2008-06-01

ダイトウウグイスの巣と卵の発見・撮影に成功 (協力:附属自然教育園 濱尾章二)


ダイトウウグイス調査のこれから

 80年近い時を経て生存が確かめられたダイトウウグイス。その生態についてはまだまだ不明な部分が数多く残されています。今回の写真の撮影者であり,今月も再調査に現地を訪問予定の国立科学博物館研究主幹濱尾章二に,今後のダイトウウグイスの調査・研究の予定について聞いてみました。

Q:ダイトウウグイスの研究について,今後どのようなテーマ,研究手順が考えられますか?
A(濱尾):現在考えている目標は3つあります。先ず第1は,卵の数やメスだけが子の世話を行っているらしいことなど,今回新たに判った繁殖生態を確認し,より正確に習性を記録することです。
 第2には,ある特定の環境の中で生活する生物がどのような生態を獲得することになるのかという進化・適応をさぐることです。島は『進化の実験場』とも言え,周りから隔絶された環境の中で獲得された,島独特の生態を調べることは興味深いものです。
 具体的に言えば喜界島のダイトウウグイスは何を食べているのか,捕食者はいるのか,生息密度から種内競争などを調べます。そして,婚姻形態や子の世話の様式とつき合わせ,他地域のウグイスと比較してみたいと思います。

Q.離島に暮らすウグイスの生態で,これまでに何か判っていることはありますか?
A.北海道から九州に掛けて生息する亜種ウグイスのオスは,全く子の世話に参加しません。オス1羽に対してつがいとなるメスは時に6羽〜7羽と,非常に発達した一夫多妻制を持っています。これは肉食獣やヘビなどウグイスを捕食する生物が多く,生まれた卵のおよそ4分の1しか巣立ちまで育つことができないことが関係しています。捕食によって卵やヒナを失ったメスは相手のオスのなわばりが安全な繁殖地ではないとみると,より安全ななわばりを持つオスのところへ移動して行きます。その結果,オスにとっては子育てをせずに次のメスを迎え入れた方がたくさんの子を残すことができ,一夫多妻制が発達することになります。
 一方で小笠原諸島に住むハシナガウグイスは,オスも子育てに参加し,一夫多妻制は発達していないようです。卵は少なく,1つの巣に2,3個程度です。小笠原では捕食者が少ないこと,鳥の種数は少ないものの1種あたりの個体密度が高いことが原因と考えられます。密度が高くなると餌をめぐる競争相手が増えるため,少数のヒナにオス・メス双方で餌を運ぶ方法でないと子育てが難しいのでしょう。

Q.喜界島のダイトウウグイスについては,これまでに見たところ卵の数や,メスだけが子育てをしているところなど北海道から九州のウグイスに近い繁殖生態のように思えますが?
A.そうですね。ただ,巣を観察するだけでは不十分で,オスがなわばりを持ち始めるのはいつ頃なのか,オスとメスがつがいになる時期はいつなのか,巣立ちの成功率はどのくらいなのか,餌の不足によるヒナの餓死はないかなど,今後継続的に観察して行く必要があります。それによって,ダイトウウグイスの環境に適応した生態をトータルで理解できるようになります。

Q.第3の目標についてもお聞かせ下さい。
A.第3は,ダイトウウグイスの保全です。喜界島ではネズミを退治するために人間が持ち込んだイタチが野生化しています。東京都の三宅島ではイタチが侵入して以来鳥の巣が襲われ,巣が高い位置につくられるようになったとも言われています。喜界島でも何らかの影響が出ている可能性があります。

Q.ありがとうございました。


写真:ダイトウウグイスの卵 (撮影 濱尾章二)

(研究推進課 西村美里)