世界一大きい「花」、ショクダイオオコンニャクが開花
日本新記録を達成!

開花したショクダイオオコンニャク。7月3日21時

仏炎苞の一部を切り取ると、小さな花がたくさん付いているのが分かる。下が雌花で上が雄花
世界一大きい「花」、ショクダイオオコンニャクが、7月3日の夜、筑波実験植物園で咲きました。日本で10回目の開花です。当園では2012年についで2年ぶりの開花でしたが,今回は高さ272 cmに伸びて日本新記録をみごと達成しました。7月4〜7日の特別公開のあいだにお越しいただいたお客様は14,336人。つくば市の人口は22万人ですからすごいことです。
ショクダイオオコンニャクは名前のとおり、食用のコンニャクに縁の近いサトイモ科の植物です。地下には巨大なコンニャク玉ができます。ふるさとはインドネシア・スマトラ島の熱帯雨林。限られた地域にしか分布しないうえ、数年にいちどしか開花しない、咲いても数日で完全に閉じてしまうといった性質があるため、自生地で開花を観察した人はわずかで、生態は謎だらけです。
ショクダイオオコンニャクの「花」、実は500ほどの小さな花の集まりというのが正確です。中心の茎に密集したひとつひとつの花は、臙脂色のプリーツスカートのような仏炎苞(ぶつえんほう)に包まれ、外から見ることはできません。花の集まった部分から上は煙突の形にぐんぐん伸び,付属体と呼びます。これらの部分がセットになって、子孫を残す花の役目を果たすのです。
なぜこんなに大きく進化したの?

ショクダイオオコンニャクの花粉を運ぶアカモンオオモモブトシデムシ。スマトラ島クリンチ山麓で(写真:山口進)
お客様からいちばん多かった質問です。難問ですが、花粉を運ぶ動物が原因かもしれません。
ショクダイオオコンニャクの花粉を運んで受粉するのは、腐った肉を食べる甲虫、シデムシの仲間です。ひるがえって世界中の30 cmを超える巨大な花を咲かせる植物に注目すると、甲虫かハエの仲間が花粉の運び手になっていることで共通しています。たとえば種によっては花の直径が1 mにもなるラフレシア(ラフレシア科)や、紐のような花弁が垂れ下がる熱帯アメリカのウマノスズクサ属(ウマノスズクサ科)はハエが受粉しますし、アマゾンのオオオニバス(スイレン科)は甲虫のコガネムシが花粉を運びます。
なぜこれらのハエや甲虫にとって、巨大な花は魅力があるのでしょう?大きな動物の死体そっくりで食料や産卵場所に見えるから?花の内側の大きな空間が、閉ざされたスペースに集まって交尾する習性にぴったりだから?花の体積が大きいほうが発熱した花が冷めにくいので、集まりやすいから?これらの昆虫の行動と関係するいくつかの理由がありそうです。
ラフレシアでは、進化の道のりで花粉の運び手が他の昆虫からハエに変わるとともに、花のサイズが急に大きくなり始めたことが分かっています。コンニャクの場合、より大きい花からより多く種子ができるかといったことさえ分かっていないので、まだはっきりしたことは言えませんが、「シデムシが巨大な花を生んだ」仮説を検証する価値は大いにありそうです。
花から湯気が出る、そして臭いが・・・

付属体から立ち昇る湯気(7月3日21時21分)。このとき強烈な臭いが放たれる
世界でもっとも醜い花にも選ばれたショクダイオオコンニャクですが、見た目だけでなく「死体のような」とも形容される強烈な臭いで、腐肉と勘違いしたシデムシを集め受粉をゆだねます。ショクダイオオコンニャクの花は、夜行性のシデムシが動き出す宵の口に開き始め、臭いを放ちます。とはいえはじめは,それほどひどい臭いではありません。
異変は21時ころ起こります。花の真ん中にそびえる付属体からもうもうと湯気が立ち昇り始め,猛烈な腐敗臭が大温室を満たすのです。そっと付属体に触れると人肌のあたたかさ、38℃です。臭いが急変したのは、付属体が温まって,貯えられている臭いのもとの物質が湯気とともに大気にまき散らされたからに他なりません。そして翌日の朝。夜のいのちのにぎわいがうそだったようです。仏炎苞は閉じ始め、あの臭いも沢庵が転がっているほどに。
開花に大量のエネルギーを使うからでしょう、ショクダイオオコンニャクはいちど咲くと次に咲くまで何年もかかります。花が咲く時期も決まっていないし、森の中にぽつぽつとしか生えません。同時に2つの花がとなりあって咲き、受粉できる可能性はとても低いでしょう。天空にまき散らされる猛烈な臭いは、遠く離れたところで夜陰にまぎれて咲く2つの花をシデムシでつなぐための、命をかけた誘惑。ドラマは夜に起こるのです。
世界一にチャレンジ

ショクダイオオコンニャクのイモの植え替え(2014年4月23日)。イモの重さ70kg。72日後に開花した
今回の開花、世界記録まであと9 cmにせまる勢いでした。ここまで育ったのはコンニャク様のおかげとしかいいようがないのですが、人間の手助けも欠かせません。
私たち植物園は「いのちをつなぐ」仕事をしています。さかのぼれば、このショクダイオオコンニャク、インドネシアの植物園で1992年に採ったタネから始まっています。ということは、まず初めに開花・結実までのインドネシアの技術者の苦労があったはずです。このタネははるばる日本にやってきて、小石川植物園でぶじに発芽、生育を始めました。発芽したての実生苗はデリケートです。日々、目をかけてもらったことでしょう。そして2006年、つくばへ。ここでも開花までの間、正月に温室の暖房がとまったり、東日本大震災で温室が壊れたり、いろいろありました。けれども、インドネシアのころから1日も途切れることなく続く技術者の観察があってこそ、コンニャクはのびのびと育っているのです。ここで書き切れないいろいろなことは、科博メールマガジン第591号、筑波実験植物園ホームページの「コンニャク日記」をご覧ください。
花が咲いた後に枯れてしまうことの多いショクダイオオコンニャクです。次の芽が出るかどうか、はらはらどきどきの毎日でしたが、ようやく新芽が出はじめました。次は世界一の花をめざして、スタッフ一同、日々の栽培に精進したいと思います。
〈執筆・監修〉
国立科学博物館 植物研究部 多様性解析・保全グループ グループ長 遊川 知久