小さな化石から様々な情報が読み取れることをご存じですか?

小さな化石から様々な情報が読み取れることをご存じですか?

微化石

みなさん、小さな化石から様々な情報が読み取れることをご存じですか?過去の環境を知る重要な手段なのです。

11月の中旬、つくば市にある国立科学博物館の研究施設内にて微化石の研究者による集会(MRC研究集会)が開かれました。日本国内で微小な化石を研究している人たちが集まり、それぞれの研究成果や今後の研究の展望などについて報告しました。微化石とは顕微鏡で観察するほど小さな化石という意味であり、生物の種類でいえば非常に多様です。多細胞動物の殻や体の一部であったり、単細胞生物でも動物のような生きざまの生物から光合成をして増殖する植物のような生活を送るものまでが含まれます。また、扱う地質時代もさまざまで、研究集会では、多細胞生物が多様化した古生代、恐竜が暮らしていた中生代、その後のわたしたちが生きている現在までを含む新生代までの話題が提供されました。また、微化石となるような微生物がどのような生き物なのかを、生きている生物を観察したり、それらを用いて実験したりして明らかにする研究の発表もありました。このような多様な話を聴くことで、広い知識が得られるとともに、新しい発想が生まれることがあります。

今回のホットニュースでは、微化石研究で分かること、そして、この研究集会で耳にした話題から、最近の成果を1つ紹介します。

解説)
MRCとは、微古生物標本・試料センター(Micropaleontological Reference Center)の略称です。9ヶ国の16の研究機関によって活動しています。日本では国立科学博物館と宇都宮大学が関わっています。

気候変動と生物、そして酸素同位体比の温度計

酸素同位体比の温度計

気候変動と生物

化石を見たとき、どんなことを考えますか?それが動物であれば、どんなものを食べていたんだろう?とか、どんな速さで走ったのだろう?などでしょうか?あるいは、この生き物はどんなところに暮らしていたのだろう?暖かいところだろうか?それとも寒いところだろうか?と考える場合もあるかもしれませんね。

化石のなかには、生物が暮らしていた環境を的確に指し示すものがあります。たとえば、サンゴの化石であれば、いまサンゴ礁が発達しているような熱帯や亜熱帯の暖かい海が示されます。逆に、ホタテガイの仲間が化石として産出すれば、当時のその場所は寒い海であったことが示されます。このように過去の環境を示す化石は示相化石と呼ばれます。しかしながら、過去に生きていた生物のほとんどは現在までに絶滅した生物で、厳密にはどのような環境に暮らしていたのかを指し示すことはできません。そのため、より確実な手法で過去の環境を知るにはどうしたらよいかが研究されてきました。そして、温度に関しては分子の物理化学的な法則にのっとって変化する同位体比というものが指標として使えそうだということが分かってきました。

酸素同位体比の温度計

化石として残される生物の殻はアラレ石(アラゴナイト)や方解石(カルサイト)、燐灰石(アパタイト)などの鉱物が結晶してできています。このような鉱物は、まわりの海水とそれに溶け込んでいるイオンを原料にして作られるので、殻には海水温などの生物が生きていたときの海水の状態が記録されます。とくに、殻の酸素同位体比は過去の海水温の指標としてさかんに研究されてきました。

この酸素同位体比の分析に用いられてきた化石には、サンゴ、二枚貝、有孔虫、アンモナイト、ベレムナイト、コノドント、腕足貝などがあります。現在に近い過去の海水温に関しては、塊状ハマサンゴや二枚貝を成長線ごとに分析すれば、年単位あるいは日単位の海水温の復元ができる場合があります。また、大きさが1mmにもみたない有孔虫も重要です。海底ボーリングコアを使った研究では、直径10cm程度の細いコアにも豊富に含まれる有孔虫の殻が酸素同位体比の分析に用いられてきました。有孔虫を用いて中生代以降の海水温が推定されており、その世界的な平均値が地球全体の気候の変化を代表するものとして扱われることもよくあります。

古生代の化石になると、生物が作った炭酸カルシウム(アラレ石や方解石)の殻がそのまま保存されていることはまれになります。そのため、化石の殻を分析しても生物が生きていた当時の水温を知ることができません。一方、より安定な鉱物である燐灰石(アパタイト)でできた化石、コノドントが威力を発揮します。コノドントとは、カンブリア紀から三畳紀にかけて海に生育していた絶滅生物(=コノドント動物)の口のなかの器官の化石です。歯のようなかたちをしていて、複数の異なる形状のものが、1個体のコノドント動物の口のなかに配列されていたようです。これらは、リン酸カルシウム(燐灰石、アパタイト)でできていて保存されやすく、そのかたちも多様で、古生代から中生代初めの地層のたまった時代を示す示準化石としても重要です。

復元された前期三畳紀の海水温

P/T境界における大量絶滅を示すグラフ

P/T境界における大量絶滅を示すグラフ(地球館地下2階の展示)

2012年10月19日発行の米国科学誌サイエンスに前期三畳紀の海水温が40度に達していたということを述べた論文が発表されています。この海水温はコノドントを分析して推定されたもので、現在の感覚からすると非常に高い温度です。現在もっとも表層海水温が高い地域はニューギニアやインドネシア沖の西赤道太平洋にあり、そこにおいても30度程度です。また、現在の植物にとって40度は生存を脅かすほどの高温です。35度を超えると自身が光合成で有機物を作り出す速さより光合成で作られた有機物を消費する速さが大きくなり、成長ができなくなります。植物の大半においては、30度を超えると光合成自体が不活発になるとされています。

この40度の海水温が推定された前期三畳紀をさかのぼること200万年。いまから2億5千万年前のペルム紀/三畳紀境界には、化石記録として残されている時代において最大の大量絶滅が起こったとされます。絶滅率は海生無脊椎動物の種のレベルで90パーセント以上にもなると見積もられています。この要因として、シベリアで大規模な火山活動が起こり、それによって放出された二酸化炭素によって急激な温暖化が起こり、海洋が撹拌されにくくなって海に溶け込む酸素が現象したこと(海洋無酸素事変)などが重要視されています。

三畳紀はこの大量絶滅の直後の時代にあたり、生態系がどのように回復していったのかが研究されています。サイエンス誌に掲載された論文を読むと、この生態系の回復過程もすみやかにというわけではなかったのかもしれないと思えてきます。40度の表層海水温は現在の地球上の生物にとって高すぎると思われるだけでなく、当時の生物にとっても適切でなかったのではないかと推定されています。当時はパンゲアと呼ばれる超大陸が北半球の高緯度から南半球の高緯度まで続いていました。その真ん中にあたる赤道周辺の低緯度域からは、魚類、海生ハチュウ類、四足動物の化石の産出が少ないことが分かっているそうです。

大量絶滅と珪藻の起源

大量絶滅と珪藻の起源

わたしの専門は珪藻化石です。珪藻は現在とても繁栄している単細胞藻類の1グループで、その化石は新生代から多産します。というわけで、もっぱら新生代(6500万年前以降)の環境に興味をもっているのですが、それよりずっと前の環境について扱ったこの話に引き込まれました。なぜなら、生きた珪藻の遺伝子を解析した結果から、珪藻の起源をペルム紀/三畳紀境界の2億5千万年前ごろではないかと推定する説もあるからです。ペルム紀/三畳紀境界において大量絶滅が起こり、いなくなった生物の代わりに新しい生物が出現して繁栄していくというシナリオが考えられており、珪藻はその新しい生物の1つなのかもしれないというのです。中生代には珪藻と似た細胞の構造や葉緑体の色素をもつ藻類(円石藻や渦鞭毛藻)が台頭してきたことが、それらの化石が多産することから分かっています。珪藻は化石としてまだ見つかっていないだけで、珪藻もこの時代に地球上に現れた可能性があるのではないかと考えてもいいのかもしれません。しかしながら、現在の珪藻の分布域の水温を考えると、この40度という高温に珪藻が繁茂していたとは考えにくいと思います。地球上に誕生したばかりの珪藻が現在の珪藻と同じような環境に生育していたという確かな根拠もないのですが、40度の水温にはきっと耐えられなかっただろうなと思うのは、わたしだけでしょうか。

このように、過去の地球環境が解明されつつあります。微化石について様々な分析がすすむと、さらに様々なことが新たに分かっていくことでしょう。この地球がどのような環境であったか、皆さんも是非想像してみてはいかがでしょうか。

地学研究部 環境変動史研究グループ 齋藤めぐみ

参考:
地球館地下2階の常設展示より「3. 絶滅と進化をうながす地球環境(地球環境変動の記録、生物の大量絶滅、環境変動と生物の変遷、微化石)」

参考図書:
谷村好洋・辻 彰洋 編著「微化石−顕微鏡で見るプランクトン化石の世界(国立科学博物館叢書13)」2012年、東海大学出版会
井上 勲 著「藻類30億年の自然史−藻類からみる生物進化・地球・環境 第2版」2007年、東海大学出版会
Sun, Y., Joachimski, M.M., Wignall, P.B., Yan, C, Chen, Y., Jiang, H. Wang, L. & Lai, X. 2012. Lethally hot temperatures during the Early Triassic greenhouse. Science vol. 338(サイエンス2012年10月19日発行), 366–370.

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