地衣類についてもっと学ぼう

■地衣類はどんなふうに増えるの?
菌類の胞子が現地で藻類を獲得する方法と、粉芽や裂芽による栄養繁殖による方法がおもに知られています。子器で作られた胞子は、発芽した後、親と同じ共生藻を見つけて共生し、新しい個体をつくります。栄養繁殖器官はそのまま発芽して、親と同じ形に成長します。

■地衣類の増え方
地衣類をルーペで拡大してみると、地衣類にしか見られない特徴が観察できます。
地衣体の上にできる小さな皿状の器官は、子器(図4)とよばれる生殖器官で、中に菌類の胞子がつくられます。子器は種類によって形や色が異なり、モジゴケの仲間では紙に字を描いたような形になります(図4b)。
●図4 子器のいろいろ
a フクロゴケ、b モジゴケ、c ニキビゴケ 、d コアカミゴケ
種によっては、地衣体の上に粉状の塊や指状の小突起をつくるものがあります。これらは粉芽(図5a)または裂芽(図5b)とよばれ、栄養繁殖器官として機能します。
● 図5a 粉芽 ● 図5b 裂芽

■どんな色の地衣類があるの?
地衣類の色は灰色、黄緑色、橙色など、様々です。これは、地衣体に含まれる化学成分の違いによるものです。ウスニン酸と呼ばれる色素を持つものは黄色、アントラキノン系色素を含むものは橙色、その他のものは灰色となるので、地衣体の色を見れば含まれる色素の種類を大まかに知ることができます。(図6)
● 図6a 石花酸 ● 図6b サラチン酸
 
● 図6c アレクトロン酸  
地衣成分を化学的に調べるためには、呈色反応法顕微化学的証明法クロマトグラフ法 などが用いられます。

■ 日本にはどんな地衣類が?
日本には、約1,800種の地衣類が生育しています。一つの山に生育する地衣類の種数は、山の大きさや植生の多様性が高いほど多くなります。富士山や阿寒岳のような大きな山では、200〜250種の地衣類が生育していることがわかっています。同じ山の中でも、スギやヒノキの植林地では種数が少なく、ブナやミズナラ、シラベなどの天然林では種数が多くなります。天然林では、生育基物となる樹木の種数が多いことや、倒木や天然更新する林床があること,微環境の異なる地衣類の生育可能な場が多様にあるためと考えられます。日本は南北に細長い地形で、生育する地衣類の種も地域によって異なっています。日本の主な植生帯に出現する代表的な種を、以下に紹介します。

●高山帯(ハイマツ帯)の地衣類
ムシゴケ、イワブスマ、マキバエイランタイなど。ハイマツ帯から樹木限界に生育する地衣類には、北半球の高緯度地域に生育する種が多く見られます(図7)。
●図7a タカネコゲノリ(大雪山) ●図7b 高山の固着地衣類(大雪山)

●亜高山針葉樹林帯の地衣類
リボンゴケ、ヒロハツメゴケ、チズゴケ、ナガサルオガセなど。北半球の冷温帯に広く分布する種が多く見られます(図8)。
●図8a リボンゴケ(富士山) ●図8b ナガサルオガセ(男体山)
 
●図8c ハリガネキノリ(富士山)  

●ブナ・ミズナラ林の地衣類
ナマリモジゴケ、ヨコワサルオガセ、クサビラゴケ、カブトゴケ、モエギイボゴケ、ブナノモツレサネゴケなど。日本をはじめ東アジア特産の種が多く見られます。

●500m以下の低山地の地衣類
キウメノキゴケ、ウメノキゴケ、マツゲゴケ、ヒメレンゲゴケ、ヒメジョウゴゴケ、ウチキクロボシゴケ、ヒカゲウチキウメノキゴケなど(図9)。

●図9a ウメノキゴケ(千葉県茂原) ●図9b ヒメジョウゴゴケ(塩尻市)
 
●図9c ヒメレンゲゴケ(高田市)  

●都市部の地衣類
コフキメダルチイ、ロウソクゴケ、コナロゼットチイ、レプラゴケなど。乾燥や大気汚染に強い種が多い(図10a)。

●里山から高山まで広く分布する地衣類

ハナゴケ、ワラハナゴケ、ヘリトリゴケなど(図10bc)。

●屋久島以南の暖地性地衣類

シマハナビラゴケ、生葉上地衣類の仲間(アオバゴケ)、オニサネゴケ、ユモジゴケなど。熱帯から亜熱帯に広く分布する種が多い(図10d)。

●図10a ロウソクゴケ(つくば市) ●図10b ハナゴケ(東海村)
●図10c ヘリトリゴケ(つくば市) ●図10d 生葉上につく生葉上地衣類(西表島)


■ 厳しい環境下にも地衣類は生えるの?
地衣類は、他の生物が生育できないような厳しい環境下でも生活できます。一年の半分が暗黒で、酷寒の世界となる南極圏や北極圏、そして乾燥、低温、強風などにさらされるヒマラヤやアンデス山地などの高山にも地衣類は多く、何年間も雨の降らない砂漠にも地衣類の群落が見られます。地衣類がこのような過酷な条件下でも生活できるのは、地衣類はもともと乾燥や低温、高温に耐える能力が高いうえ、低温、乾燥などにさらされると呼吸量を極端に少なくして、エネルギーの消耗をおさえたまま、何年間も耐えられる能力をもっているからです(図11)

● 図11 ムシゴケとミヤマハナゴケ(忠別岳)

 
国立科学博物館