2010-03-01

ダイオウイカ ― 深海のミステリー (協力:動物研究部 窪寺恒己)

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ダイオウイカを撮影する
ダイオウイカの生態と謎

ダイオウイカの生態と謎


分類:
 ダイオウイカはツツイカ目開眼亜目ダイオウイカ科に属します。
 窪寺グループ長による調査・研究で,日本近海のダイオウイカは外套長と腕の長さの比率やひれの形などから複数種,または複数亜種いるらしいことが示唆されています。
 腕が比較的細く長い個体と,太く短い個体とを見比べてみると,素人目に見ても同じ種類ではないように見えます。しかしそれらの個体のミトコンドリアDNAを比較してみたところ,見た目の違うダイオウイカ同士でも,日本と海外で採集されたもの同士でも,DNAの塩基配列にはほとんど違いがなかったのだそうです。
 ミトコンドリアDNAの一部領域が同じだったからと言って,必ずしも同じ種であるとは限りません。他の遺伝子も解析すれば違いが見つかる可能性もあります。見た目の違いが種の違いなのか,個体差なのかは今のところ結論が出ないとのことです。

食う・食われる:
 2004年の映像と2006年の釣獲から,窪寺調査チームはダイオウイカが日中,水深650〜900メートルの中層域で餌を採っていることはほぼ確実であると結論づけました。これはマッコウクジラが日中潜水する深度ともほぼ重なっています。
 調査チームによれば,ダイオウイカが何を食べているのかについての情報は未だ十分ではないと言います。しかし,2004年には仕掛け針に掛けられたスルメイカ,2006年には針に掛かって弱ったアカイカを捕食しようとしていることから,自分より小型のイカ類を好んで食べている可能性は低くないとのことでした。また,漂着個体などからは,小型のソコダラ類を食べていたという記録も残っているそうです。
 一方でマッコウクジラはやはり天敵である可能性が高そうに思えます。マッコウクジラが確実にダイオウイカを捕食していることを証明するためには,現場が観察される,あるいは撮影されるまで待つ必要があるのでしょうが,潜航深度が重なっていること,マッコウクジラの胃内容物からダイオウイカの肉片が見つかることなどを聞くと,マッコウクジラとダイオウイカが深海で戦う姿をつい想像してみたくなります。
 私たち人間はどうなのでしょうか?窪寺グループ長の体験では,アンモニア臭く,とても食べられたものではなかったとのことです。ダイオウイカの筋肉には,深海で浮力を保つため,アンモニアを含んだ細胞が分布しているためとのことでした。

運動能力:
 写真・動画が撮影される以前は,筋肉にアンモニアが含まれることから,ダイオウイカは筋肉に締まりがなく,それほど活発に動き回ることはできないと推測されて来ました。触腕も体からだらりと垂れ下がった状態で,自分より下層にいる生き物を捕える為に使う程度のものだと考えられていました。
 しかし前頁でもご紹介している通り,窪寺調査チームは2004年に撮影した写真から,ダイオウイカが自分とほぼ水平の位置にいる獲物に触腕で攻撃しているらしいこと,更には獲物を補足した後,触腕を丸めて抱え込み,口元に引き寄せているらしいことが判ったと発表しました。その様子は,大蛇が餌を捕えた後に体を丸め,獲物を締め上げて弱らせる行動にも良く似ているように見えたそうです。そうだとすればダイオウイカはこれまでの想像に反して,活発な捕食者なのかも知れません。
 ダイオウイカがそうしているかどうかは確かめられていませんが,多くのイカ類は漏斗からの水の噴出と,ヒレの羽ばたきを使って素早く,自在に泳ぐことができます。針に掛かった触腕を自分の遊泳力で引き千切って逃げた可能性があること,また2006年の動画で,漏斗から大量の水を噴き出している様子から,ダイオウイカも高い遊泳能力を持っている可能性が示唆されています。

性別:
 窪寺グループ長によれば,2006年に釣獲されたダイオウイカは,外套膜の内側に未発達の卵巣が確認されたため,未だ成熟していないメスだったことが判ったそうです。また,他の個体でも性別は判っている場合が多く,全体としてメスの方が,オスより大きくなる傾向があるとのことです。
 2004年の画像に映った個体については性別が判る写真はなかったとのことですが,外套長が1.7メートルと大型なことから,恐らくメスと考えて良いだろうとのことでした。

その他:
 2006年の個体では触腕は失われていたと先に紹介しましたが,調査チームの報告によると,つけ根から切れた傷痕のうち一方は治りかけていたそうです。他の腕で獲物を獲っていたことから考えても,触腕を失うことは捕食や遊泳にとって致命的とはならないのではないかとのことでした。しかしこの個体は未成熟であり,このまま生き続けた場合,触腕の揃った個体と同程度の大きさまで成長できたかどうか,成熟後の繁殖に支障がなかったかどうかは判らないとのことです。


 このようにして少しずつ生態が明らかとなってきたダイオウイカですが,残された謎もまだまだ沢山あります。
 窪寺グループ長は今後もダイオウイカの研究を続けていくとのことですので,新たな発見,謎の解明にこれからもどうぞご期待ください。


写真:漏斗から水を噴くダイオウイカ。2006年の釣獲個体(提供:窪寺恒己)
※画像のダウンロード,転載はご遠慮ください。

(研究推進課 西村美里)


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