2008-10-10
速報:ノーベル物理学賞受賞 「対称性の破れ」と「小林・益川理論」(協力:理工学研究部 田辺義一,洞口俊博)
日本で,世界で−精力的に進められつつある素粒子研究
日本最初のノーベル賞受賞者ともなった湯川秀樹の中間子論,それに続いた朝永振一郎のくりこみ理論以来,日本は素粒子研究で世界のトップレベルの一翼を担ってきました。
現在それを引き継いで行われている先端研究の一部を最後にご紹介しましょう。
原子核や素粒子の研究では,元の原子核を破壊したり,原子核・素粒子を別の原子核・素粒子に変換してその過程で起こる現象や出来上がった新たな粒子を調査・観察する必要があります。
その為に陽子や電子,イオンなど電荷を帯びた粒子を加速して高いエネルギーを与え,衝突させる装置を「加速器」といいます。プラスとマイナスの電極の間に例えばマイナス電荷を持つ電子を置くと,電子はプラス極側に引き寄せられて加速度を得ます。1段階で上がる速度はそれほど大きくありませんが,磁場を使って粒子を一定の軌道の中で周回させ,1周するごとに加速を繰り返すことで光速に近い速度が得られます。
電子と陽電子のように反対の電荷を持つ粒子を逆方向に周回させることで,高エネルギーでの正面衝突を起こさせることが可能になります。
日本では大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構(KEK)が,つくば市に複数の加速器を所有しています。そのうち電子・陽電子加速器のひとつB-ファクトリーで行われたBelle実験は,前述のB
0中間子の崩壊や,新しいハドロンの生成について研究するものです。
また陽子加速器では250km離れた岐阜県の神岡宇宙素粒子研究施設(スーパーカミオカンデ)に向けてニュートリノビームを放射,神岡で観測されたニュートリノの数が放出時に比べどれだけ減少したかを調べることで,移動中のニュートリノに性質の変化(ニュートリノ振動)が起こったかどうかを確認しようとしました。この実験は既に成功裏に終了しています。
これらの加速器を上回る巨大な加速器が,国際的な協力によって今年,スイスのジュネーブ郊外に完成しました。欧州原子核研究機構(CERN)が所有する大型ハドロン衝突型加速器(略称LHC)です。これまでの加速器では到達できなかった高速度での陽子・陽子衝突によって生成される素粒子(※5)の観察や,宇宙最初期にあったと言われる,クォーク・グルーオン(※6)・プラズマの観察,衝突エネルギーで生成されると考えられている極小ブラックホールの検出など,注目の実験が数多く予定されています。
日本のグループも一部の実験装置の開発や実験に開発段階から関与しており,今後新たな発見・貢献が期待されます。
LHCは残念ながら,現在電気系統の故障のため運転を停止しており,実験再開は2009年の春以降になる見通しです。
※5 現在理論上存在するとされている粒子の中で未発見となっており,LHCが検出を目指しているもののひとつが,物体に質量を与えるとされるヒッグス粒子です。初期には質量がゼロであった素粒子が質量を得たのは,真空の性質が変化したことにより素粒子の運動に抵抗が生じるようになったためだという説を前項で紹介しましたが,この抵抗を与えている粒子がヒッグス粒子であると考えられています。
※6 グルーオンはハドロンの内部で,クォーク同士の強い相互作用を伝達する粒子です。電荷を持たず,クォーク同様通常の状態では単体で取り出すことはできません。
写真:LHC内部(一部) Wikipedia英語版より
(研究推進課 西村美里)