ゲリラ豪雨と積乱雲−突然の雨・雷に注意!− (協力:理工学研究部 前島正裕)
異常に高かった雷雨率
2008年,夏。東京都心は記録的な頻度の雷と大雨に見舞われています。
平年であれば7月の東京での雷の観測日は2.3日ですが,今年は7日と約3倍,この50年間でも最も多い観測数となりました(気象庁統計)。
8月に入ってもこの傾向は続いており,雷を伴った局地的な激しい雨により床上・床下浸水や交通の乱れ,落雷による停電や家電の故障などが相次いでいます。
雨については降っている範囲は非常に狭く,また降る時間も長続きしません。その一方で単位時間あたりの雨量が非常に多いのが特徴です。
急に降り出し,対策をとる時間のないまま大雨に襲われることから,『ゲリラ豪雨(ゲリラ雷雨)』と呼ばれ,被害への懸念が強まっています。
東京都豊島区で下水道工事の方々5人が犠牲となった8月5日の大雨では,雨が降り出したのは事故が起こる僅か10分前,11時30分前後のことでした。この時下水管内では,水の深さは膝下約30センチしかなかったといいます。ところが事故が起こった11時40分頃には,水かさは腰付近まで上がっていました。
レーダーの記録を見ても11時20分の時点までは付近に雨雲は映っていません。雨雲はそれから十数分で急速に発達し,事故時には1時間に約60ミリという非常に激しい雨(※1)を降らせるまでになっていました。
この雷と雨の原因のひとつは太平洋上に存在する太平洋高気圧(正式には北太平洋高気圧。南半球の太平洋上には南太平洋高気圧が存在します)の勢力が例年より弱いことにあります。
太平洋高気圧は温暖で乾燥した気候をもたらす高気圧で,中心はハワイ諸島近辺の北太平洋上にあり,そこから東西に張り出して日本を含め北太平洋沿岸地域の夏の気候を支配しています。
太平洋高気圧の影響下に入ると,乾燥してほとんど雲のない,高温の晴天が広がります。しかし高気圧の周辺部では,温められた海面から発生した水蒸気が高気圧からの噴出しの風によって流れ込んでくるため蒸し暑くなります。これにより大気の状態が不安定(詳細後述)となり,雷雲が発生しやすくなるのです。
またもうひとつの理由として,例年であれば西日本から東日本に向けてほぼ真っ直ぐに吹いているジェット気流が大きく南に蛇行していることを挙げる研究者もいます。
ジェット気流は対流圏上層にある強い偏西風の流れで,北極方面からの冷たい寒気の日本への流れ込みを抑えています。これが南に後退すると,上空に寒気が入りやすくなり,大気の状態が不安定になります。
※1 気象庁の予報用語でいう雨の強さは,1時間あたりの雨量を基準に6段階に区分されています。1時間あたり3ミリ未満なら『弱い雨(小雨)』,10ミリから20ミリなら『やや強い雨』,20ミリから30ミリで『強い雨』,30ミリから50ミリで『激しい雨』,50ミリから80ミリが『非常に激しい雨』,80ミリ以上は『猛烈な雨』となります。
また,数値ではなく体感で表すと,傘があっても濡れてしまうのが『強い雨』,「バケツをひっくり返したよう」だったり,道路に川のように水が流れるのが『激しい雨』です。『非常に激しい雨』になると,落ちる水は滝のようになり,水飛沫で空気が白く濁るように感じられます。(松山地方気象台 気象と気象用語)
図:2008年8月5日,東京都豊島区雑司ヶ谷付近の降雨の時間変化
横軸:時間 縦軸左(赤):降雨の強度 右(青):降雨量の積算
(独立行政法人防災科学技術研究所ホームページより転載)