福徳岡ノ場火山2021年8月噴火に伴う軽石ラフトの漂流

(1)海底噴火を研究する貴重な機会到来:福徳岡ノ場2021年8月噴火

福徳岡ノ場2021年8月噴火

図1.福徳岡ノ場2021年8月噴火の時間推移。(左)衛星写真から確認された噴火に伴う噴煙柱と海面に浮遊した軽石と海水変色域の分布。(右)衛星写真から追跡した軽石ラフトの移動過程(当館特別研究生・池上郁彦氏作成)。

福徳岡ノ場は伊豆小笠原諸島の南端部に位置する活動的な海底火山です。気象衛星の観測から2021年8月13日6時頃から噴火を開始し、噴煙高度が16 kmと対流圏界面に達する大規模噴火が起こったことが確認されました。噴煙柱は300 km以上離れた小笠原諸島からも観察され、これは21世紀に入ってから日本国内で発生した噴火としては、陸上火山を含めても最大規模です。噴火は約3日間継続し、8月15日に海上保安庁が実施した航空機からの観察によって、1986年の噴火以来35年ぶりに新島が誕生していることが分かりました。また衛星写真から、噴火開始と同時に海面下に変色域が出現し、その後、海面上に軽石が浮上しているのが観察されています。
日本列島の周辺海域には多数の海底火山が存在していますが、陸上の火山とは異なり、地震計などを使った観測網が不足しています。また詳細な海底調査を行うことも困難であることから、その活動履歴や噴火メカニズムはよく分かっていません。福徳岡ノ場2021年噴火は、海底噴火の時間変化を衛星や航空機を使ったリアルタイムの観測を使って詳細に研究することができる貴重なチャンスなのです。

(2)噴火に伴って放出された軽石ラフトの漂流

奄美群島の沖合に到達した軽石ラフトの筋
写真1.奄美群島の沖合に到達した軽石ラフトの筋(2021年10月16日喜界島上空にて撮影)

軽石は淡色で多孔質の火山噴出物です。内部に小さな気泡がたくさんあるため比重が海水よりも小さくなり、筏(ラフト)のように海面上に長期間浮いて海流や風によって漂流します。この噴火によって発生した軽石ラフトは黒潮反流(※)にのって西に1000 km以上流されて、昨年10月以降、大東諸島や琉球諸島などの南西諸島の島々に続々と漂着しました。一部の軽石はその後、黒潮にのって大きくUターンして本州南岸沿いに東向きに流されて、今年1月以降、伊豆小笠原諸島に漂着しています。
このような海底火山噴火に伴って大量の軽石が海面上に放出され、それがその後ラフトとなって漂流、沿岸に漂着する現象は過去にも起こっています。例えば日本列島周辺では1924年に八重山諸島西表島の北東沖に位置する海底火山が噴火し、琉球諸島沿岸に大量の軽石が漂着しました。この噴火の軽石はその後、黒潮と対馬海流にのって北上しながら日本列島沿岸に漂着し、最終的には北海道まで到達したことが報告されています。当時は日本列島周辺の海流がどのように流れているかは未解明でしたが、この軽石漂流がその理解に大きく貢献しました。今回の福徳岡ノ場2021年噴火では沿岸各地における軽石漂着のタイミングがSNSを通じて共有されて、市民参加型の調査としても新しい試みとなっています。

※黒潮反流……黒潮の沖側に流れる黒潮の流れとは逆に西もしくは南西に向かう海流のこと。

(3)南西諸島への軽石の漂着とその影響

入り江を埋め尽くした軽石

写真2.鹿児島県喜界島志戸桶ビーチに漂着し、入り江を埋め尽くした軽石(2021年10月16日撮影)

奄美群島や沖縄諸島に漂着した軽石は、海面や河口を塞いで滞留し、地元経済や沿岸生態系に様々な影響を与えています。経済的な影響としては、特に船のエンジン冷却水フィルターに軽石が詰まり、フェリーの運航や漁船の操業に大きな支障が出ました。また養殖いけす内の魚が軽石を誤食することで死んでしまった被害も報告されています。また長期間軽石が海面や河口を覆うことで沿岸域に生息する魚類、甲殻類、貝類をはじめとする水生動物への影響も懸念されています。
また一方で軽石は海流に乗って長距離を移動するため、島嶼間における生物拡散の重要な「乗り物」となっている可能性も指摘されています。福徳岡ノ場2021年噴火に伴う軽石の放出・漂流・漂着は地球科学的な関心だけではなく、海底火山噴火が生物に与える影響を解明する上でも貴重な研究機会となっているのです。

(4)海底火山噴火に伴う軽石の形成・放出メカニズムを解明するための調査

福徳岡ノ場2021年噴火による軽石

写真3.福徳岡ノ場2021年噴火による軽石で、これまで見つかっている中では最大級の軽石(長さ約40 cm)。現在東京都港区の気象科学館にて展示中。

2021年8月の福徳岡ノ場火山の噴火を受けて、当館地学研究部では他大学・研究機関と連携して緊急調査チームを組織しました。2022年4月と8月には調査船と無人探査機を使った福徳岡ノ場火山周辺の海底調査を実施予定です。この調査では噴火で放出された軽石や火山灰が海底にどのように分布しているかを調べることで、爆発的な噴火を起こしたマグマの形成・噴火過程や軽石の放出メカニズムなどを明らかにしたいと考えています。
また同時に現在当館で実施中の総合研究「極限環境の科学」において、漂着した軽石が沿岸生態系に与える影響についても、動物研究部や植物研究部の研究者と一緒に継続してモニターしながら研究を進めていく予定です。

<執筆・監修>
国立科学博物館 地学研究部 鉱物科学研究グループ 研究主幹 谷 健一郎

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