マイクロCTが解き明かす昆虫と昆虫がつくるものの3次元的構造

甲虫と虫こぶの3次元的構造の多様性

図1 驚くほど変化に富んだ形状をもつ甲虫と虫こぶ

図1 驚くほど変化に富んだ形状をもつ甲虫と虫こぶ

昆虫は約100万種が知られ、未知の種も含めると約500万種が存在すると推定されています。その体のつくりはまさに多種多様で、脚が6本という基本的な形は保ちながらも、昆虫の種ごとに驚くほど変化に富んでいます。さらに、昆虫がつくる巣も、単純な穴のようなものから、複雑に発達した芸術作品のようなものまで、じつにさまざまです。

そんな昆虫と昆虫がつくるものの構造を3次元的に捉え、その多様性と機能を理解するための研究が国立科学博物館で行われています。対象としたのは「甲虫」と「虫こぶ」です。

「甲虫」は、昆虫がもつ2対の翅のうちの1対を甲羅のように硬く変化させ、外敵や外環境への適応力を飛躍的に高めることなどで繁栄した昆虫で、昆虫の中でも最大の多様性を誇っています。一方「虫こぶ」は、植物食性の昆虫が植物の一部を隠れ家や食物として利用できるよう変形させた特殊な巣で、その複雑な形状には虫こぶの中にすむ昆虫を外敵や外環境の変化から守るための機能があると考えられています。

3次元的構造を可視化するマイクロCT

マイクロCT装置とその解析画像

図2 マイクロCT装置とその解析画像

甲虫の体のつくりや虫こぶの形状を、内部構造も含めて3次元的に理解するために役立てられたのが「マイクロCT(マイクロフォーカスX線コンピュータ断層撮影)」です。マイクロCTはX線を使って観察対象の断面を連続的に撮影するCTスキャンのひとつで、昆虫のような小さな観察対象であっても、高い解像度で内部構造を撮影することができる技術です。専用の3次元画像解析ソフトウェアを使うことで、コンピュータ画面上に描き出された観察対象を、360度、好きな方向から観察し、その内部構造などを解析することができます。

観察対象を破壊することなく内部構造を観察できることから、昆虫学の分野でも、解剖では理解しづらい3次元的な構造の解析や、生きた昆虫または替えが効かないような貴重な昆虫標本を用いての内部構造の観察など、活用の幅が広がっています。

実際にマイクロCTを用いて甲虫や虫こぶを撮影し、コンピュータ上で角度や断面を自在に変えて観察してみると、甲虫の体内を縦横に走る筋肉や、虫こぶの内部に散在する空隙などの、複雑で立体的な構造を手に取るように把握することができました。

マイクロCTで見るギナンドロモルフのカブトムシ

ギナンドロモルフのカブトムシの内部構造図3 ギナンドロモルフのカブトムシの内部構造

マイクロCTによって観察した甲虫の中で、興味深い発見があったものの一つが、「ギナンドロモルフ」のカブトムシです。ギナンドロモルフ(雌雄型、または性的モザイク)は、1個体の中にオスとメスの両方の特徴が見られる現象です。今回観察したカブトムシは、頭部には角がなく、胸部には角があるという特徴をもっていました。カブトムシは通常、オスにのみ頭部と胸部に角が1本ずつあることから、少なくとも外見上、頭部はメス、胸部はオスの特徴をもっているギナンドロモルフであることが明らかでした。

ギナンドロモルフは、昆虫や節足動物などでごくまれに見つかり、標本などが保存されています。ところが、そのような昆虫標本は乾燥標本として保存されることが多く、内部の組織は乾燥によって壊れているため、後から元の構造を知ることは困難です。

一方、今回観察したギナンドロモルフのカブトムシは、幸運にも生きた状態で入手されたものでした。そのため、マイクロCTを用いて、内部の組織をほぼ完全な状態で撮影し、初めて記録に留めることができました。観察の結果、大あごの一部を除く頭部の大部分はメスの特徴であったものの、その頭部を動かす筋肉は通常のオスと同様であるという興味深い特徴も捉えられました。

関連論文:
野村周平・井手竜也. 2024. カブトムシ(コウチュウ目,コガネムシ科)ギナンドロモルフ個体のマイクロCTおよび走査型電子顕微鏡(SEM)による形態学的観察. 昆蟲(ニューシリーズ), 27: 143-152.

マイクロCTで見る虫こぶの成熟過程

カシワハスズタマバチの虫こぶの内部構造

図4 カシワハスズタマバチの虫こぶの内部構造

マイクロCTでは、条件次第で観察対象を生かしたまま内部構造を観察することもできます。その特性を利用して、虫こぶの内部構造の成熟過程を一つのサンプルで経時的に観察するという、世界初の取り組みにも挑戦しました。その結果、これまでは成熟段階の異なった複数のサンプルを用意して解剖し、類推することしかできなかった成熟過程を、1つのサンプル内で観察し、記録することに成功しました。

なかでも興味深い結果が得られたのが、国内で発見した新種のタマバチ(カシワハスズタマバチと命名)による虫こぶの成熟過程です。本種の虫こぶは、内部が空洞になっており、タマバチの幼虫が入った小さな球形の部屋が空洞内を自由に転がる、という国内ではほかに類のない珍しい構造をしたものでした。マイクロCTを用いることで、その興味深い構造がどのように形づくられていくのかの過程を可視化することができました。

昆虫と昆虫がつくるものの多様な形がもつ意義は、まだまだ明らかになっていないものばかりです。光学顕微鏡や電子顕微鏡、そして近年急速に普及が進んでいるマイクロCTなど、さまざまな観察手法と、研究者によるさまざまな視点を組み合わせることで、その理解が今後ますます進んでいくことが期待されます。

関連論文:
Ide, T. and A. Koyama. 2023. The formation of a rolling larval chamber as the unique structural gall of a new species of cynipid gall wasps. Scientific Reports, 13(1): 18149.

<執筆>
国立科学博物館 動物研究部 陸生無脊椎動物研究グループ 研究主幹 井手竜也

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