ノーベル賞2010から ─科学への興味を広げてみよう!
ノーベル賞2010から ── 科学への興味を広げてみよう!

ノーベル賞授賞式が12月10日にスウェーデン(平和賞以外)とノルウェー(平和賞)で開催されます。今年度のノーベル化学賞が、2人の日本人に授与されます。北海道大学の鈴木章名誉教授と米国・パデュー大学の根岸英一特別教授のお二人です。米国・デラウェア大学のリチャード・ヘック名誉教授との共同受賞です。
“パラジウム触媒によるクロスカップリング反応の開発”が受賞の内容で、この化学的手法は化学者の可能性を大幅に広げて、その結果、高度な化学物質、例えば自然が創造したのと同じくらい複雑な、炭素をベースとした分子が合成できるようになったことが、受賞理由です。従来は難しかった有機化合物どうしを結びつけるということを、“クロスカップリング”と呼ばれる手法で、金属のパラジウムを触媒に使って結合させる方法を開発したことで、いろいろな新しい物質の合成を可能にしました。
こういったトピックスを軸に、展示を見ながら化学の分野について知識を深めてみるのも良いかもしれません。今回のホットニュースは、今年度のノーベル賞、特に当館の扱う分野に関連して、化学賞と物理学賞の内容を踏まえながら、それに関連した当館の常設展示を紹介したいと思います。
日本人の受賞!ノーベル化学賞2010についてみてみよう

今年度のノーベル化学賞は2人の日本人が受賞するという快挙でした。受賞理由となった有機化合物の合成反応「パラジウム触媒を用いたクロスカップリング」とはどのような内容でしょうか?出てくる用語の解説もまじえながら、順に見ていきましょう。
有機化合物とは?
有機化合物は、炭素原子と炭素原子がつながった化合物を言います。生物の体を構成する物質や生物が作り出す物質のほとんどが有機化合物です。特に生物由来の有機化合物を「有機物」ともいいます。私たちの身の回りの、様々な製品の材料としても広く使われています。高血圧の薬などの医薬品もあれば、テレビの液晶などエレクトロニクスの材料もあります。有機化合物は、炭素原子が結びついてできた骨組みを持ちます。六角形の形のベンゼン環など、どこかで見かけたことのある化学式も多いと思います。その炭素の骨格に酸素(O)、水素(H)、窒素(N)などがくっついたり、化合物によっては窒素や酸素など炭素以外の原子が骨組みに入っていたりすることもあります。しかし、基本は、炭素と炭素が手をつないでいって、小さい分子から大きな分子までいろいろな分子を作るのが有機化合物の特徴です。
炭素原子の結びつき方とは?
炭素原子は、他の原子と結びつくための手を4つ持っています。一つの手どうしで結びつくと単結合、2つの手どうしで結びつくと二重結合、3つの手どうしで結びつくと三重結合といいます。
クロスカップリングとは?
さまざまな用途で用いるために、様々な種類の有機化合物を人工的に作る必要があります。そのためには炭素の原子を思うとおりにくっつけたいのです。しかし、炭素と炭素を結びつけるのは、たいへん難しい作業です。今回注目されている“クロスカップリング”は、そのくっつける作業のために重要な手法です。一つの手どうしで結びつく“単結合”で炭素原子どうしを結びつけることができるのが、クロスカップリング反応です。
クロスカップリングの流れをじっくりと見てみましょう。

化合物1と化合物2をいろいろ選べば、いろいろな分子を同じような仕組みで作ることができます。そのため、応用範囲が非常に広いのです。今回の受賞では、その実用面が評価されました。
「触媒」のパラジウム!とは?

「触媒」のパラジウム!
「触媒」とは、反応する物質同士を効率よく引き合わせることで、化学反応を促進する物質のことです。反応の前と後とで、触媒自体は変化しません。触媒には様々な金属を使用することが多いのですが、パラジウム(Pd)を触媒とした有機合成を世界で最初に行った人は、日本人研究者の辻 二郎博士でした。炭素と炭素を単結合させることを実現しました。
今回の受賞者の一人であるヘック博士は、1972年に、パラジウム(Pd)を触媒として用いて、新しい炭素のつなげ方を成功させました。それは、炭素の二重結合を持つ化合物について、他の有機化合物と単結合でつなげることに成功しました。これはクロスカップリング反応ではありませんが、それに直接つながる重要な研究でした。しかも、その直前に日本人研究者の溝呂木 勉博士が、同様の反応を発見しています。そのため、最近ではこの方法は、「ヘック-溝呂木反応」とも呼ばれています。残念ながら、溝呂木 博士は1980年に47歳でお亡くなりになったので、ノーベル賞の対象になりませんでした。
さらに、根岸博士の作り上げた手法は、触媒にパラジウムを用いて、化合物をつなげる目印として亜鉛(Zn)を用いる方法を見つけました。これによって、とても正確にクロスカップリングを行うことが出来る用になりました。その方法は、1977年に発表され、根岸カップリングと呼ばれています。
そして、鈴木博士が生み出した方法、鈴木カップリングは、化合物をつなげる目印としてホウ素(B)を用いる方法です。非金属のホウ素を使うことで空気中や水分のあるところでも合成できるようになり、“手軽で使いやすい手法”となりました。当時、鈴木研究室の助手だった宮浦憲夫博士との共同研究で発見されましたので、「鈴木―宮浦カップリング反応」とも呼ばれます。これによって、どんどん新しい応用が生まれていきました。触媒に用いる元素と、化合物につける目印になる元素の組み合わせを最適した方法と言えます。
国立科学博物館では、2003年11月22日(土)に化学実験講座(大学生以上、主に教員向け)において、鈴木クロスカップリングを題材とした実験講座を開催いたしました。「水中、空中下で、炭素と炭素をつなぐ」というテーマで、東大生産技術研究所の工藤一秋教授(当時助教授)が講師をされました。来年(2011年)2月26日(土)の化学実験講座でも工藤先生に「高校でもできる鈴木カップリング反応」と題してしていただけることになりました。
当館の常設展示をじっくり見学したり、プログラムに参加したりして、その中から興味をあることを是非見つけてください。そこから未来のノーベル賞につながるような大きな飛躍があるかもしれません。
参考文献
Newton 2010年12月号
日経サイエンス 2010年12月号
現代化学 2010年12月号
子供の科学 2010年12月号
協力・監修
理工学研究部 若林文高