2008-05-01

速報:上野動物園最後のパンダ,リンリン死亡 (協力:動物研究部 川田伸一郎)


ジャイアントパンダの生態と繁殖

 ジャイアントパンダ(Ailuropoda melanoleuca)は,食肉目クマ科に属しています。
 クマ科には他にヒグマやホッキョクグマ,ツキノワグマなどが含まれます。食性はいずれも雑食ですが,ツキノワグマは植物を,ヒグマやホッキョクグマは肉や魚をより好む傾向にあります。
 ジャイアントパンダは現在はタケ科植物を中心としてほぼ完全な植物食(※2)ですが,その祖先は他のクマ科の生物と同じく雑食,更に古くは肉食であったと考えられています。その証拠のひとつは短い腸管で,体長の約4倍の長さしかありません。これは肉食獣のライオンなどとほぼ同じ比率で,雑食のヒトでは体長の約7〜8倍,植物食のウシでは20倍以上にもなることと比較してもジャイアントパンダが本来植物食ではないことが判ります。
 また,ジャイアントパンダの体内に生息する腸内細菌は肉を分解するタイプのもので,パンダの腸内では植物からの栄養素は食べた分の20%ほどしか吸収されていません。このためパンダは1日のほとんどを食べることに費やしています。それだけ食べても未だ養分は不足がちで,それがパンダの繁殖力が弱まる一因になっているとの研究もあります。

 ジャイアントパンダのメスの繁殖期は1年に1度,個体によって差がありますがおよそ2月から6月の間に訪れます。期間は数日と非常に短く,動物園では行動の変化や尿中の性ホルモンの変動から自然交配或いは人工授精のタイミングを測ります。
 妊娠期間は平均135日ですが,ジャイアントパンダのメスには実際には妊娠していないにも関わらず妊娠時と同じ行動,ホルモンパターンを見せる偽妊娠と呼ばれる現象があるため,実際に子が生まれるまで交配が成功したかどうかを見極めることは困難です。
 実際,2004年にリンリンとシュアンシュアンとの間で試みられた人工授精ではシュアンシュアンに食欲の変化や,巣作りなどの特徴的な行動が見られ,ホルモン値の上昇も見られたため妊娠の期待が高まりましたが,やがて行動,ホルモン値ともに元に戻り,偽妊娠だったと判りました。
 偽妊娠の起こる確率や実際に妊娠した場合の胎子の死亡率など,ジャイアントパンダの妊娠については未だ多くの謎が残っています。

 子どもは通常1頭から2頭で,体長は約10センチ,体重は100〜200グラムしかありません。おとなのジャイアントパンダの体重はオスで100〜150キロ,メスで80〜120キロですから,約1000分の1しかないことになります。
 生まれた直後は全身ピンク色ですが,約1週間で目の周りや耳,肩,四肢がうっすらと黒く見えるようになります。
 うまく行けば約1年で親離れしますが,ジャイアントパンダの母親は育児を放棄することもあり,動物園ではしばしば人工保育が行われています。

※2 上野動物園でジャイアントパンダに与えられていた飼料はタケ(しの竹・孟宗竹)のほか,サトウキビ・ニンジン・リンゴ・ナツメ・煮甘藷・パンダ団子でした。パンダ団子はトウモロコシ粉・大豆粉・パンダ専用粉ミルク・キビ砂糖を混ぜたものでした(上野動物園解説より)。野生では植物の他,ネズミなどの小動物の死肉,昆虫の幼虫,鳥の卵などを食べているとの報告もあります。