2010-05-15

孤島に生き残っていた小型人類ホモ・フロレシエンシスの謎


どんなところから発見されたの?---- 実際の発掘現場

 フローレス島西部にある町ルテンから北西7km、海抜500mの位置に、石灰岩からなるリャンブア洞窟があります。“リャンブア”とは現地の言葉で、「つめたい洞窟」という意味です。ここから発見されました。

■ リャンブア(Liang Bua)洞窟とは?
 奥行き40m、入口は25m幅あり、広い洞窟です。この洞窟は、大変空気の循環がよく、住みやすい環境であったようです。その周辺では、石器を作るのに適した石、チャート、玉石、安山岩がとれます。水源になっているラチャン川は、地元の人の水田や生活用水に使われています。もともとは地下に形成された洞窟でしたが、川の流れの変化で一部が削られ、北側が開いて洞窟ができました。

■ 発掘調査はどんなふうに行われるの?
 1960年代から、この洞窟内をいくつものグリット(区画)に区切って、発掘調査が行われています。その結果、こちらの洞窟からは、なんと2種類の人類が発見されたのです。1つは、1万年前より新しい地層から出現しているホモ・サピエンス、そして、もう1種類が、10万〜1万数千年前の地層から発見された、今話題となっているホモ・フロレシエンシスです。

 洞窟の東壁に近いグリッドからは、もっとも保存の良い全身骨格化石であるLB1(リャンブア1号)を含め、様々な発見がありました。このグリッドは現時点で9.5m掘っており、1.5mごとに足場となるステップが作られて、深い発掘現場に一気に下まで落ちないようになっています。

■ 発掘の始め方、進め方
 他のグリッド(区画)の掘り出された土などが混ざらないように(特に違う時代のものが混ざらないように)、掘り始める場所を清掃してから発掘が始まります。10cm程度の深さ、あるいは自然の地層ごとに少しずつ掘り進みます。何か発見された場合は、立体的に座標をとって丁寧に記録をとります。どの層のどの部分に、どんな形でみつかったかの情報は化石を理解するためにとても重要だからです。

 同様に発見される動物化石も、化石自体が壊れないように接着剤で固めてからとりだします。その後ベースキャンプでクリーニング作業が行われます。地層中から炭化物がみつかれば炭素C14による年代測定ができ、地層の年代(いつ頃堆積したのか)を決めることができます。保存された状態のままから、正確に情報を取り出すため、汚染(違う異物が混ざってしまうこと)がないように、きれいな道具を使って作業します。

 掘った場所だけを検討するのではなく、もちろん発掘で出てきた土も、小さな遺物が含まれていないか調査します。重さを量った後、専門の担当者が篩にかけて石器などを見つけます。数センチレベルの大きなかけらを調べたあとに、細かく調べるために2−3mmの篩にかけて、細かい破片なども丁寧に収集します。さらに、水洗ふるいを行ってもっと細かく調べて出てきたものは見逃しません。

■ 実際発見された様子は?
 ホモ・フロレシエンシスの地層の調査は特にメディアに注目されています。でも、その上のホモ・サピエンスの地層の出土遺物も大変重要なのです。上層からはイノシシ、サル、ヤマアラシ、ジャコウネコなど、人が持ち込んだと考えられる動物の骨が出ています。現代人の骨は9500年前が最古ですが、この島で埋葬された例として最古であるなど大変興味深いものです。その2つの層の間には、大量のタフ(火山灰)の層が挟まっていて、2つの層が全く違う時代であることが分かります。このタフは3mの厚さがあり、細かい白いタフの層と下の粗い黒い層からなります。

 黒い層の下からステゴドン(絶滅したゾウ)、コモドオオトカゲ、巨大なラット、ハゲコウ(腐肉食の巨鳥)、カメ、そしてホモ・フロレシエンシスが見つかっています。フローレス島のような孤島では、動物の体のサイズが極端に小さくなったり大きくなったりすることがあります。リャンブアでも、ラット、ハゲコウ、トカゲは大きくなっていますが、ステゴドンは小さくなっていました。ステゴドンの化石は多数見つかっていますが、その大半が幼獣のもので、ホモ・フロレシエンシスが狩って持ち込んだのではないかと考えられています。

 そして・・・ホモ・フロレシエンシス、もっとも保存が良くタイプ標本となった LB1(リャンブア1号)の全身骨格化石は、地表下約6mの地点で見つかりました!一部の骨は間接した状態で発見されましたが、大変もろかったので固めてから掘り出されました。取り上げは慎重に、3つに分けて1週間もかかって行われました。頭の骨は手に乗るぐらい小さな骨です。LB1以外の別個体の顎や脚の骨も、みなとても小さな個体でした。そこで、あだ名が“ホビット”とつけられています。