2008-05-01
速報:上野動物園最後のパンダ,リンリン死亡 (協力:動物研究部 川田伸一郎)
国立科学博物館とジャイアントパンダ
国立科学博物館地球館には,現在3頭のジャイアントパンダの剥製が展示されています。3階の「大地を駆ける生命」コーナーにいるのがフェイフェイとトントンの父娘,1階の「栄養を求めて」のコーナーにいるのが母親のホアンホアン(ホアンホアンと一緒に展示されている手の骨格はフェイフェイのもの)です。
ジャイアントパンダを含めクマ科の生物の手は,獲物の生物を狩ることに特化した構造をしています。鋭い爪の生えた5本の指が互いに並行に並んでおり,これらの指はそれぞれの関節から曲げる,伸ばすのふたつの動作しかできません。人間がものを掴む時のように親指だけを内側に折り曲げて他の4本の指と向かい合わせること(母指対向性)ができないため,竹や笹のような細いものを握って食べることは本来難しいと考えられます。
これを解決するために,ジャイアントパンダでは,他のクマ科では極めて小さい手首の親指側の関節の骨のひとつ,橈側種子骨が巨大化しています。ヒグマでは5ミリ程度の骨がジャイアントパンダでは40ミリを越えます。この橈側種子骨は俗に「偽の親指」と呼ばれ,パンダが竹や笹を掴もうとする時手首側で支えとなって,落下を食い止めていると考えられてきました。
ところが1995年に死亡したオス,フェイフェイの解剖調査を行った元動物研究部の遠藤秀紀(現・東京大学総合研究博物館)は,第六の指というべき「偽の親指」が親指に繋がる掌の骨にしっかりとくっついてしまっており,指の代わりとして自由に動かすことなどできそうもないことに気がつきました。
1997年に死亡したメス,ホアンホアンの手をCTスキャンに掛けたところ,ジャイアントパンダがものを掴む際にはもうひとつ,いわば第七の指が関与していることが判明しました。
第七の指として使われていたのは,小指側の手首にある副手根骨と呼ばれる骨でした。ジャイアントパンダを含めクマ科の生物は,人間に比べ手首をより深い角度で折り曲げることができます。パンダがものを掴もうとする時,手首を深く折り曲げていくと「偽の親指」は親指の骨と一緒に内側に折れ曲がりますが,それは丁度副手根骨と並行になる位置になります。手首を折り曲げることで,五本の指と「偽の親指」そして副手根骨の七本が竹や笹を握ることのできる空間を形成することが判ったのです。
リンリンの遺体がこの後どのように使われることになるのかは未だ決まっていません。皆さんの前に剥製として姿をお見せできる日もあるかも知れません。その折にはまた改めてこの場で,または国立科学博物館ホームページでお知らせしたいと考えています。
参考:遠藤秀紀著「パンダの死体はよみがえる」ちくま新書(2005)
写真:地球館3階に展示中のフェイフェイ(左)とトントン
(研究推進課 西村美里)