2009-05-15

目が離せない恐竜発掘・研究事情(協力:地学研究部 冨田幸光,真鍋真)


恐竜の化石からコラーゲンの採取に成功

 アメリカの約8,000万年前の地層から発見されたハドロサウルス類の植物食恐竜,ブラキロフォサウルス(※5)の大腿骨の化石からコラーゲンが発見され,今年5月,アメリカ,ノースカロライナ州立大学のシュヴァイツァーらによって『Science』誌に発表されました。
 コラーゲンは脊椎動物をはじめ多くの多細胞生物の身体に含まれる物質で,皮膚や骨・軟骨・腱などを形づくっているタンパク質のひとつです。

 恐竜化石から有機物が発見されたのは,これが初めてではありません。シュヴァイツァーらのチームは2年前にも,6,800万年前のティラノサウルスの化石からタンパク質を発見しています。
 しかしタンパク質などの有機物は,その生物の死後短期間のうちに腐敗,または分解されてしまうのが普通です。「ティラノサウルスの有機物」には,多くの疑問が提示されることになりました。そもそもそれほど長い間,分解されなかったとは考えにくいこと。骨格が化石化してから発見・調査・研究されるまでの間に,何らかの別の生物に由来する有機物によって汚染された可能性があることなどです。

 そこで今回シュヴァイツァーのチームは,タンパク質が確かに化石に由来するものであることを確かめる為,非常に注意深い発掘・調査を行いました。地表から7メートル近い深さに埋まっていた化石が外気に触れてしまわないよう,掘り出す際には周囲の砂岩を10センチ以上残すようにしました。クリーニングは無菌室内で,滅菌された器具を使って行いました。取り出した化石は密閉容器の中に,乾燥剤と共に保管しました。また,サンプルはアメリカ,イギリスの複数の研究機関で分析を行ないました。
 このようにして保護された化石を電子顕微鏡で観察したところ,現在のダチョウのものと良く似た骨組織,血管が観察できました。血管の構造や骨を構成する骨細胞も,ダチョウと良く似たものでした。
 アミノ酸配列などを調査するため,組織内に含まれていた物質を分析したところ,今回の物質が以前ティラノサウルスで発見された物質に近い性質を持っていること,更には現生のダチョウのコラーゲンとも良く似た性質であることがわかりました。現生のワニなど爬虫類とも比較しましたが,鳥と比べると類似性は強いものではありませんでした。

 最初の発見で批判的だった研究者も,今回の発見には今のところ,未だ賛成ではないものの,否定的になる理由は特にないという態度をとっています。


 今回のコラーゲンから得られたアミノ酸配列などの情報は断片的なものです。「恐竜のタンパク質」と聞くと,クローン作りによる恐竜の復活を想像したくもなりますが,残念ながら今回の発見はクローン作りに結びつくものではありません。
 しかし,一部とはいえ恐竜の身体を形づくった物質が,8,000万年の時を越えて観察できたことには大きな意味があります。今後他の恐竜の化石からも生体物質の発見が続けば,恐竜の種同士の関係や,鳥をはじめとする他の生物と恐竜との関係がより詳しく判るようになるかも知れません。

※5 ブラキロフォサウルスは当館にはありませんが,同じハドロサウルス類のヒパクロサウルスの全身復元骨格(親子と想像される大小3個体)とランベオサウルスの頭骨を地球館地下1階で展示しています。


図:地球館地下1階に展示中のヒパクロサウルス(撮影・加工 大橋智之)

(研究推進課 西村美里)