日本人の貢献が大きいリチウムイオン電池の実用化
(1)暮らしを変えるリチウムイオン電池

図1:モバイル機器などで使われているリチウムイオン電池
電気は便利です。スイッチ一つで、暗闇を照らし、家庭電化製品が働き、電車や車が走り出す。しかし、電気を沢山使うためには電源ケーブルを繋がなければいけません。電気を多量に貯めて持ち歩くことができればとても便利です。そのため電気の缶詰、電池の開発が進みました。そして現在、携帯電話やノートパソコンの電源として活躍しているのがリチウムイオン電池です(図1)。近年では、i-MiEVやリーフなどの電気自動車や航空機、人工衛星にまで搭載されるようになりました。
リチウムイオン電池は繰り返し充電できる電池(二次電池)です。未だにガソリン車等に使われている鉛蓄電池や従来懐中電灯などに使われていたニカド(Ni-Cd)電池に比べて、さらに現在もプリウスにも使われているニッケル水素電池(この電池の開発・商品化にも日本が大きく貢献しています)に比べても、倍以上電圧が高く、重量当たりの電池の容量も大きく、モバイル機器の小型化と軽量化に大きく貢献してきました。1991年にソニーが初めてリチウムイオン二次電池を商品化し、京セラの携帯電話に採用されました。翌年には旭化成と東芝、東芝電池との合弁会社であるエイ・ティバッテリーも販売を開始、その後三洋電機やパナソニックも量産化を開始し、各社のビデオカメラやデジタルカメラ、ノートパソコンなどに使われるようになり、2010年頃までは日系企業による寡占状態でした。
(2)リチウムイオン電池とは
図2:リチウムイオン電池の構造(それぞれの電極の分子構造を示している)吉野彰博士がリチウムイオン電池開発への貢献により2019年度ノーベル化学賞を受賞されたことから、あらためて関心を持たれた方も多いと思います。リチウムイオン電池とは、その名のとおり、リチウムイオンが+極と-極の間を移動することで充電や放電を繰り返す電池です。図2はその基本的な構造で、一般的に+極にはコバルト酸リチウム(LiCoO₂)など,リチウムとコバルトやマンガンなどの金属との複合酸化物が、-極にはカーボン系の材料が使われています。最近では、+極材としてリン酸鉄リチウムのようなリン酸鉄系の材料も使われだしました。充電時は、+極のコバルト酸リチウム(LiCoO₂)に含まれていたリチウムイオンが電解液中に放出され、-極の炭素質材料に取り込まれます。逆に放電時、つまり電気を使う時は炭素質材料からリチウムイオンが電解液中に抜け出し、+極の材料に取り込まれます。こうしてイオンと電子が関与して充放電を行うことができます。
リチウムイオン電池の開発には多くの研究者や企業が貢献しています。Dr. J. B. Goodenoughや水島公一らによるコバルト酸リチウム(LiCoO₂)の研究と+極材料としての提案、Dr. Rachid Yazamiによる黒鉛のリチウム挿入・離脱現象の研究、三洋電機の池田宏之助らによるリチウムイオン電池の開発、そして吉野彰博士による上記の基本的原理となるカーボン系材料を用いた-極の提案や安全性を高めたセパレータ、より高密度 な-極炭素材料及び+極のアルミ箔集電体の開発などです。これら研究開発を通してより安全な、より大容量のリチウムイオン電池が実現したのです。
(3)電池が変える世界

左:屋井乾電池(明治時代)、右:Milburn 電気自動車(1920年頃)【河野エジソンコレクション】
そもそも電気に関する科学が開かれたのは、ボルタが電池を発明してからです。二種類の金属を電解液に浸して安定した電流を得ることができるようになり、電気に関する研究が進んだのです。その後より長時間、より強い電気が得られる電池がいろいろ発明され、電信機やめっきの電源などにも活用されるようになりました。フランスのG. Planteが繰り返し充電できる鉛蓄電池を発明したのは1859年です。
電信や電気治療器、電気めっきなどに関する知識が日本に伝わったのは幕末で、当館の成り立ちとも関係の深い田中芳男も1860(万延元)年に電池を自作して金属めっきを行っています。1880年代になると日本でも藤岡市助、田岡忠次郎、加藤木重教、西方七郎らが蓄電池の試作を行っています。そして携帯用として画期的な乾電池を屋井先蔵が考案するのが1887年頃です。
繰り返し充電できて、気軽に持ち運べる大容量電池が実現すれば、社会が変わります。昔、電気自動車がたくさん走っていた時代がありました。1900年頃の米国では自動車の約3割は電気自動車だったのです。しかし電池容量の不足による走行距離の限界などから、ガソリン自動車に圧倒されてしまいました。ところが今再び電気自動車の時代を迎えようとしています。それはリチウムイオン電池に代表される二次電池の技術革新によるところが大きいのです。さらに資源・環境・エネルギー問題の解決にむけ、電力エネルギー貯蔵システムへの応用にも期待が高まっています。
<執筆・監修>
国立科学博物館 理工学研究部 科学技術史グループ グループ長 前島正裕