研究室コラム・更新履歴

3月29日

それは幻だった!?
北半球初のコセミクジラの左鼓室胞化石(左側)と現生個体(右側)。米国立自然史博物館蔵

今から70年ほど前、米国地質調査所の研究員が沖縄県の60万年前の地層からヒゲクジラの頭部の化石を発見し、本国に持ち帰りました。この発見は長らく忘れられていましたが、当館を含む6カ国の研究者によって共同研究がなされ、その成果が昨年10月出版されました(要旨およびプレスリリース)。なんと、このヒゲクジラは南半球にしか生息していないコセミクジラの北半球からの初記録だったのです。彼らは地球が寒冷化したほんの一時だけ、赤道を越えて北半球に生息域を広げたようです。生息期間の短さといい、発見後の経緯といい、いろいろな意味で北半球のコセミクジラは幻でこそなくとも「一場の春夢」だったといえましょう…。
(地学研究部:甲能直樹)

3月22日

紅破れ傘
2011年にユネスコの世界自然遺産に登録された小笠原諸島からは、まだまだ珍しい海藻がみつかります。東京都小笠原水産センターの協力で実施した調査では、水深90mの海底から、破れた傘のような姿をした海藻を採集しました。紅藻マサゴシバリ目の1種で、このように直立する柄から葉状部が水平に広がり放射状に枝分かれするものは世界の熱帯域に分布しますが、日本の海域では知られていませんでした。和名は「ベニヤブレガサ」としてみましたが、いかがでしょうか。3月24日に仙台で開催される日本藻類学会の大会で日本新産種として発表します。
(植物研究部:北山太樹)

3月15日

フレンチギアナの昆虫
タイヨウモルフォ(タテハチョウ科)の生息環境(左)と飛翔個体(右:山口進撮影動画より)

今年7月から開催する特別展「昆虫」のため、南米フレンチギアナで昆虫の取材を行いました。熱帯林の林縁に設置したライトには多数の甲虫、蛾、バッタやセミなどが集まりました。昼間見たもので最も印象的だったのは、タイヨウモルフォです。この種はモルフォチョウの特徴である青い輝きを持たない、白、黒、オレンジ色の巨大なチョウです。熱帯林の林冠部を、あまりはばたかず、ゆるやかに飛んでいました。
(動物研究部:野村周平)

3月8日

古い科学・技術史資料の機能復元は難しい
明治時代前期に多用されたブラッシュ式アーク灯の機能レプリカ。過去の企画展で点灯した。

科学・技術史資料の中には古い実験機器や機械類がある。これらは元々作動していたものだ。動かすことによって、一見しただけでは分からない色々なことが分かり、伝えることもできる。ただ、貴重な資料の場合、手を加えることはできないので、機能レプリカを作成して展示などに活用している。
今年は、秋から開催の明治150年記念特別展のために、蓄音機と電話機の整備を進めている。幸い両者とも複数台保存している機種があるので、オリジナル資料の機能回復を目指している。しかし、実際に取りかかってみると、色々と課題が持ち上がる。長年保存していた機器はまずほとんど動作しない。そこで各部品は機能するか、代替部品はあるか、ない場合は新たに作ることは可能か、と手順を踏んで確認していく。電話機の場合、電電公社以前の時代は文献など情報が少ないため、かつて電話機の開発にかかわった技術者OBの協力を得て、進めているところである。
(理工学研究部:前島正裕)

3月1日

深海の超巨大火山から採取されたマンガン団塊
タム山塊から得られたマンガン団塊

2017年8月〜9月に日本から約1500 km 東方沖の太平洋に沈むシャツキー海台タム山塊という地球上で最大の火山体を調査しました。ワイヤーの先に鉄のバケツ(ドレッジャー)を付け、3000mを超える深海に下ろして船で引いたところ、1000個を超える黒玉が採取されました。この黒玉は岩石の欠片の周囲をマンガンがコーティングした「マンガン団塊」と呼ばれるものです。現在、マンガン団塊を輪切りにして溶岩を取り出す作業に追われています。溶岩を調べてマグマのできた深さや温度を調べたいと思っています。
(地学研究部:佐野貴司)

2月22日

絶滅したと思われていた種を79年ぶりに発見
2017年11月16日、シマクモキリソウ(Liparis hostifolia)の開花に成功しました(プレスリリース)。小笠原諸島固有のラン科植物で、1938 年を最後に見つかっておらず、絶滅が心配されていました。昨年6 月に東京都、首都大学東京、NHKが行った南硫黄島自然環境調査の折に採集された植物を筑波実験植物園で育てたところ、世界で初めて生息域外で開花し、形態の特徴とDNA解析の結果からシマクモキリソウであることを確認しました。
本種の祖先と思われる種は日本本土の冷涼な地域に生えています。1000kmを超える距離をどうやって旅して進化したのでしょうか? このなぞを解明するとともに、絶滅しないよう繁殖にチャレンジします。
(植物研究部:遊川知久)

2月15日

ナマコの微小骨片
マナマコApostichopus armatusの骨片(Woo et al., 2017

食用とされるマナマコは分類学的には1つの種と考えられてきましたが、体色の異なる型があります。最近になって、これらの型は遺伝的に異なることがわかり、マナマコとアカナマコという異なる2種に分類されました。ナマコは、体壁や触手の中にとても小さな骨片をもっていて、その形状で種を識別することができます。走査型電子顕微鏡による観察で、2種の微小骨片の違いを明瞭に示すことができました。今では、電子顕微鏡は研究に欠かせない道具となっています。
(動物研究部:藤田敏彦)

2月8日

キープを探す
結び目のついたひも

写真は、インカ帝国で情報伝達の手段として使われた「キープ」と呼ばれるものです。現在開催中の特別展「古代アンデス文明展」(〜2月18日)で展示するキープを探すために、ペルー北部のレイメバンバ博物館に行ったときに撮影しました。どんな情報が書かれているのかよく分かっていませんが、研究は進んでおり、最近ハーバード大学の学生が解読に成功したというニュースも流れました。今回は、この博物館から最も大きなキープを借用して展示しています。
(人類研究部:篠田謙一)

2月1日

100年前のデータベース(?) 南方熊楠
未同定のきのこ(F105bis)。左上に「cf. F71」として、他の図譜が引用されている。

2017年は南方熊楠生誕150年で、12月から企画展「南方熊楠―100年早かった智の人―」を開催中です(〜3月4日)。熊楠が集めた「情報」とその扱いにスポットを当て、まるで100年前にデータベースを実現したような熊楠像を浮き彫りにしています。本展ではいくつかの菌類図譜を初公開。熊楠は変形菌で有名ですが、実は非常に多数のきのこの標本を収集し、水彩画で描写し、標本をシートに貼り付け、記載しました。興味深いのは、近縁と思われる標本の番号をシートに書いているのです。熊楠の頭の中では標本さえも、互いに関連する知識の源となる材料だったのでしょう。その全貌を知るため、当館では関連機関とともに熊楠の菌類図譜のデータベース化を行い、一部を公開しています。
(植物研究部:細矢剛)

1月25日

夜も鳥の調査
左:はしごに登って巣箱の中をチェックする。右:ねぐらをとっていたシジュウカラ。

鳥の調査は早朝が主体ですが、ときには夜も行います。この時期は調査地にかけてある巣箱を使って、夜、ねぐらをとる(眠っている)シジュウカラの個体識別を行っています。先日は、昨年の春に私の巣箱で育ったオスが、数百メートル離れた巣箱でねぐらをとっているのに再会しました。足環をつけて個体を区別することで、住民(住鳥?)たちの台帳が整っていき、一生を追跡することができます。
(動物研究部:濱尾章二)

1月18日

CIMUSET2017に参加
CIMUSET2017参加者記念撮影

CIMUSET(科学技術の博物館・コレクション国際委員会)の年次総会が、12月初旬にモロッコの首都ラバトで開催され、日本からは前島正裕科学技術史グループ長と私の2人が参加しました。CIMUSETは、国際博物館会議(ICOM)の30ある国際委員会の一つで、今回初のアフリカ開催でした。モロッコの熱意は並ならぬものがあり、初日の会議終了後の歓迎レセプション挨拶では、科学技術学士院の常任事務局長で前高等教育・科学研究大臣のOmar Fassi-Fehri氏が、モロッコで開催されることの意義を力説されていました。2019年9月には京都でICOM世界大会が開催され、そこでCIMUSETの年次大会も行われます。その周知も兼ねて参加したため、当館の140年の歴史と科学技術遺産認定における役割について発表するとともに、ICOM京都大会の紹介をしました。参加者の関心は高く、日本での大会を世界にとってもまた日本にとっても意義深くする必要性を改めて感じました。
(理工学研究部:若林文高)

1月11日

底なる玉
日本鉱物科学会英文誌の「ひすい」特集号(下)と「かはくのモノ語りワゴン」の標本(上)

日本鉱物科学会の英文誌(JMPS)から国石「ひすい」の特集号が出ました。緒言「Gem sparkles deep(底なる玉:万葉集 巻十三 三二四七 より)」に続く11編の論文が、最新の「ひすい」研究を熱く語ります(電子版の閲覧はこちら)。全編英語ですが、美しいカラー写真だけでもお楽しみください。
そして、当館ボランティアによる「かはくのモノ語りワゴン」(展示の理解を深めるポイント紹介)に“ひすい”も入った「ワンダフル!ミネラル!」というプログラムが加わりました。ご参加の際にはぜひ手にとって実感してみてください。石のつぶやきから地底の出来事が聞こえるかも!?
(地学研究部:宮脇律郎)

1月4日

天国からの贈り物
樹幹に生育するParisia neocaledonica (樋口正信撮影)

以前、天国に一番近い島ともいわれるニューカレドニアで、コケ植物の調査を行いました。南部のフンボルト山の調査ではヘリコプターを使って山頂部に行きました。山頂までの登山道が無く、また、ニッケル鉱山の開発のために植生は焼き払われ、湿った山頂部にだけ原植生が残っているからです。そこで樹幹に蘚類(せんるい)の希少種Parisia neocaledonicaを見つけました。Parisiaはニューカレドニア固有で、この島での絶滅は地球上から無くなることを意味します。
(植物研究部:樋口正信)