2009-12-07

続報:新型インフルエンザ ― ワクチンの働きと免疫


インフルエンザワクチンの効果

 日本の予防接種法では,ワクチンの接種を『定期接種』『任意接種』の2種類に分けて定義しています。
 定期接種は国が極力接種を受けるよう勧めるもので,市町村長の責任で接種機会が提供されます。多くの自治体や学校で集団接種が行われており,費用の全額または一部が公費によって負担されます。対象となる疾病のうち,はしかや風疹,ポリオなどは主に入園・入学前の子どもに接種が行われますが,季節性インフルエンザについても65歳以上の方,60〜64歳の方のうち,心臓・腎臓・呼吸器などに重大な障害のある方については定期接種の対象となります。
 任意接種はその名の通り,接種を受けるか受けないかの判断は個人の判断に委ねられています。希望者は自分で医療機関へ行かなければならず,費用も全額自己負担です。
 現在新型インフルエンザのワクチンは任意接種となっており,季節性についても,定期接種の対象者以外の方は全て任意接種となります。
 
 新型インフルエンザではこの他,任意接種を受けることのできる優先順位が定められています。11月30日現在で全国的に接種可能になっているのは,医療関係者(薬剤師は含まれていません),所定の基礎疾患のある方,妊娠中の方です。乳幼児・児童・生徒については自治体によって異なりますが,東京都では1歳から小学校入学前までの方であれば接種を受けることができます。状況は日々変化しますので,自治体またはかかりつけ医に相談するようにしてください。

 さて,ワクチンさえ接種しておけば100%発症せずに済むのでしょうか?残念ながらそう簡単ではありません。
 理由のひとつは接種方法が,皮下注射であるということです。皮下注射はその字の通り,皮膚の下の組織に薬液を注入することで,注入された薬液は毛細血管に吸収されます。そして血中で抗体反応が強まるのですが,インフルエンザウィルスの最初の進入路になりがちな鼻・のどなどの上気道では抗体はほとんど作られません。そしてインフルエンザのウィルスは,鼻やのどの周辺に留まっていることが多く,全身に回ることは少ないのです。たとえて言えば敵は国境のひとつの砦を集中的に攻撃しているのに,味方の兵士は国中に散らばってしまっているようなものとも言えます。ワクチン成分を鼻・のど付近に効果的に投与できる方法として,鼻に直接噴霧する点鼻式ワクチンがありますが,ワクチンの元になる成分が異なっており,日本では承認されていません。
 特にA型のウィルスで変異が早く,非常に多くの抗原候補株が存在することも予防を難しくします。抗原として使用される株は,Aソ連型・A香港型・B型から毎年各1株ずつ,計3株が選ばれることになっており,WHO(世界保健機関)の勧奨や国内外の流行状況に基づいて厚生労働省が決定しています。予想は外れることもあり,同じ亜型から2種類以上の株が流行した場合にも対処しきれません。

 1970年代までのインフルエンザワクチンは,不活化ウィルスをそのまま使って作られていました。これを全粒子ワクチンと言い,免疫を誘導する効果は高かったものの,副反応(副作用)も強く出ることが多く,問題となりました。
 これに対して現在のワクチンは,不活化したウィルスにエーテルなどを加えて脂質成分を溶かし,タンパク質を露出させて材料としています。こちらはスプリットワクチンといい,副反応の起こる確率は低いのですが,効果も全粒子ワクチンほど高くならないと言われています。
 海外ではスプリットワクチンに免疫増強剤(アジュバント)を加えることで効果を補っているものもあります。海外製の新型ワクチンは,年明け以降に接種可能になる予定です。

ことば:
 インフルエンザワクチンの効果を表す数字として,ワクチンの『有効性』があります。これはワクチンを接種した人のグループと接種しなかった人のグループを比較して,接種を受けたことで発症を免れた人がどの程度居たかを数値化したものです。
 今ここに健康な人100人のグループがふたつあるとして,それぞれをAグループ・Bグループと名付けます。Aグループには全員にワクチン接種を受けてもらい,Bグループには一切の接種をしないものとします。2つのグループのメンバーがそれぞれ通常の社会生活を送った時,Aグループは20人,Bグループでは50人がインフルエンザを発症しました。
 この時,ワクチンの接種によって発症を免れたAグループの人は50−20=30人いたと考えることができ,有効性は30÷50×100=60%となります。
 逆に言えば,有効性60%と言われた時,ワクチンを受けた100人のうち発症を免れるのは60人だと単純に計算するのは間違いだと判ります。上記のようにワクチンを受けなかった100人のうち50人が発症する流行であれば,ワクチンを受けて発症を免れる人は80人になるからです。

 また,ワクチンを受けて免疫を持っている人が増えれば,自分の周囲に感染者・発症者がいる確立が下がることになるため,更に多くの人が発症を免れることが期待できます。