2009-12-07

続報:新型インフルエンザ ― ワクチンの働きと免疫


インフルエンザワクチンをつくる

 季節性か新型かに関わらず,インフルエンザのワクチンを作るためには先ず,元になるウィルスの株を十分な量手に入れる必要があります。
 インフルエンザウィルスは生物の細胞の内部に入り込んで生息・増殖するウィルスのため,量を増やすためには生きた細胞にウィルスを接種し,培養するしかありません。

 生きた細胞の供給源として使われているのは,鶏の有精卵(発育鶏卵)です。未だひよこのうちから厳正な衛生管理下に置かれた鶏を親として,産まれた卵のうち品質検査に合格したものを,産卵後11日程度孵卵器で育成します。
 温めた卵を孵卵器から取り出して殻に小さな穴を開け,感染力のある生きたウィルスを注入します。注入場所は漿尿膜と呼ばれる呼吸などを行う膜の内側で,発育途上の胚そのものや,胚の周りを満たす羊水,胚に養分を供給している卵黄などと直接接触することはありません。
 穴を塞いで孵卵器に戻し,更に3〜4日温め続けます。この間も胚は生き続けていますが,漿尿膜の内側では次第にウィルスが増えていきます。
 卵の殻に再び穴を開け,漿尿膜の内側の漿尿液を取り出します。そこに含まれるウィルスを分離し,ホルマリンなどを使って完全に不活化させます。 全粒子ワクチンであればこれで原液の完成ですが,スプリットワクチンでは更にエーテルなどを加えて,副反応を軽減させる処置が行われます。
 この後製造メーカーと国でそれぞれ安全性や効力の検査が行われ,合格したものだけがワクチンとして医療機関などに出荷されます。

 製造過程で卵が使われているため,卵にアレルギーのある方は接種を受けるべきかどうか迷われることも多いかも知れません。実際卵アレルギーの方の接種は勧められないとされていた時代もありました。
 ウィルスの培養場所は漿尿膜の内側ですが,卵白や卵黄との直接の接触はありません。また,ワクチンは十分精製されているため,卵の成分はほとんど残っていません。アレルギーの程度の軽い方なら,まず問題なく接種できると言われています。
 卵を食べて呼吸困難を起こしたことがある,酷い蕁麻疹が出たことがあるなど重篤なアレルギーのある方は,受けない方が無難だとされます。しかしこの場合も,パッチテストなどを行って影響の程度を判断しながら,少量ずつ,間隔を開けて接種するなどの方法で受けることができる場合もあります。
 いずれの場合も接種の前に十分に医師と相談してください。

 鶏卵を使う方法では,1回の培養に時間が掛かります。1個の卵で培養できるウィルスの量が成人の約0.5回分と少ないこと,卵の安定供給が得られなければ生産を続けられないこともあり,今回の新型インフルエンザのように,できるだけ早く大量にワクチンを生産したい場合には,本来あまり適した方法とは言えません。
 卵に頼らない方法として,他の生物の細胞を使った『細胞培養』法も検討されています。具体的にはサルやイヌ,アヒル,ヒトなどの細胞が考えられていますが,ウィルスを培養するより先にこれらの細胞を安定的に培養できなければなりません。
 現状ではターゲットとなる細胞の培養技術はほぼ確立されています。小さなチューブに小分けした状態で凍結保存したものを,必要な時に取り出して使えるようにもなりました。ヨーロッパでは複数のワクチンメーカーが細胞培養ワクチンのライセンスを既に取得しており,日本でも新たなウィルスのパンデミックが起こった場合半年以内に国民全員分の細胞培養ワクチンを提供できる体制を目指して研究が進められています。

(研究推進課 西村美里)