米国における恐竜絶滅層(K-Pg境界層)の調査

米国ノースダコタ州で恐竜絶滅の原因を探る

米国ノースダコタ州で恐竜絶滅の原因を探る

米国サウスダコタ州からノースダコタ州への移動中の景色(写真1:左)
K-Pg境界層を調査中の研究者達。左から佐野貴司、石川晃准教授(東工大)、Lyson博士(デンバー自然科学博物館)(写真2:右) 撮影:佐藤峰南博士(千葉工大)

6月下旬、地質調査のために米国へ行ってきました。調査地域はノースダコタ州マーマース(Marmarth)という交通アクセスの悪い場所でした。隣州のサウスダコタのラピッドシティー(Rapid City)まで飛行機で行き、レンタカーで300 kmの移動をする必要がありました。この移動は大草原の中の道路をひたすら突き進むというものでした(写真1)。
調査の目的は「恐竜絶滅の原因を探る」ことでした。科学博物館でおなじみの恐竜やアンモナイトは約2億5千万年前に始まった中生代に繁栄しました。米国西部に広がる中生代の地層には多数の恐竜の化石が埋まっています。しかし、6600万年前よりも若い地層には恐竜の化石は出てきません。つまり、6600万年前に恐竜は絶滅してしまったのです。
国立科学博物館は分野横断的な研究として、平成28年(2016年)から5件の総合研究を実施しています。そのうちの一つは私が研究代表者となっている「化学層序と年代測定に基づく地球史・生命史の解析」という総合研究です。この総合研究のテーマの1つが恐竜絶滅の原因解明です。この研究には、デンバー自然科学博物館のTyler Lyson博士とIan Miller博士に共同研究者として入っていただき、現地案内をお願いしました(写真2)。

巨大隕石の衝突

巨大隕石の衝突

地球上におけるK-Pg境界層の分布と特徴(Schulte et al., 2010を簡略化)(図1:左)
衝突石英の顕微鏡写真(佐野、2017)(写真3:右)

恐竜が絶滅した6600万年前の地層は「K-Pg境界層」と名付けられています。K-Pg境界層はメキシコのユカタン半島沖に直径10 km程の巨大隕石が衝突した際に形成されたと提案されています。衝撃により、衝突地点にはチチュルブと呼ばれるクレーターができました(図1)。チチュルブ・クレーターの隣接地点では、数十mもの厚さの津波堆積物が確認できます。そしてクレーターから遠ざかるにつれて隕石衝突によって形成した地層は薄くなっていきます。この隕石衝突の地層には球状粒子(スフェルール)や衝突鉱物が発見されています(図1)。球状粒子とは隕石が衝突した際、地面が融けて周囲へ飛び散り、その後冷えて固まった粒です。衝突鉱物とは、衝突の衝撃により鉱物にスジが入ってしまったもので、石英にスジが入ってしまった衝突石英などが確認されています。(写真3)
巨大隕石の衝突により恐竜が絶滅したと提案したのは、米国の物理学者であるルイス・アルヴァレズ教授と、彼の息子で地質学者のウォルター・アルヴァレズ教授らです(Alvarez et al., 1980)。ルイス・アルヴァレズ教授はノーベル物理学賞を受賞した研究者としても知られています。

白金族元素の濃集するK-Pg境界層

アルヴァレズ親子らは「イリジウム(元素記号:Ir)」という元素がK–Pg境界層に濃集していることに注目しました(図1)。イリジウムを含む白金族元素は地球の表層部にはほとんど存在しないのに対し、隕石には含まれているからです。
隕石にはイリジウム以外の白金族元素(オスミウム、ルテニウム、ロジウム、白金、パラジウム)も多く含まれていますが、これまでにK-Pg境界層についてイリジウム以外の白金族元素を系統的に調べた研究はあまり多くありません。白金族元素毎に濃集の度合いは違うのでしょうか?
白金族元素の化学分析には豊富な知識と経験が必要であり、専門家の協力が不可欠でした。そこで白金族元素分析の専門家である石川晃准教授(東工大)にも共同研究者として本調査に同行いただきました。さらに巨大隕石の衝突と生物大量絶滅との関連について研究を行っている佐藤峰南博士(千葉工大)にも参加いただき(例:Sato et al., 2013)、現地でのK-Pg境界層の同定および記載をしていただきました(写真4)。これらの情報によっては、隕石衝突のメカニズムや恐竜絶滅時の環境について分かるかもしれません。

K-Pg境界層

ノースダコタ州の Mud Buttes 地点で確認された K-Pg境界層。
赤矢印で示した白い層がK-pg 境界層(写真4)

恐竜発掘の立ち会いと国立科学博物館でのK-Pg境界層展示

恐竜発掘の立ち会いと国立科学博物館でのK-Pg境界層展示

Sandy Siteへ向かう古生物学者達。(写真5:左)撮影:佐藤峰南博士(千葉工大)
Sandy Siteでの恐竜発掘の様子(写真6:右)

ノースダコタ州での現地調査は好天にも恵まれ、Mud ButtesとPyramid Butteと呼ばれる2地点でK-Pg境界層の記載および試料採取を行うことができました。ところが、最終日の前夜に局地的な大雨が降り、川が増水したため、もう1ヶ所調査を予定していた地点にアクセスすることができなくなりました。そこで、最終日はSandy Siteと呼ばれる恐竜の化石が多量に産出する場所へ調査に行きました(写真5)。現地ではTyler Lyson博士をはじめとする米国の古生物学者達の発掘作業に立ち会うことができました(写真6)。
Sandy Siteから掘り起こした恐竜の化石は当館の地球館地下2Fでも展示されていますので、ご覧ください。また、K-Pg境界層の展示については、地下1Fには米国コロラド州に存在するK-Pg境界層を含む地層、地下2Fにはデンマークから採取された地層も展示されていますので、こちらの展示も是非確認してみてください。

この総合研究については2020年度の最終年度に向け調査研究の成果をまとめ、「恐竜絶滅の原因」について、新たな提案をしたいと思います。

参考図書
Alvarez, L. W. et al. (1980) Science, 208, 1095–1108.
Schulte, P. et al. (2010) Science, 327, 1214–1218.
佐野貴司(2017)海に沈んだ大陸の謎,ブルーバックス,講談社,238p.
Sato, H. et al. (2013) Nature Communications, doi:10.1038/ncomms3455.

<執筆・監修>
国立科学博物館 地学研究部 鉱物科学研究グループ グループ長 佐野貴司

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