2011-12-26

旧石器時代のアジアでの「現代人的行動」の出現に関する国際シンポジウムが開催されました!


「旧石器時代のアジアにおける現代人的行動の出現と多様性」(11月29日〜12月1日)


「現代人的行動」は、英語のmodern human behaviorの訳なので、このシンポジウムを(単語の頭文字をとって)MHBシンポジウムと略称しています。海外からの参加者は、日曜のAPAシンポジウムと月曜日の野外巡検で、既にアジアのMHB研究の面白さ・奥深さの一端に触れていました。そのため、火曜日にMHBシンポジウムが始まった時の会議場は、次にどのような新しい研究成果が紹介されるのだろうという期待感で溢れていました。そしてその期待通りに、シンポジウムは興奮に満ちたものとなりました。

 MHBシンポジウムの初日は、国立科学博物館の館長のあいさつに始まり、ポール・メラーズ教授・卿(ケンブリッジ大)の基調講演で幕を開けました。教授が「MHBをどう定義するか」というなかなか難しい課題について話した後、続く演題ではヨーロッパのクロマニョン人(ヨーロッパの旧石器時代のサピエンス)の文化と、アメリカ大陸への最初の人の移住についての話題が紹介されました。

 これら3つの基調講演の後、セッションIとしてアジア地域の初期サピエンスの拡散・移住について、化石形態や遺伝学の研究者が発表しました。
琉球列島における3万年前を越える海洋渡航技術の証拠などが報告された後、サピエンスのアジアへの渡来ルートが海岸沿いであったか否かをめぐって、激しいディスカッションがなされました。
夕方には別会場でポスター発表と石器の実見会が行われましたが、こちらでも活発な議論が続き、たいへん盛り上がりました。

 2日目の午前中は、シベリア、モンゴル、中国、朝鮮半島のMHBの遺跡証拠がテーマでした。最近の一部の遺伝学的証拠と異なって、旧石器時代のアジアにおいて、サピエンスのシベリア経由の北回りの移動があったのではないかと考える考古学者が多いようでした。

そして、2日目午後は、日本の旧石器時代についての発表が8件ありました。これまでのところ、日本でしか確認されていない旧石器時代の落し穴、外洋の島までわざわざ舟で出かけて石器の原材料を取りに行っていた証拠、そして世界でも飛びぬけて高い遺跡密度などには、海外参加者は驚いていました。
この夕方には発表された研究者を招いて日本食の会を催し、日本文化への理解も深めてもらいました。
 
 3日目は、インド・東南アジアからオーストラリアに至る地域が焦点となりました。同じサピエンスによるものとはいえ、北の寒冷地域で展開されていた文化とは全く異質の旧石器文化の存在が、聴衆の意識を強く引きつけました。中でも、オーストラリア国立大のオコナー教授による、インドネシア東部のティモール島のサピエンス集団が、4万年も前からマグロ漁を含む高度な海洋技術を持っていたとの発表は、注目を集めました。この内容は、シンポジウム前日に米サイエンス誌に発表されるというタイムリーなものでした。

 このシンポジウムの発表内容は、より多くの研究者が活用できるように、英文の論文集として出版する計画を進めています。


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