2010-01-01

2009年科学ニュースを振り返って


2009年科学関連ニュース クイックレビュー(3)

巨大クラゲ,過去最大規模の大発生:
 6月下旬,今年最初のエチゼンクラゲが長崎県対馬沖で確認されました。エチゼンクラゲはクラゲ目ビゼンクラゲ科に属する大型のクラゲで,大きいものでは傘の直径が2メートルにも達します。本来の生息地は中国の黄海・渤海・北部東シナ海沿岸と考えられていますが,対馬海流に乗って日本海沿岸沿いに北上し,漁網に混入して問題となります。大きな身体の90%以上が水分のため非常に重く,網が破れてしまうばかりか,触手に毒を持っているため触れた魚を傷めて商品価値を下げてしまいます。
 21世紀に入って大出現の頻度が上がっており,2002年,2003年,2005年にも大発生して大きな被害を出しました。
 2009年のエチゼンクラゲの発生・被害状況は,これまでの最悪と言われた2005年の勢いに迫るか,或いはそれを上回るものです。通常,対馬にエチゼンクラゲが現れるのは7月から8月に掛けてですが,2009年はそれより1ヶ月以上早い初確認となりました。
 クラゲは9月初めに津軽海峡に到達,海峡を抜けて太平洋岸を南下し,11月には紀伊半島沖に現れました。海峡を抜けなかった一群は北海道に到って宗谷岬を回り,10月にはオホーツク海で確認されています。
 これに対して研究者や漁業関係者なども手を拱いている訳ではありません。漁具の改良やエチゼンクラゲ自体を資源として食料や医薬品の材料とする,発生源と考えられる中国近海にエチゼンクラゲを餌としているウマヅラハギ(フグ目カワハギ科)が好む魚礁を設置して,クラゲが成長する前に捕食させるなどの対策が考えられています。しかしクラゲの数が極めて多い上,生態についても解っていないことが多いため,いずれも効果的な対策とはなっていないのが現状です。

都会暮らしのシジュウカラ,さえずりに変化:
 シジュウカラはスズメ目シジュウカラ科の鳥で,体長は15センチ前後です。頭部は黒く頬には白い斑紋,咽喉から腹に掛けて黒い帯があり,羽は灰色,胸と腹の羽毛は淡い黄褐色です。森林に生息する鳥ですが,公園など都市の緑地でも普通に見ることができます。
 この都市暮らしのシジュウカラについて,9月,騒音の大きい場所とそうでない場所でさえずりに違いがあることが明らかになりました。東京の都市緑地22ヶ所でシジュウカラのさえずりを調査したところ,騒音の大きな場所ほど最低周波数が高く,さえずりが長くなっていました。都市の騒音は鳥のさえずりと比べて周波数が低いため,低い声を出さずに長く鳴くことで,さえずりがより伝わりやすくなっている可能性があります。
 騒音によってさえずりが変化する可能性については,近年欧米でも報告がありました。しかしそれらではオス同士のなわばり争いの影響が考慮されていませんでした。さえずりの機能のひとつはオスが他のオスに対してなわばりを主張することですが,大きな騒音のある場所は餌となる生物が少なかったりメスに好まれなかったりと,あまり良い条件のなわばりなのかも知れないと考えることもできます。声の高い小柄な個体がそこに追いやられただけで,騒音と声には直接の関係はないのかも知れません。
 今回の研究では緑地ごとにオスのなわばり密度を測定し,オス同士の競争の影響を統計的に取り除いています。
 今後は,騒音によるさえずりの変化が子孫にも伝わるのか,つがい相手の獲得に影響を及ぼさないのかなど,より詳しい研究が進められる予定です。

シーラカンス稚魚の撮影に成功:
 11月,福島県の水族館『アクアマリンふくしま』が,インドネシア共和国スラウェシ島の近海で,世界で初めてシーラカンスの稚魚の撮影に成功したと発表しました。古生代デボン紀に登場したシーラカンスは,中生代の終わりにアンモナイトなどと同様に絶滅したと考えられて来ましたが,1938年に南アフリカで生存が確認されました。インドネシアのシーラカンスは1997年に発見され,南アフリカのものとは同属の別種とされています。
 シーラカンスは卵胎生で,親の胎内で卵を孵し,稚魚を体長約30センチ程度まで育ててから産みます。今回発見された稚魚は体長およそ31.5センチで,産まれてから未だ間もないと考えられます。
 国立科学博物館では地球館1階と地下2階に,現生とデボン紀のシーラカンスをそれぞれ展示しています。

写真:中生代三畳紀のシーラカンス類(地球館地下2階『魚類の進化』)

(研究推進課 西村美里)