地衣類Q&A

Q1. 食べられる地衣類があるって本当ですか?
A1. 
本当です。日本で食用にされるイワタケは特に有名で、外国の本にも紹介されています(図12)。また、トナカイが食べるハナゴケ類は「トナカイゴケ」としても有名です

● 図12a イワタケ(長野県梓山)) ●図12b イワタケのてんぷら

Q2. 地衣類を使った製品がありますか?
A2.

  • リトマス試験紙はリトマスゴケという名前の地衣類の化学成分を利用して作られます(図13)。
  • オークモスとよばれる樹枝状地衣類は、香水の材料として利用されます。
  • ウールの植物染色としても利用されます。
  • 鉄道模型などのジオラマ用の樹木として利用されます。

●図13リトマスゴケ(ペルー産)

Q3. 医薬品として使われているそうですが?
A3.
昔はウスニン酸を利用した傷薬が作られましたが、現在は利用されていません。一方、地衣類が作る化学成分(多糖類)の中には抗ガン作用があると報告されているものもあります。しかし、まだマウスレベルでの研究段階であり、実際に医薬品として利用するためには、さらに研究が必要と考えられます。

Q4. 遺伝子分析はどこまで進んでいるのですか?
A4.
他の生物群と同様に、地衣類でも遺伝子を利用した研究が盛んに行われるようになりました。しかし、その多くは地衣類の系統進化や分類学的研究に利用されるにとどまっており、遺伝子資源としての研究は今後の課題として残されています。

Q5. 地衣類は大気汚染に敏感といいますが?
A5.
地衣類は、菌と藻の共生という微妙な関係の上に成り立っている植物です。従って、環境の変化は二つの共生体に同時に作用するので、大気汚染には極めて敏感です。ウメノキゴケは、二酸化硫黄の量が0.02ppm以上の場所では衰退すると考えられています。一方で1970年代以降は大気汚染の改善が進み、特に2003年から実施されたディーゼル車規制以降には、都市部でもウメノキゴケなどの大型の地衣類の生育も確認されるようになりました。このように地衣類は大気汚染の移り変わりを反映する「環境指標生物」として利用されています。
地衣体はスポンジのような菌糸でできており、水や重金属を吸収しやすい構造を持っています。また、銅や亜鉛などの重金属も水と共に吸収して地衣体に蓄積することが知られています。

Q6. 歴史に出てくる地衣類を教えてください
A6.
もっとも古く知られている地衣類は、聖書に出てくるマンナと呼ばれる地衣類です。これは、ニセクボミゴケ科の固着地衣類の一種と考えられています。
また、屏風や絵巻に出てくる絵を注意深く観察すると、樹木の表面に地衣類らしい植物が描かれていることが多く、年を経た風景を印象づける表現に一役買っています(図14a、b)



図14  狩野永徳、檜図屏風(東京国立博物館)
八曲一隻/ 紙本着色/伝狩野永徳筆(でんかのうえいとくひつ)
縦169.5 横460.5/ 桃山時代 16世紀/ 国宝
描かれた地衣類(ウメノキゴケもしくはマツゲゴケ)
映画館のどんちょうや和室のふすまに描かれているマツやウメの幹をよく見ると 、老樹の感じを出すためにウメノキゴケやマツゲゴケと思われる地衣類が描かれているのが目に留まります。江戸時代の絵師たちも種類は知らなかったと思われますが、樹木が古くなると様々な地衣類が生育することを経験的に知っていたのだと思われます。
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Q7. 採集方法は?

A7.
生育場所や地衣体の形によって、地衣類の採取方法は異なってきます。
ハナゴケやエイランタイのように地上にゆるく付着するものは、素手で簡単に採集できます。しかし、基物に張り付いている種類や固着地衣類は、皮裁包丁やボタンノミで削り取るように採集します。岩上生の種は、ハンマーとたがねを使って岩ごと割って採集します。この時、標本としての保存を考えて、基物の岩の厚さを2cm以下にするように注意します。


Q8. 標本の作り方は?
A8.
水洗いしたあと、乾燥してさく葉標本として保存します(図15)。 岩や樹皮上に密着している標本は、基物ごとはぎ取り、厚手の紙に貼って保存します。 このようにすると標本を痛めることが少なくなります。 標本袋には種名や採集地の情報を書き込んだラベルを貼り、台紙にはって整理保管します。


図15 ストラップを利用したさく葉


図16 標本乾燥用作業袋の作り方

採集した標本は、水洗い後、新聞紙にはさんで軽く重しをして乾燥させます。新聞紙は毎日乾燥したものに取り替えます。また、新聞紙で作った(図16)のような袋に採集品を入れ、そのまま軽く重しをして乾燥させることもできます。採集した地衣類は、湿ったまま保管するとすぐにカビが生えるので、こまめに新聞紙を替えなければなりません。また、乾燥するときには、厚さ2cmほどの本を載せる程度がよく、重い石などを載せると標本が痛むので注意しましょう。 採取した標本は標本袋(図17a,b)に入れ、ラベルを貼って保管します。ラベルには種名、採集地名、基物名、高度、採集日、採集者名などを記入しておきましょう(図17c)。


図17 標本袋の折り方
縦31.5cm、横21cmの紙(スピカボンド 50kg程度の紙、
クラフト用紙でもよい)をa→bのように点線に沿って折る。
ラベルをはってできあがり(c) 。


 
国立科学博物館