2008-07-25

皇居のタヌキ その生態 (協力:動物研究部 川田伸一郎)


タヌキの行動・食性調査

 2007年,餌で誘い込まれトラップに掛かった1匹のタヌキ(成体・オス)に,電波発信機を取り付けて放しました。以降毎月,1ヶ月に連続して3夜,発信機からの電波を頼りにタヌキの居場所を追跡する調査を行っています。

 調査は皇居内の3地点で,タヌキからの電波を受信するためのアンテナと受信機を使って行います。15分毎に電波の角度,強度,及び安定性を計測,記録します。
 実際には電波をキャッチすると受信機から「ピッ,ピッ」と音がするのですが,その音はタヌキのいる方向にアンテナが向いている時に大きくなるため,様々な方向にアンテナを振って音の大きさを比較することで角度がわかります。またアンテナからタヌキまでの距離が近いときにも音が大きくなります。
 安定性は連続する電波のパルスが同じ強度で来ているかどうかで調べます。変化がなければタヌキは休息しており,電波強度に揺れがあればタヌキは活動しているとわかります。
 もし音が弱くなったり聞こえなくなってしまった場合は,タヌキとの距離が離れすぎたり,タヌキと計測者との間に何らかの障害物があることを意味しているため,計測地点を移動します。3ヶ所それぞれで連絡を取り合ってデータを共有し,三角形の内側に常にタヌキが入っているようにします(図)。

 これまでの調査から,冬から春,春から初夏へと暖かくなっていくにつれ,タヌキの行動範囲は広がっているらしいことが判りました。しかしこのタヌキは皇居から脱出することはありませんでした。
 皇居内には道路や門など人間のための構造物・仕切りがありますが,水の枯れた地下水路や土管などを利用して,タヌキは皇居内を自由に動き回ることができるようです。


 タヌキの糞の中に残されている,消化されずに排せつされた餌の残りかすから,タヌキが何を食べたのか,1年を通じて食べ物がどのように変化するのかを探る調査も行われました。ため糞場は皇居の全域に散らばっており,特に吹上地区に多く見られました。
 ため糞場から毎月10個程度の糞を回収し,糞に含まれているものが動物なのか植物なのか,或いは人工物なのかを同定しました。
 タヌキはその季節に応じて,様々な動物・植物を食べていることが判りました。

 動物質で最も目立つのは昆虫でした。オサムシやシデムシ・ハネカクシの仲間など,見つかった種は60種近くにもなりました。哺乳類が餌とされることは少なく,アズマモグラとクマネズミが僅かにみられました。鳥は1月〜4月に多く,カラスやハト・サギ類・メジロなどが見つかっています。タヌキが捕らえた,というのではなく,死体を漁ったのでしょう。爬虫類・両生類はいずれも夏にごく僅か,カタツムリやタニシなどの貝類は年間を通じて散発的にみられました。
 植物質の餌は主に果実や種子です。ムクノキ・タブノキ・イチョウなどの種子,またはそのかけらが出てきました。植物の葉も一部利用しているようです。
 人間の食べ物や家畜の飼料に由来するものは見つからず,人工物もビニール片などが若干見つかっただけでした。皇居のタヌキはヒトに依存することなく,自然の餌だけで生きていくことができているようです。


写真:アンテナと受信機
図:3地点調査概念図

参考:
Bulletin of the National Museum of Nature and Science
Series A (Zoology), 34(2)