ランの「生きた化石」が世界で初めて開花!

ランの「生きた化石」が世界で初めて開花

「生きた化石」ノイウィーディア・ボルニエンシス

「生きた化石」ノイウィーディア・ボルニエンシス

色とりどりのあでやかな花。花粉を運ぶ動物との間のおどろくべき駆け引き。ランは進化の頂点にある新しい植物と言われますが、本当でしょうか?

2013年12月、筑波実験植物園の熱帯雨林温室で、ラン科の「生きた化石」、ノイウィーディア・ボルニエンシス(Neuwiedia borneensis)が開花しました(写真)。カリマンタン(ボルネオ)島低地の熱帯雨林に自生する種ですが、栽培したものとしては世界初の開花とみられます。

ぱっと見た感じでは、ラン科というよりもユリの仲間のようです。長さ45cm、幅5cmほどのしわの多い葉を数枚つけ、15cmに達する花茎に長さ8mmの白い花を約50輪つけます。花をくわしく観察してみましょう。花被片(いわゆる花びら)は6枚。どれも同じような形をしています。花の中心にはめしべが1本、そのまわりにおしべが3本あって、付け根で合体しています。おしべの先端に大きな葯が付いていて、花粉がたくさんこぼれ落ちています(次ページに写真)。

このノイウィーディアを手がかりにランの進化の道のりを探ってみましょう。

ノイウィーディアはラン?

ノイウィーディア・ボルニエンシスの花

写真左:ノイウィーディア・ボルニエンシスの花。おしべが3本、めしべが1本ある。 手前3枚の花被片は切り取った  
写真右:典型的なランの花。めしべとおしべが合体して蕊柱(ずいちゅう)と呼ばれる1本の太い棒になる。また花被片の1枚が特殊化し唇弁(しんべん)になる

ふつうラン科では6枚の花被片の1つが変わった色と形になるのが特徴です。唇弁(しんべん)といいます(写真)。さらにめしべとおしべが合体して蕊柱(ずいちゅう)と呼ばれる1本の太い棒になります。蕊柱の先端に葯が1個だけ付き、中には何万もの花粉がアメのようかたまっています。

ランは単子葉植物という大きなグループに属します。典型的な単子葉植物の花は、ユリやチューリップを思い浮かべるとよいでしょう。花被片は同じ形で6枚、めしべは1本、おしべは6本でばらばらに離れて現れ、花粉は粉状です。

ノイウィーディアの花の大きな特徴はめしべとおしべにあります。つまりおしべの数が3本と、ふつうの単子葉植物の6とランの1のあいだになり、めしべとおしべの付け根はくっつきますが、ほかのランのように全体が合体しません。一般の単子葉植物とランの中間の形であることが分かります。

こんな特徴を持つので、ノイウィーディアはラン科でもっとも古く出現したグループとみなされて、「ランのご先祖様」、「ランの生きた化石」と呼ばれてきました。一方、ほかのランとは花の形があまりに違うので別の科とするべきという見解も有力で、ずっと論争が続いていました。決着がついたのはつい最近のことです。

遺伝子解析ではっきりしたノイウィーディアの進化

ヤクシマラン亜科の根に共生する菌

ヤクシマラン亜科の根に共生する菌。担子菌門のアンズタケ目の1種(写真:辻田有紀)

1999年に私たちは、ニューヨーク植物園、キュー植物園などと共同研究をおこない、遺伝子の情報を使ってラン科の主要なグループ171種の進化の道のりを明らかにしました。その結果、ノイウィーディアとヤクシマランからなるヤクシマラン亜科はランでもっとも古く出現したグループであることがはっきりしました。

それはいつごろのことだったのでしょうか?遺伝子の種類ごとに進化速度が一定となる特性を利用して計算すると、ヤクシマラン亜科は白亜紀の約9000万~8000 万年前には存在していたと推定されています。

その後の研究でもうひとつおもしろいことが分かりました。植物は根に菌を住まわせて互いに栄養のやり取りをしますが、ランの根と共生する菌は他の植物の共生菌と種類が大きく違っていることが知られています。担子菌門に属するキノコの1グループ、アンズタケ目の特定の種類とランはもっぱら共生するのです。

いっぽう、ランに縁の近いネギ、ヒガンバナ、アヤメの仲間などの根の共生菌は常にグロムス門という菌類が共生します。ではヤクシマラン亜科はどちらの菌と共生するのでしょうか?菌からDNAを取り出して調べると、他のランと同じアンズタケ目でした。つまり共生者との関係からもノイウィーディアが属すヤクシマラン亜科はランであることを支持します。

ランは新しい植物ではない

爆発的に多様化したラン、レパンテス属のいろいろ

爆発的に多様化したラン、レパンテス属(Lepanthes)のいろいろ。熱帯アメリカに約1000種が自生する(写真:岩瀬順一)

ランか?ランではないか?というもやもやは消え、晴れてノイウィーディアはラン科の家族になることがはっきりしました。それとともにランは「進化の頂点にある新しい植物」という見方に修正が必要です。約9000万~8000万年前にランが存在していたとすると、植物の中で取りたてて新しいグループとは言えません。

ノイウィーディアの仲間は地球上に8種だけが細々と生きています。まさに「生きた化石」です。対照的にそのほかのラン科の種数は26000あまり。植物界で最大の種を持つ科です。生物の進化では、いろいろな種類が現れては消えることを繰り返しています。ノイウィーディアなどのヤクシマラン亜科は白亜紀に進化の最前線に躍り出たものの、成功できなかったようです。

一方、その後あらわれたラン科のいくつかのグループは大いに繁栄しています。この爆発的な種の進化がいつ、なぜ、どのように起こったか?私たちはこのなぞ解きに挑んでいます。

進化が「凍結」したノイウィーディアと「爆発」したランのグループとを比べれば、繁栄と衰退をもたらす原因のヒントがつかめるはずです。今回の開花を他の生き物にたとえるなら、シーラカンスを生け捕りにしたのと同じ価値があるといっても過言ではありません。

<執筆・監修> 遊川知久
国立科学博物館 植物研究部 多様性解析・保全グループ グループ長
兼)筑波実験植物園研究員

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