日本にはいったい菌類が何種くらいいるのでしょうか?

日本にはいったい菌類が何種くらいいるのでしょうか?

きのこ・カビ・酵母

菌類は、一言でいえば、きのこ・カビ・酵母のことです。肉眼で直接見ることができる大きさで、特徴的な形も持つ大型なものから、顕微鏡出観察しなければ見えない大きさで、形態の特徴が乏しいものまでを含んで、推定種数は150 万種ともいわれる、巨大な分類群です。

昨年12月10日にGBIFワークショップ21世紀の生物多様性研究「日本に生き物は何種類いるか」が開催されました。その講演は、日本における菌類の現存数種数にスポットをあてて、日本における菌類種数の推定について発表されました。

これとほぼ同じ時期、筑波実験植物園で発見された2種類のきのこが日本では未報告の日本新産種と判明し、1月にプレスリリースでも報告されました。

そこで、今回のホットニュースでは、講演会の内容「日本には菌類が何種くらいいるか」を中心に、菌類の研究の現状について紹介し、また筑波実験植物園での発見について紹介いたします。

菌類の特性

菌類は、サイズがさまざまであるばかりでなく、生態的にもさまざま環境に存在して、動植物と様々な相互関係をもちます。存在がするのがむずかしくない腐朽材や動植物遺体の他に、動物体表・体内(特に昆虫)、生きている植物の体内、水環境(淡水・海水)、糞、などさまざまな環境に存在しているので、それをすべて検知することは極めて難しいことです。また、検出されたものは菌類の栄養体である菌糸であることが多いため、形態的な特徴に乏しく、それを基に同定することは難しい場合が多いのです。このような背景から、菌類の現存種数を推定することが極めて難しいものとなっています。

菌類全体の現存種数の推定

菌類全体の現存種数の推定

既知の菌類の種数は9万7千種とされていますが、総種数については推定の域を出ません。1991年にHawksworthは、菌類の多くが植物基質に依存することに注目し、そして、図に示すような計算から菌類の総現存種数を150万程度と推定しました。しかし、このような算出の仕方には賛否両論があり、その後も全菌類の種数については、多くの研究者達がチャレンジしていますが、50万から990万という説まで幅があります。

実際、1991年のHawksworthの見積もりの不備は次のように指摘されています。
① 植物の推定種数は27万種としているが、これは控えめな数値である。
② 植物以外に菌類と関係をもつ重要な生物である昆虫と菌類の関係についての配慮が十分ではない。
③ 植物とは独立して生活する菌類(土壌菌など)については検討されていない。
④ 温帯よりも熱帯のほうが植物あたりの菌類数は増えると考えられるが、これについても十分検討されていない。実際、植物:菌類の比率の妥当性についても検討がなされ、熱帯のヤシを基質とした場合、1:33 ほどの値が得られるという報告もあり(1997年Fröhlich and Hyde)、見積もりは大幅に修正しなくてはならない可能性もある。

まだまだ検討する課題が多そうです。

日本における菌類相データの集積

日本における菌類相データの集積

菌の多くは、植物に病気を起こします。その植物が人類にとって有用なものであれば、人類の利害に直接結び付くので、日本における菌類学は農学の一分野である植物病理学の重要分野として発展しました。

日本産の菌類のリスト(インベントリー)は、1905年植物病理学者の白井に始まり、1917年に三宅、1954年に原へと引き継がれ、近年、2010年に勝本によって集大成となりました。この中には2008年までに出版された日本産菌類がリストされています。この間、白井の1,200種から、12,000種もの数へと記録された種数は増加しました。この後、出版された種については、日本菌学会のデータベース委員会がそのデータを集積しています。一方、日本の菌類誌は1936年伊藤誠哉により始まりましたが、まだ完結していません。

未報告の菌類はどこに?

Hawksworthが言うように、総現存種数が150万、既知の現存種数が9.7万だとして、その比を日本の現存種数1.2万に当てはめれば、日本の総種数は18.6万程度となりますが、本当にそうなのでしょうか?

まず、日本に亜熱帯地方があることを考えると、もっと多いと考えられます。ビョウタケ目ヒアロスキファ科の菌類の研究を例に考えると、調査開始時点の1989 年では10 属42種であったものが、現在では21 属80 種あまり存在することを明らかになり、この他に多数の未同定種が存在すると考えると、経験的に少なくともこの倍程度は存在するのではないかと推測されます。

日本には2,500種程度のきのこがあるとされていますが、実際には、この倍程度が存在するのではないかといわれています。これに加えて、日本では未調査あるいは調査が乏しい分野として、水辺あるいは水中の菌類、生植物体内生息菌(エンドファイト)、昆虫体内・体表生息菌、深部土壌環境生息菌などがあげられます。地域別に考えると、特に亜熱帯地方のものについてはまだ調査が行き届いていないようです。これらの種類が判明し追加されることによって、日本の菌類種数は大幅に増えるものと考えられます。

筑波実験植物園から日本新産のきのこ発見

日本新産のきのこ発見

最近、国立科学博物館筑波実験植物園内で、これまで日本では知られていなかったきのこが2種類確認されました。これらのきのこは2010年6月及び2011年4月に園内で発見され、その系統学的検討と系統解析を行ってきました。が日本では未報告のものと確認されたのです。日本新産種とは、海外ではすでに報告があるものの、日本では未発見であったもので新種とは異なります。これらについては、学術的な報告として2011 年末に発行された『国立科学博物館研究報告(Series B)』に掲載されました。

発見種について(1つめ)「トゲミノダイダイサラタケ」
2010年6月に園内の池の近くの土壌で発見されました。直径1mm 前後のオレンジ色の円盤型のきのこを形成する子嚢菌類の一種です。これは、Ramsbottomia asperior(ラムスボトミア・アスペリオール)という菌であることが判明しました。本種は、北米、南米、ヨーロッパ、ニュージーランドなどから知られていますが、今まで日本では報告がありませんでした。微小なきのこやカビには、まだよく知られていないものが多いのですが、現在のところ、このきのこは日本では唯一、筑波実験植物園でのみ見られるものです。

このきのこの和名は「トゲミノダイダイサラタケ」と名付けられました。
和名の由来:胞子(身)に目立ったとげがあることから「トゲミ」、オレンジ色の皿状の子実体をつくることから「ダイダイサラタケ」ということで、「トゲミノダイダイサラタケ」としました。

発見種について(2 つめ)「フタツミシロヒナノチャワンタケ」
2011 年の4 月にブナなどの樹木で構成されている冷温帯落葉広葉樹林から発見されたものです。1mmに満たない非常に小型の円盤型のきのこを形成する子嚢菌類の一種です。Proliferodiscus alboviridis(プロリフェロディスカス・アルボヴィリディス)という名前の菌であることが分かりました。世界ではアメリカ、オーストラリアから報告がありますが、他の地域からの報告はありません。また、この研究途上で、すでに2006 年に群馬県から得られていた未同定の標本も本種であることが判明しました。開園30 年近くなり、園内の樹林帯がやっと成熟してきたのがこのきのこが生育できた原因なのかも知れません。

このきのこの和名は「フタツミシロヒナノチャワンタケ」と名付けられました。
和名の由来:胞子を生じる層に再び新たな子実体(身=)をつくることから「フタツミ」、分子系統学的にはシロヒナノチャワンタケという菌と類縁性があるので、「フタツミシロヒナノチャワンタケ」としました。

日本には、現在12,000 種ほどの菌類が知られていますが、実際にはこれよりずっと多くの菌類がいるものと考えられ、今回の発見は、身近な場所からもじっくり調査をすることによって、まだ未報告の菌が発見される可能性があることを示しています。今後の研究に期待されます。

監修・協力
細矢 剛 植物研究部 菌類・藻類研究グループ グループ長

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