
いろいろ研究で使われています。
CTスキャンは、現在様々な分野で使用され、特殊な技術が開発され、進歩しつつあります。大きな成果も報告されています。例えば、440万年前のラミダス猿人の研究では、マイクロCTが活用され、骨や歯の測定がされ、国際的な深海掘削プロジェクトでは船の上に搭載されて活用されています。
古人骨の頭部復元での活用
古人骨や化石人骨の研究にもマイクロCTが活用されています。化石骨や歯を台に置いてゆっくり回転させながらX線を照射し、断面の形を再現していきます。医療用CTよりも精細な画像が得られ、歯のような小さな物でも約1時間かけて全体を撮影すれば、表面を覆うエナメル質の厚さの微妙な違いまでわかります。また、データはコンピュータで自在に組み合わせられるのでさまざまな分析に利用できます。ラミダス猿人頭部復元では、破片の断面を1万枚以上撮影し、そのうち5千枚の画像から60以上の骨片や歯の3次元データをつくり、頭の形に組み上げられたそうです。1万千年前の「港川人」の頭骨もマイクロCTで撮影し、研究に役立てられています。科博人類研究部の海部陽介研究主幹と河野礼子研究員は、マイクロCTデータをもとに、港川人の下あごの復元をやりなおしました。これによって国内外のデータと比較することが出来、南方要素が強く本土の縄文人とは近縁でない可能性を示すことができたそうです。そして、それらのデータを基にオーストラリア先住民の特徴を含む新たな復元モデル制作に結びついたそうです。
CTによる深海の海底のボーリングコアを観察
深海の海底をボーリングにより掘り、地球について明らかにする国際共同研究である統合国際深海掘削計画(IODP: Integrated Ocean Drilling Program)において、地球深部探査船「ちきゅう」が独立行政法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)により建造・運用されています。その探査船「ちきゅう」は2500mの深海底からさらに7000mまで掘削する機能があり、地殻の下のマントル採取までを目指している世界最高の掘削船です。深海の特殊な環境から掘られた円筒状に掘り出されたボーリングコアである地層サンプルは、船の上ですぐにCT撮影などの非破壊の検査が行われます。CTの装置は病院で使用されるのと同様の機械だそうです。船上ですぐに、コアの状態を調べることが出来、掘削する場所の詳細な決定についての情報を得ることも出来るようです。
国立科学博物館の展示室で、恐竜の骨の中を見てみよう。

この度、国立科学博物館の地球館地下1階の恐竜展示室の奥に設置されたCTスキャンの装置について紹介しましょう。
このCTスキャンは、一辺が50センチまでの大きさの標本を撮影することが出来ます。病院などのCTスキャンよりも小さいですが、マイクロCTなのでより詳細に構造を解析することが出来ます。これを使えば、恐竜の骨格の化石の外からでは見えない脳の形を推定したり、骨の密度を調べたり、クリーニングを開始する前に岩石の中のどこに化石が入っているかを調べたりすることが出来ます。
展示室にこのような研究施設が設けられたのは、科博の研究機関としての一面を知っていただきたいという理由もありますが、特別展のために借用して来た標本をスキャン出来るようにすることも意図されています。現在はまだ試運転中ですが、標本のスキャン予定が決まりましたら、ホームページなどで事前にお知らせしたいと思っています。
Q1: どうしてCTスキャンが展示室に?
みなさんが病院で検査を受けるCTスキャンよりは小型ですが、小さな部分をより詳しく見ることができるマイクロCTスキャナいう機械です。来館者のみなさんに研究活動をかいまみていただくために、展示室の一角にCTスキャンを設置する事にしました。
Q2:CTスキャンでどんなことが出来るの?
化石と現生種の骨格などについて、CTスキャナを使用することによって、脳の形や大きさ、三半規管の形、骨密度、骨と骨の関節の度合いなど、通常ならば標本を破壊(分解)しないとわからないデータを得ることができます。また、標本の形を三次元でデジタル化することもできます。
Q3:どんな標本をスキャンするの?
展示室や収蔵庫の標本を順番にスキャンして行きます。
平成23年度に国立科学博物館で開催予定の「恐竜博2011」では、海外から実物標本を借用し、CTスキャンしたいと思っています。
このようにして、CTスキャンで大事な標本をさらに見てみることによって、もっと詳細が観察でき、さらなる新しい発見が期待されます。是非地球館地下1FのCTスキャン室を見に来てはいかがでしょうか。新たな発見の現場をまのあたりにできるかもしれません!
参考資料
- 論文;林 昭次・竹村貴人・遠藤邦彦・真鍋 真「骨化石観察におけるX線CTの有用性-恐竜Stegosaurus の皮膚装甲の内部構造を例として-」地質ニュース610号,45- 49頁,2005年6月
- 朝日新聞2010年7月6日号22面
- 論文;廣野哲朗・横山 正・高橋 学・中嶋 悟・山本由弦・林 為人(2002),「マイクロフォーカスX線CT装置を用いた堆積物・岩石の内部構造の非破壊観察」,地質学雑誌, 108, 606-609.
- 論文;池原 研(1997)「X線CT装置を用いた地質試料の非破壊観察と測定(1) X線CT装置の原理・概要と断面観察」地質ニュース516号8月号50-61
協力・監修 地学研究部 真鍋 真
對比地考亘、坂田智佐子
北九州市立自然史・歴史博物館 大橋智之