最新研究が明らかにした日本列島の小型サンショウウオの多様性

(1)日本は「小型サンショウウオ」の宝庫

小型サンショウウオ

図1.日本のサンショウウオ科の代表的な2属。(左)サンショウウオ属(カスミサンショウウオHynobius nebulosus)、(右)ハコネサンショウウオ属(ハコネサンショウウオOnychodactylus japonicus)。

私は両生類、特にサンショウウオの分類を専門に研究をおこなっています。日本列島はサンショウウオ科に属する全長15cmほどの「小型サンショウウオ」と呼ばれるグループの多様性と固有性が高い地域として知られています。
小型サンショウウオは陸生で、普段は森林の湿った落ち葉や倒木の下などに潜んで暮らし、繁殖期にだけ水場に集まって産卵します。そのためあまり目につくこともなく馴染みのない生き物かもしれませんが、里山周辺のため池や水田の水路から山地渓流、高山帯の湿原まで幅広い環境に多様な種が生息しています。日本の小型サンショウウオは3属48種(2022年12月現在)にのぼりますが、そのうちの47種が日本列島の固有種です。しかもその半数近くの種がこの10年ほどの間に新種として発表されたもので、いま日本のサンショウウオの分類は激動の時代を迎えているのです。

(2)どこまで増える?サンショウウオ属

サンショウウオ属

図2.(左上)2019年にカスミサンショウウオから分割・新種記載されたセトウチサンショウウオH. setouchi、(右上)2022年に新種記載されたイワキサンショウウオ、(左下)2022年にイシヅチサンショウウオH. hiroseiから分割・新種記載されたナンヨサンショウウオH. oni、(右下)2017年に新種記載されたミカワサンショウウオH. mikawaensis。

サンショウウオ属Hynobiusは日本の小型サンショウウオの多様性の大部分(40種)を占める、最大のグループです。本属の種数は2000年ごろに比べてなんと20種以上増加しています。中でも最も大きく分類が変化したのは、長く「カスミサンショウウオ」として扱われてきた種です。本種は愛知県以西に広く分布すると考えられてきましたが、2019年に一挙に9種に分割されました。その後若干の分類の変更があり、研究者間でも見解に違いがあるものの、今では少なくとも10種として扱われています。
2022年にも、京都大学と私の研究グループは関東から東北にかけて分布するトウキョウサンショウウオH. tokyoensisの北部の集団を遺伝的・形態的な比較に基づいてイワキサンショウウオH. sengokuiとして分割し、新種記載しました(1.4 MB)(PDF)(リンクを新しいタブで開きます)。近年の急激な種数増加は、このように1種だと思われてきた種が、研究の進展により複数の種に分割されることによります。かつては地域変異だと考えられてきた種内の形態的、生態的な違いが、実は種の違いであったことが研究により判明してきたのです。

(3)ハコネサンショウウオの予想外の多様性 -1種から7種へ-

ハコネサンショウウオ

図3.2022年現在の日本産ハコネサンショウウオ属7種の系統関係の概略(左上)とその分布図(右上)。かつてはこれらすべての種が(広義の)ハコネサンショウウオとされていた。(左下)タダミハコネサンショウウオO. fuscus、(右下)ホムラハコネサンショウウオ、両種とも狭義のハコネサンショウウオと分布が重なるが、種間交雑はほとんど起こらない。

ハコネサンショウウオ属Onychodactylusは尾が長い細長い体型のサンショウウオで、指先に黒爪をもつち、成体でも肺がなく皮膚呼吸のみをおこなうなどの特徴をもつグループです。ハコネサンショウウオは国内には長い間1種だけが分布すると考えられてきましたが、私は大学院時代から本種の分類学的再検討に取り組み、遺伝子解析や外部形態比較に基づく研究を進めてきました。その結果、2012年以降に私たちや他の研究グループの成果によって新種記載が進みました。2022年には日本産で7種目となるホムラハコネサンショウウオO. pyrrhonotusを新種として発表しています(686.0 KB)(PDF)(リンクを新しいタブで開きます)
ハコネサンショウウオ属の場合、各地域個体群が切り分けられるように別種となる一方で、狭義のハコネサンショウウオといくつかの種では分布が重なり、2種類が同じ場所で共存しながら種としての独自性を保っている例も明らかになっています。1種と思われていたハコネサンショウウオの内部に、予想外の種の多様性ときわめて興味深い種間関係がみられたのです。

(4)増え続ける絶滅危惧種

絶滅危惧種

図4.(左)ツクバハコネサンショウウオO. tsukubaensisは茨城県の筑波山と周辺の山だけに生息する。(右)トサシミズサンショウウオH. tosashimizuensisは高知県の極めて限られた範囲の数か所の池だけに生き残っている。

急激に種数が増加した日本の小型サンショウウオですが、これは研究者たちによるDNAを用いた遺伝子解析といった最新の手法の導入や、フィールドでの長年の地道な調査によって得られた知見や標本の蓄積がついに実を結んだ結果です。種の増加の大部分は、これまで広域に分布する「普通種」とみなされていた種の分類が見直され、複数の種に分割されたことが大きな要因となっています。これまで見過ごされてきたサンショウウオの多様性と地域固有性の実態が明らかになりつつある一方で、一つ一つの種の分布域はより狭い範囲に限定されました。そして、新種となった種の多くがすでに絶滅の危機にあるという事実も同時に浮かび上がってきたのです。
2020年版環境省レッドリストでは、34種の小型サンショウウオが絶滅危惧種(CR、EN、VU)として掲載されています。小型サンショウウオの種の多様性を正確に把握するための分類学的な研究が進められる中、今後はその多様性をどのようにして守っていけばよいのか、保全に向けた研究や保護活動も同時に進めていくことが求められています。

<執筆>
国立科学博物館 動物研究部 脊椎動物研究グループ 研究員 吉川 夏彦

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