2012-12-25

小さな化石から様々な情報が読み取れることをご存じですか?


気候変動と生物、そして酸素同位体比の温度計

気候変動と生物
 化石を見るとき、どんなことを考えますか?それが動物であれば、どんなものを食べていたんだろう?とか、どんな速さで走ったのだろう?などでしょうか?あるいは、この生き物はどんなところに暮らしていたのだろう?暖かいところだろうか?それとも寒いところだろうか?と考える場合もあるかもしれませんね。

化石のなかには、生物が暮らしていた環境を的確に指し示すものがあります。たとえば、サンゴの化石であれば、いまサンゴ礁が発達しているような熱帯や亜熱帯の暖かい海が示されます。逆に、ホタテガイの仲間が化石として産出すれば、当時のその場所は寒い海であったことが示されます。このように過去の環境を示す化石は示相化石と呼ばれます。しかしながら、過去に生きていた生物のほとんどは現在までに絶滅した生物で、厳密にはどのような環境に暮らしていたのかを指し示すことはできません。そのため、より確実な手法で過去の環境を知るにはどうしたらよいかが研究されてきました。そして、温度に関しては分子の物理化学的な法則にのっとって変化する同位体比というものが指標として使えそうだということが分かってきました。

酸素同位体比の温度計

 化石として残される生物の殻はアラレ石(アラゴナイト)や方解石(カルサイト)、燐灰石(アパタイト)などの鉱物が結晶してできています。このような鉱物は、まわりの海水とそれに溶け込んでいるイオンを原料にして作られるので、殻には海水温などの生物が生きていたときの海水の状態が記録されます。とくに、殻の酸素同位体比は過去の海水温の指標としてさかんに研究されてきました。

 この酸素同位体比の分析に用いられてきた化石には、サンゴ、二枚貝、有孔虫、アンモナイト、ベレムナイト、コノドント、腕足貝などがあります。現在に近い過去の海水温に関しては、塊状ハマサンゴや二枚貝を成長線ごとに分析すれば、年単位あるいは日単位の海水温の復元ができる場合があります。また、大きさが1mmにもみたない有孔虫も重要です。海底ボーリングコアを使った研究では、直径10cm程度の細いコアにも豊富に含まれる有孔虫の殻が酸素同位体比の分析に用いられてきました。有孔虫を用いて中生代以降の海水温が推定されており、その世界的な平均値が地球全体の気候の変化を代表するものとして扱われることもよくあります。

 古生代の化石になると、生物が作った炭酸カルシウム(アラレ石や方解石)の殻がそのまま保存されていることはまれになります。そのため、化石の殻を分析しても生物が生きていた当時の水温を知ることができません。一方、より安定な鉱物である燐灰石(アパタイト)でできた化石、コノドントが威力を発揮します。コノドントとは、カンブリア紀から三畳紀にかけて海に生育していた絶滅生物(=コノドント動物)の口のなかの器官の化石です。歯のようなかたちをしていて、複数の異なる形状のものが、1個体のコノドント動物の口のなかに配列されていたようです。これらは、リン酸カルシウム(燐灰石、アパタイト)でできていて保存されやすく、そのかたちも多様で、古生代から中生代初めの地層のたまった時代を示す示準化石としても重要です。