2021-03-05

「令和2年7月豪雨」で被災した人吉城歴史館所蔵の植物標本レスキュー(Part.1)

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前原勘次郎コレクションの被災
現地からの標本搬出から乾燥・修復着手まで
標本の損傷状況と修復作業

標本の損傷状況と修復作業

(左上)泥まみれになった標本の束。(右上)筆を使用して洗浄中の標本。(左下)洗浄後にメッシュに挟まれた標本。(右下)乾燥機へのセットを待つ標本。

 水に浸かった標本はどの程度の被害を受けたのでしょうか? 一部の標本は全体が透明プラスチック袋に入れられていたため、内部への浸水は最低限に抑えられていました。しかし、残りの多くの標本は袋には入れられておらず、新聞紙で束が包まれていたため、標本全体が泥をかぶった上に完全に水を吸った状態でした。標本が置かれていた櫓の土壁が水に浸かって溶け出したことも状況を一層悪くしたようです。水没から一時保管まで常温に置かれた時間が長かったことから、多くの標本でカビの発生が確認され、さらにはバクテリアの増殖によってぬめりが発生している標本も多数認められました。
 標本を今後も利用可能な状態に保つためには、これらの泥やカビ・バクテリアを除去した上で完全に乾燥させる必要があります。レスキュー活動の開始当初は、標本ラベル、標本台紙から包んでいる袋・新聞紙(貴重な明治時代のものも含まれています)まで、植物標本に付随した全ての部材を処分することなく保存することを申し合わせました。しかし、泥とカビまみれの厚手の標本台紙をクリーニングするのは容易ではありません。台紙は後年になって付け加えられたものであることが確認されたため、メモ書き等の失われる情報がないことを確認した上で処分もやむなしとする方針に切り替えられました。水を張ったバットの中で、植物標本とラベルを台紙から剥がしながら慎重に洗浄し、貼りつかないようナイロンメッシュに挟んだ上で、吸水用の新聞紙・段ボール板を重ね、乾燥機にセットします。極力元の状態に近づける努力をしましたが、既に本来とは程遠い状態まで損傷しており、再び資料としての活用が望めないものも残念ながら存在します。


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