2011-04-26

100年ぶりに発見!ヒメモヅルの新種


クモヒトデとは?ツルクモヒトデとは?ヒメモヅルとは? --- 分類学のルール

 クモヒトデ類とは、ヒトデ類と同じ棘皮動物に属する1つの分類群です。体は、中央の盤と呼ばれる円形の部分から5本の細長い腕が伸びています。ヒトデ類の1種だと思われることがありますが、ヒトデ類とは、形態が大きく異なる別の分類群です。

 クモヒトデ類は、普通のクモヒトデ類とツルクモヒトデ類の2つに分類されます。腕が樹状に分岐するとても不思議な形の生き物であるテヅルモヅルは、このツルクモヒトデ類に含まれます。ツルクモヒトデ類は、普通のクモヒトデ類とは,腕にある骨の形や配置が異なっているため、腕をぐるぐると巻くことができ、「ヤギ」という名前の刺胞動物の仲間などの、他の動物に絡み付いて生活しています。ツルクモヒトデ類は主に100メートル以深の海底に生息しており、標本を得るのが難しいため研究が進んでおらず、分類や生態などの基本的なことも全くわかっていない動物群でした。

 現在の地球上に存在している、進化によって生じてきたたくさんの動物の種の多様性は、階層的な分類体系によって理解することができます。ヒメモヅルは、分類学的には属という階級に属し、動物「界」>棘皮動物「門」>クモヒトデ「綱」>ツルクモヒトデ「目」>タコクモヒトデ「科」>ヒメモヅル「属」という位置づけとなります。

 ヒメモヅル属を扱ったこれまでの分類学的な研究論文をしらみつぶしに調べる作業をしたところ、ヒメモヅル(Astrocharis)属には、世界中で@Astrocharis virgo、AAstrocharis ijimaiおよびBAstrocharis gracilisの3種のみが知られていることがわかりました。研究論文の数はとても少なく、@、A、Bそれぞれの種を新種として報告した「原記載」の論文の3つをあわせても、全部で8つの論文があるのみです。

 分類学で最も重要な作業の一つが「記載」と呼ばれる作業です。ある種の特徴を、スケッチや写真なども用いて、文章として記述します。これまでに知られていない種を見つけても、見つけただけでは新種とはならず、新種の記載を行った論文が学術雑誌に発表されることで、初めて「新種」となります。新種が発見された際の記載はとても重要なので、特に「原記載」と呼んで区別します。

 「原記載」論文では、「タイプ標本」が指定されなければなりません。タイプ標本とは、その新種の学名を担う役割を果たす標本です。動物の学名に関しては、その名称が混乱なく使えるようにするために、国際動物命名規約というルールが定められています。ルールの内容は少しずつ改訂されており、現在は2000年1月1日に発効した、第4版が有効です。この規約によって,新種の記載の際、論文の著者は、1個体のタイプ標本(「ホロタイプ」と呼びます。)または複数個体のタイプ標本(「シンタイプ」と呼びます?)を指定することとなっており、これが新種の学名の拠り所となります。もし1つの種として記載された種が、研究が進められて本当は2種だと分かった場合には、そのタイプ標本を含む種が、元々の種の名前を引き継ぐことになるわけです。

 分類の進んでいない分類群では、100年以上前の原記載以降、全く記録がない種も多数みられます。そのような古い原記載には、詳しい特徴が記載されていない場合も多いため、他の種とのきちんとした比較が困難です。このような問題を解決するためには、そのタイプ標本を再度観察し、詳しい特徴を精微に記載する、「再記載」という作業が必要不可欠です。この時、タイプ標本が残っていないと、この再記載を行うのは不可能なのです。【図3,図4】