2008-03-15

第9惑星再び!? −海王星の外側に新たな惑星の可能性 (協力:理工学研究部 西城惠一)


「新惑星」を予言したコンピューター・シミュレーション

 今回の「新惑星」の存在の予言に至る,シミュレーションの背景をひも解いてみましょう。

 海王星の軌道より外側の領域には,太陽系外縁天体(TNO)と呼ばれる小天体が数多く観測されています。これらの軌道や性質を詳しく調べてみると,TNOは大きく分けて4つのグループに分類できることがわかってきました。

 第1のグループ,古典的TNOは軌道の長半径が海王星の軌道半径(30AU)よりも大きく,海王星の2倍以内の公転周期を持つ(長半径48AU未満)ものをいいます。
 第2のグループは共鳴TNOといい,その天体の公転周期と海王星の公転周期の比を整数で表すことができる位置にあるものです。冥王星は海王星の1.5倍の公転周期を持っており,3:2の整数比で表すことができるためこのグループに属します。
 第3のグループ,散乱TNOは,軌道の長半径が48AU以上でありながら,太陽に最も近づく時(近日点)の距離が37から40AUのものです。冥王星を惑星から降格させるきっかけともなった,冥王星より半径が大きいと考えられる準惑星エリスはこのグループに属します。
 最後に分離TNOは,海王星の重力の影響をほとんど受けていないと思われるグループです。

 これら4つのグループは,それぞれ他のグループとは全く異なる複雑な軌道の特徴を持っていますが,何故そのようにグループに分かれることになったのか,全てのグループの軌道を1度に説明できる理論モデルはこれまで存在しませんでした。

 現在広く受け入れられている太陽系の形成モデル(※2)では,TNOを含め太陽の周りを公転する天体の軌道は,形成当初は楕円の中でも比較的円に近い(離心率の低い)形をしており,またおおよそ同じ平面上にあるものと考えられてきました。しかしTNOでは,円に近い軌道を持っているのは48AUより太陽に近いものだけです。また多くの軌道は惑星の軌道の面に対して大きく傾いています。この理由もこれまで謎でした。

 今回のシミュレーションは,TNOの軌道に関するこれらの謎を説明する為のものでした。TNOが初めから現在の軌道を持っていたわけではなく,海王星や他の天体の運動や重力の影響によって現在の軌道に変化していったものと考え,どのような天体を仮定すれば軌道の変化をうまく説明できるかを検討したのです。
 その結果導かれたのが,今回の「新惑星」の存在でした。

 太陽系が形成されたばかりの頃,木星から海王星までの大型ガス惑星は,現在よりも太陽に近い軌道を回っていました。現在の天王星と海王星の軌道長半径はそれぞれ19AU,30AUですが,形成当初は15AUと20AU程度しかありませんでした。
 「新惑星」は当時の天王星と海王星の間の位置で誕生しましたが,その後ふたつの惑星の影響を受け,より遠方の軌道に飛ばされてしまいました。落ち着いた先は海王星との公転周期の比が6:1となる軌道でしたが,その後木星から海王星までの惑星の軌道にマイグレーションと呼ばれる外向きの移動運動が起こり,海王星が現在の軌道に移動した時,影響を受けて更に太陽から遠ざかり,現在では軌道長半径が100から175AUになっているものと推定されます。

 この「新惑星」の移動と重力の影響によって,原始TNOの軌道は大きく乱されました。例えば48AU以上を超える軌道長半径を持つTNOは,円に近い軌道から弾き飛ばされ,細長い楕円の軌道を持つようになったと説明できます。

※2 太陽系形成のやさしい解説は,バーチャルミュージアム「宇宙の質問箱」をご覧ください。

参考:Patryk S. Lykawka and Tadashi Mukai, Astronomical Journal Vol.135-4, 1161(2008)