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光による絵画の分析
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エクステル像

東京藝術大学大学美術館蔵

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原田 直次郎 1886(明治19)年

 原田直次郎は、1863(文久3)年に生まれ、1882(明治15)年に天絵学舎に入り、高橋由一に師事する。1884(明治17)年にミュンヘン美術大学に留学する。「エクステル像」は留学時の作品である。

 X線写真では、何重にも絵柄が重なっている。X線合成写真は、X線ネガフィルムとノーマルのポジフィルムを重ね合わせ、焼き付けた写真である。すなわち、画面最上層のエクステル像の明部を差し引いたX線写真ということになる。エクステルの像も、一個だけではなく、斜め右前方を見たもうひとつのエクステルが見える。画面の天地を逆にして観察すると、中央半分に額の禿上がった老人の顔面、左下の方に向かって肩から腕が出ている胸の側面、その肩の上に振り向いてこちらを見る顔面などが認められる。また、画面下辺に帽子をかぶった少女が見える。少なくとも、総計六個の形体が描かれていることになる。これこそ、まさに稽古画といえる。

 額のほぼ中央部に微小の地塗りまで欠けた剥落がある。そこの顕微鏡写真によると、黒褐色が地塗りの上に薄く塗られている。この画面の亀裂やちりめん皺の激しさから、アスファルトからなるビチュームが薄層に塗ってあるのではないかと判断せざるをえない。

 側光線合成写真によると、ちりめん皺は、頭部の明部暗部とも著しい。左前方向きの像は、右前方向きの像の直後あるいはほぼ同時期に続いて描かれ、しかも厚塗りだったからであろう。

 顕微鏡写真によると、肌色の亀裂部分に下層からのビチュームが溢れ出てきている。赤道近くを通る船旅や、直射日光が当たる場所や、暖炉のある部屋に飾られ、アスファルトが再溶解し、また固まったのだろう。


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